第8回:専門家が語る「クリーンディーゼル」
大切なのは、選択肢が増えること 2015.08.13 徹底検証! ボルボのディーゼル クリーンディーゼル普及促進協議会 会長東京工業大学 ソリューション研究機構 特任教授
一般社団法人レジリエンスジャパン推進協議会 事務局長
金谷年展(かなや としのぶ)さん
環境問題とエネルギー戦略の専門家がボルボの最新ディーゼルモデルに試乗。クリーンディーゼルをさらに普及させるための課題と、今日の日本においてディーゼルを選ぶ意義について語ってもらった。
乗ればわかる日進月歩の進化
ボルボが日本に導入したディーゼルモデル「V40 D4 SE」のステアリングホイールを握った金谷年展さんは、「静かで滑らか、素晴らしいフィーリングです」とすっかり感心した様子だった。
東京工業大学ソリューション研究機構の特任教授を務める金谷さんは、環境・エネルギーの専門家だ。著書に『世界を変える、クール・ソリューション―低炭素社会の新しい競争と選択』(ダイヤモンド社)や、共著に『ディーゼルこそが、地球を救う―なぜ、環境先進国はディーゼルを選択するのか?』(ダイヤモンド社)などがある。
「国内外のさまざまなディーゼル車に乗ってきましたが、今日初めてボルボのクルマに乗ってみて、ディーゼルの技術が日進月歩で進化していると実感しました。ディーゼルの発進加速が力強いことは知っていましたが、このクルマにはどこにも荒っぽいところがありません。そして、このどこまでもスピードが伸びそうな心地よい感覚……、ぜひ多くの方に体験していただきたいと思います」
そして金谷さんは、「このフィーリングを味わっていただきたいのはもちろんですが、ディーゼル乗用車が増えることは社会的にも意味があります」と続けた。
では、なぜディーゼル乗用車は増えるべきなのか。金谷さんによれば、4つの理由が挙げられるという。
まずひとつが、エネルギーバランスの最適化だ。
「原油を精製する過程では、必ず軽油が生まれます。最近は多少増えましたが、日本においては軽油を使うディーゼル乗用車は圧倒的な少数派です。すると、コストをかけて資源を消費しながら、軽油を別のエネルギーに変えなければなりません。ディーゼル乗用車が軽油を使えば、そんな無駄を省くことができます」
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ディーゼルを選ぶことには社会的な意義がある
2番目が、再生可能な自動車用燃料を作る可能性を広げられることだ。
「エネルギー問題の視点でいうと、今後は森林資源や廃棄物を用いるバイオマスが非常に重要な燃料源となります。実は水素と一酸化炭素をガス化して合成すると、軽油の代替燃料が作れるんですね。それがバイオマス・トゥ・リキッド(BTL)です。再生可能なエネルギーというと太陽光発電などに注目が集まりますが、森林資源に富んだ日本の環境を考えると、BTLには明るい未来があると思います。現在のディーゼル技術は、将来的には再生可能な自動車燃料の普及に役立つはずです」
また、バイオマス燃料が広まることは、燃料の地産地消にもつながるという。
「燃料を地産地消できるようになれば、災害があった時の備えになります。そういう意味でも、バイオマス燃料には大きな意味があります」
3番目が、燃料の多様化が災害への備えになるということだ。
「軽油はある程度の備蓄ができますが、ガソリンは難しい。ライフラインが途絶えた時に、乗用車の一定数がディーゼルになっていることは、災害に対して強いということができます」
そして4番目が、燃費のよさだ。
「これは読者のみなさんもご存じでしょうが、ディーゼルはガソリンに比べて圧倒的に燃費がいい。CO2の排出量削減という観点から、あるいはユーザーのみなさんの経済的負担の軽減という観点から、ディーゼル乗用車を推奨することは合理的です」
“普通の人”にディーゼルのよさを知ってほしい
金谷さんが『ディーゼルこそが、地球を救う―なぜ、環境先進国はディーゼルを選択するのか?』を上梓(じょうし)した2004年は、まだディーゼルが悪者扱いされる時代だった。「黒煙を吐き、ガラガラとうるさく、ブルブルと振動する時代遅れの産物」というのが当時のディーゼルに対するイメージだった。
けれどもいま、自動車専門サイトや自動車専門誌を読む人の多くが、それは間違った認識だと理解している。
「先ほどお話しした通り、ディーゼルは排出ガスの問題さえクリアできれば、非常に優れた原動機です。ボルボをはじめ、自動車メーカー各社のイノベーションで排出ガスの問題が払拭(ふっしょく)されたいま、ディーゼルはいいことばかりです。私はクリーンなディーゼルの普及を促進してきましたが、最近はいい方向にかなり流れが変わってきたと思います。ここであと一歩、クルマに興味はあるけれどマニアというほどではない方にディーゼルのよさを知っていただくと、普及の流れはさらに加速すると思います」
金谷さんは、だからこそ「ボルボが日本にディーゼルを投入したのは、絶好のタイミング」だと語気を強めた。
「北欧デザインのスタイリッシュなボルボにディーゼルが積まれれば、二子玉川の高島屋に買い物に行くような奥さまにもディーゼルを体験していただけます。ディーゼルの選択肢が増えるというのは本当に素晴らしいことで、いくら『ディーゼルがいい』と言われても乗ってみないとわからないんですね。選択肢が増えて、例えばディーラーでガソリン車とディーゼル車を乗り比べれば、その違いは一目瞭然。実は私も大昔はディーゼルに懐疑的でしたが、乗ってみたらむしろガソリン車の加速が物足りなく感じましたから」
幅広い選択肢から自分のスタイルに合う一台を
金谷さんは、選択肢が増えることがディーゼル普及のひとつのカギだと語る。ボルボの戦略も、選択肢を増やすことに重きを置いたもので、本日試乗しているV40だけでなく、「V40クロスカントリー」「S60」「V60」「XC60」と、主要な車種に一気にディーゼルモデルを導入するのだ。
ハッチバックからクロスオーバー、さらにはセダン、ツーリングワゴン、SUVまで、幅広いラインナップから自分のライフスタイルにフィットするディーゼル車を選ぶことができる。
最後に金谷さんは、V40 D4 SEを運転しながら「実はこのクルマでは、日本発の技術が重要な役割を果たしています」とまとめた。
「ディーゼルエンジンの制御技術ではデンソーが貢献し、8段のオートマチックトランスミッションはアイシン・エィ・ダブリュ製です。日本の優れたテクノロジー、モノ作りの精神が、クリーンディーゼルに寄与していることは知っておくべきでしょう」
そう言いながら、金谷さんは軽くアクセルペダルを踏み込んだ。V40 D4 SEは軽やかに速度を積み上げる。
このモデルが積む「D4」と呼ばれる2リッターのディーゼルターボエンジンの最大トルクは、40.8kgm。ボルボのガソリンエンジンで同等以上のスペックを探すと、3リッター6気筒ガソリンターボの44.9kgmということになる。
けれども燃費を比較すれば、V40 D4 SEが20.0km/リッターを記録するのに対して、3リッターのガソリン車は8.5~9.0km/リッターにとどまる(JC08モード)。
称賛に値するスペックを持つディーゼルエンジンは、多様な5種類のモデルに搭載される。金谷さんがおっしゃる通り、消費者は多様な選択肢を手にすることができたのだ。
(文とまとめ=サトータケシ/写真=荒川正幸)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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