BMW M135i(FR/8AT)
専門店は間違いない 2015.08.27 試乗記 3リッター直列6気筒ターボエンジンを搭載する「BMW 1シリーズ」の高性能モデル「M135i」に試乗。BMW M社の血統を受け継ぐ1シリーズのフラッグシップは、マイナーチェンジを受けてどこまで洗練されたのだろうか?帰りたくない
夕立に追われて尾根筋の雲を走り抜けたら、夏の夕陽に照らされた相模灘が蒼(あお)かった。蝉時雨が風に乗って熱気を吹き飛ばしている。帰りたくないなあ。いや、返したくないな、と思わずうろ覚えの演歌を口ずさむ。このまま山のあなたの空遠くまで走り続けたいと思うのは、夏休み時期特有の空の高さに誘われたからだけではない。こんなにジンワリと心動いたのは久しぶり、たしか前回は、あ、「M235i」だった。実はこの手に弱いのである。
もはや「BMW 5シリーズ」や「メルセデス・ベンツEクラス」のようなEセグメントでも2リッター以下の4気筒ダウンサイジングユニットが当たり前になっている現在、「フォルクスワーゲン・ゴルフ」とほぼ同じコンパクトなハッチバックボディーに3リッターの6気筒の、しかも直噴ターボエンジンが載っているなんて、それだけで贅沢(ぜいたく)この上ない。ノーマル系「1シリーズ」のエンジンは1.6リッターの直4ターボだから、このM135iのみ明らかに特別だ。それを示すのが「Mパフォーマンス・オートモービルズ」を表す「M」の文字である。これは3年ほど前に導入されたいわばサブブランドで、スタンダードモデルに設定されている「Mスポーツ」と真正「M」の間の高性能シリーズという位置づけだ。6気筒を積んだ1シリーズは当初からあったが、アウディの「S」やメルセデスの「AMGスポーツ」に対抗して隙間なくラインナップを埋める姿勢を明確にしたわけだ。
従来型の1シリーズ、すなわち2011年に登場した2代目は愛嬌(あいきょう)のある“ブサカワ”顔が特徴的だったが、今回のマイナーチェンジで他のBMW同様の精悍(せいかん)でアグレッシブな表情に改められ、リアコンビネーションランプなども最新デザインに統一された。それでも今やちっとも自己主張が強いとは感じられない。むしろ控えめである。ボディー各所のディテールにはキリリとした鋭さがあるが、一見した限りではごく普通の5ドアハッチバック。普通よりほんのわずかに低い車高(標準型より-10mm)やエアロダイナミックなバンパーまわりは、見る人が見なければ分からないレベルだ。コンパクトカーからミニバンまで、とにかくギラギラ目立とうと意気込む化粧の濃い車が溢(あふ)れている世の中では、それほど、というかまるで目立たない。「トヨタ・シエンタ」のほうがよほどやる気満々だろう。