ポルシェ911 GT3 RS(RR/7AT)
ここから先はあなた次第 2015.12.08 試乗記 「911 GT3」をベースに、さらなるパワーと軽量化で、よりいっそうどう猛に仕立てられた「911 GT3 RS」。いわばスポーツカーが終わり、レーシングカーが始まるところに位置づけられた“公道のレンシュポルト”を、箱根のワインディングロードで試した。「パドルニュートラル」の安心感は大きい
レーシングカーを公道で走らせる――クルマ好きならば誰でも一度は夢見る楽しみ方ではないだろうか。このGT3 RSはその究極というか、遊びで乗るにはちょっと高価すぎるが、裕福な環境下にある人にとってはもってこいの乗り物であろう。筆者もクルマ好きという点では人後に落ちない。過去には仕事でこの手の高性能車にいろいろ乗せてもらった。しかし70歳を過ぎた今となっては十分に性能を引き出して楽しむことはできない。リポートを引き受けたものの、一般的な読者の方々が要望するであろう興味の対象とはズレがあるかもしれないがご容赦ねがいたい。
911はスポーティーなツーリングクーペであって、本格的にスポーツカーとしての操縦感覚を求めるならばGT3を、というのが通説であるとしたら、GT3 RSはさらに硬派の、そのままでレース出場も可能な、公道走行用としては最も高性能なクルマということになる。久しぶりに911をMTで乗れるかもしれないと楽しみにしていたが、PDKだとわかってガッカリ。今や作動タイム的には人力で操作するよりも、電気機械任せの方が速くて効率的なのだろう。だからレースなどのタイム優先の考え方にはPDKの方が有利ということになる。
筆者がなぜMTを好むのかといえばタイム的な速さではなく、ダイレクトな感覚と自分の意思が反映されるからだ。機械頼みではなく自分の意思でコントロールすることに、スポーツカーを操縦する楽しみがあると思う。変速作業は最たるもので、この面白みを機械なんかに奪われてしまっては何にもならない。
しかし現行のGT3シリーズは少し進化した。パドルニュートラル・クラッチ解除機構はそのひとつ。今回もちろん試す機会はなかったし、サーキットであってもいろいろな救済デバイスが充実していてスピンするようなこともなかろうが、走行中にエンジンストップするような事態にいたっても、止まってほしくないのがドライバー心理だ。MT車ならばクラッチを切ればいいだけの話だが、AT車にはクラッチペダルがない。これも昔から911になじんできたわれわれシニアドライバーにとってはストレスである。セレクトレバーをNに戻すのではなく、パドル操作でニュートラルを得られる。これで安心感は大いに増した。OS(オーバーステア)やUS(アンダーステア)の極端なステア特性変化においても、MTならば瞬間的にクラッチを切って逃げる手もある。フェラーリは「360モデナ」の時代から両方のパドルを一緒に引けばニュートラルを選べた。もっとも、PDKになってからポルシェでスピンした経験はなく、実戦での効用を試したことはないが、可能性は安全のマージンであるから備わっていて損はない。普段の日常走行においても、とにかく自分で瞬時に動力を断てることの安心感は大きい。機械が勝手に動いてしまう余計なお世話もない方がいい。これらはMTを好むドライバー共通の望みだろう。
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