第24回:元リーフタクシー運転手、最新型リーフに仰天する(その2)
充電環境、激変!(都心ドライブ編)
2016.03.24
矢貫 隆の現場が俺を呼んでいる!?
航続可能距離の謎
なぜ北池袋なのかという話は後でするとして、「リーフ」を運転し、みなとみらいを出発した元リーフタクシー運転手、北池袋で首都高速道路5号線を降り、国道254号・川越街道を環七交差点(=都心を離れる方向)へと向け走りだしたと思ってもらいたい。
この時点でトリップメーターが示していた数字は45km(=日産自動車の地下駐車場からの数字)。真冬に営業中の初期型リーフタクシーなら1回目の急速充電に向かう頃だが、最新型リーフは大丈夫。バッテリー残量表示の目盛り12個のうち、まだ10個が残っている。電費計には1kWh当たりの電費が「平均7.6km」とでていた。ということは、積んでいるリチウムイオンバッテリーの容量は30kWhだから、そうは問屋が卸さないにしても、この調子で走り続けることが可能なら単純に30倍して228km先まで行けることになる。
どういうこと?
元リーフタクシー運転手は、スタート前の駐車場で、バッテリー残量表示の横に「202km」が表示されていたのを確認している。この状態での航続可能な距離は202kmですよと言っているわけだ。にもかかわらず、池袋の時点で、理屈のうえでは228km走れることになっている。
いや、それ以前に、事前情報として読んだ日産自動車のニュースリリースに「航続距離が280km(JC08モード)と大幅に向上」と記してあったし、2015年11月のwebCGニュ―ス『日産リーフに航続距離が長い新グレード登場』にも280kmと書いてあった。
いったい、この数字の違いはどうしたことかと考えて、そうだッ、と思い出した。
「たかし君、ちゃんと話を聞いてないと後で困りますよ」と、若くてすごくきれいな五十嵐先生は、中学時代の元リーフタクシー運転手を怒ったことが、そういえばあって、俺、どうもおとなしく説明を聞いていることができない質(たち)なのは子ども時分も年を重ねて「たかしさん」になった今も変わらないものだから、日産自動車の地下駐車場で広報担当の方が丁寧に説明してくれていたのを聞いているようで、実は注意深く耳を傾けてはいなかったのだと反省。
確か、彼はこう言っていた。
「202kmというのは、これまでの履歴から導き出された数字です」
つまり、徹底的に省エネ運転にこだわって走っていれば280km走れる理屈だけれど、実際にはそうはいかないわけで、いろいろな運転をする人たちが乗った結果、過去に乗車した彼らと同じ運転(=それぞれの運転によって異なる電費を平均したもの)をするとなると航続距離は202kmです、と、そう教えてくれているという意味だった。だから、私の運転だと228kmは走れる。何となく頭の片隅に記憶されていた彼の言葉の意味をそう理解し、いまさらながら五十嵐先生の言葉を反省とともにかみしめるのだった。
謎のお姉さん登場
目指したのは、かつて潜入取材で所属したタクシー会社がある地域。北池袋で首都高を降り、一路、東京の外れ板橋区方面に向かったわけである。
なぜ?
実はあの頃、あの頃というのはつまり、リーフタクシーで実際に営業を続けた2011年9月から2012年12月25日までのことなのだが、当時、所属したタクシー会社がある板橋区周辺は急速充電施設の過疎地だった。ヒーターを使う真冬なら40km、エアコンを使わない季節でも80kmも走ったら充電に向かわなければならなかったリーフタクシーだったが、急速充電器の設置場所は極端に偏りがあり、千代田区や中央区を中心とする東京駅周辺には山ほどあったけれど、板橋区には板橋中央陸橋(環七と川越街道の交差点)下の駐車場、その1カ所のみだったのだ。
果たして、今はどうなのか!?
それを自分の目で確認したいと考えた。
板橋区の大山あたりでリーフ専用カーナビの画面をチェックして、びっくり。急速充電器のマークがたくさん表示されているではないか。
え~ッ、こんなにたくさん!!
どうやら、日産の販売店には必ずあるようだ。
前出、日産自動車のニュースリリースには、こう書いてある。
「日産の販売店をはじめとし、コンビニエンスストア、高速道路、道の駅、商業施設に設置が進み、2015年8月末時点で急速充電器は約6000基、普通充電器は約9000基……」
こんなにあるなら、どうせなら、ちょっと変わったところを見てみたい。さて、どこがある?
悩んだ末に、過去の経験から、そうだ、こんなときは「謎のお姉さん」(リーフタクシーの営業日誌、第21回参照)に聞いてみるのがいちばん、と思い立つ。
リーフ専用カーナビの画面の端には「オペレーター」の表示(ヘッドセットのアイコン)があって、そこに触れると、どこの何者か正体不明の謎のお姉さんが登場し「はい、どうかなさいましたか」と聞いてくれた、あのお姉さん。
最新型も使い方はいっしょだ。聞けば、基本的に目的地設定や充電スポット探しなど、要望に応じてさまざまな情報を調べて教えてくれる。
尋ねてみた。
コンビニにあるのは知っているんですけど、ファミレスとかショッピングセンターの駐車場に急速充電できるとこ、ありますか――と。
「あります」
お姉さんはキリッと断じ、といっても即答したわけではない。問うた私を1分か2分ほど待たせ、彼女は「お待たせしました」に続けて驚きの答えを口にするのだった。
「板橋区徳丸のイオン板橋店の駐車場にございます」
え~ッ!!
まさに、え~ッ、なのである。
イオン板橋店といったら、私が潜入取材したタクシー会社のすぐ近所、直線距離でなら300mしか離れてない場所ではないか。わずか3年前、急速充電施設の過疎地だった板橋でさえ、この、うそのようなインフラの充実ぶり。
航続距離の延長ぶりにはもちろんびっくりだが、元リーフタクシー運転手は、それと同じくらい、充電環境の激変ぶりに驚かされたのだった。
(文=矢貫 隆)
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矢貫 隆
1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、ノンフィクションライターに。現在『CAR GRAPHIC』誌で「矢貫 隆のニッポンジドウシャ奇譚」を連載中。『自殺―生き残りの証言』(文春文庫)、『刑場に消ゆ』(文藝春秋)、『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。
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