ダイハツ・ブーンX“SA II”(FF/CVT)
“普段履き”のよさ
2016.05.30
試乗記
これまでトヨタとダイハツの共同開発車だった「ダイハツ・ブーン/トヨタ・パッソ」も、3代目となる新型はダイハツが企画、デザイン、開発、製造のすべてを担当することになった。軽自動車作りのノウハウを登録車ではどのように生かすことができたのか。その部分を俯瞰(ふかん)しながらハンドルを握ってみた。コストダウンはダイハツの十八番
初代ブーン/パッソはトヨタとダイハツの共同開発車として注目を浴び、2代目では企画とデザインをトヨタ、開発と生産をダイハツが行うことで両社それぞれが持つ他のモデル(トヨタでいえば「ヴィッツ」、ダイハツでいえば軽自動車)とバッティングしないよう、バランスを取ってきた。そして3代目、バランスを取っているという点は変わらないが、クルマ作りのすべてをダイハツが担当することで、トヨタ・パッソはOEM車というポジションになった。もちろん、こんなことは消費者にはあまり関係のない話ではあるが、ダイハツが作るということは、「軽自動車で得たノウハウを登録車に展開」することによる、大きなコストダウンが期待できる。
クルマの価値、特にこのクラスであれば、いやが応でも価格は重要なファクターだ。問題は、市場が要求する燃費性能や安全装備などをクリアした上で「ナンボでっか」という結果をユーザーが求めてくる点だ。国によってニーズはさまざまだが、日本のユーザーの目は肥えているし、要求も高い。
実際、新型では軽自動車におけるコスト削減ノウハウを積極的に活用したという。まずダイレクトに部品自体の低コスト化を実現して、ベース価格を大幅にダウン。そこから前述したように燃費性能や見栄え感を高め、安全装備を充実させることで商品力を向上させた。結果として登録車のコンパクトカーで115万200円(「X」グレード、FF)を達成したという。
エントリーグレードで“地力”を測る
大体の場合、エントリーグレードというものは装備も“貧弱”で、あくまでも価格コンシャスなものが多い。しかし、このクルマは軽自動車との差別化を図りつつ、登録車としてのコスパをどこまで高められるかも重要なファクターだ。ゆえに今回はそのエントリーグレードの「X」に注目し、そして先進安全装備はもはやマストアイテムであるので、ダイハツが持つ「スマートアシストII」が装備されたX“SA II”を編集部が用意してくれた。先進安全装備をメーカーオプションでなくグレード設定としている点は好意的に捉えられるが、もはや“レスグレード”などは必要ない。価格にうるさい軽自動車ユーザー同様、販売上はレス仕様も欲しいという現場(ディーラー)の声もわからなくはないが、もはや「全グレード標準装備、レスグレードの設定なし」の心意気が欲しい時代にきていると思う。
ドアを開けてシートに腰を下ろす。前も後ろも視界は広く、またフロントフェンダー上端部が見えるようボンネット形状が工夫されているので、車幅感覚もつかみやすい。インテリアに関しては正直「可もなく不可もなく」で、エアコンがマニュアル式というのも意外と割り切れる。このひとつ上に位置する「X“Lパッケージ”」「X“Lパッケージ SA II”」以上のグレードには、フルオートエアコンやキーフリーシステムほかいくつかの快適装備がプラスされるが、すぐ上の仕様でもプラス10万8000円という価格差は、このクルマの原点である「お求めやすい価格」からユーザーをやや遠ざける。後述するが、普段の足として使うのであれば、徹底的に使い倒し、なおかつ十分な性能、機能を持つエントリーグレードがこのクルマには似合っている気がする。
フロントシートもインパネの設計も好印象
また、全グレード共通で褒めたいのがカーナビと空調吹き出し口の絶妙な設計だ。カーナビの取り付け位置と空調の吹き出し口は、デザインや開発の立場から「一等地」を奪い合うと議論される場所である。ナビの視線移動を重視して位置を上げれば、吹き出し口の位置が下がり、夏場などは腕に冷風があたって心地よさをそぐ。その逆もしかりではないが、吹き出し口を上げればナビの視線移動が大きくなる。くどくなったが、要はナビ取り付けスペースの両サイドに吹き出し口があるのが、筆者的は現状ベストな設計だと思っている。その点でも、このクルマには「よくぞこう設計した」と(心の中で)拍手を送っていた。
シートに関してはフロント側の出来がかなりいい。秀逸とまではいわないが、良質な仕上がりだ。形状そのものはなんの変哲もないものだが、着座すると臀部(でんぶ)周辺の支持がすこぶるいい。お尻全体をシート側が「つかむ」ような感覚である。同時に太もも周辺の体圧もうまく分散されるのだろう。腰痛持ちの筆者にとって、この座り心地はクセになりそう。そのくらい、知恵が詰まっている印象だ。
一方で、リアシートについてはもうひと頑張り欲しい。軽自動車では当たり前となっているスライド機構が非採用なのは、コスト低減と軽自動車より広いラゲッジスペースが確保できているからだろうが、肝心の座り心地がいまひとつなのだ。驚くほどに広い足元空間や3人乗車ができるという登録車のメリットを前面に押し出しているというのに、正直もったいないという気持ちである。
動力性能は「これで十分です」
パワートレインは、1.3リッターを廃止して1リッターの「1KR-FE」型に一本化したエンジンに、CVTを組み合わせたもの。形式的には旧型からの継承だが、直噴を使うことなく圧縮比を12.5に高め、吸気ポートのデュアルインジェクター&デュアルポート化などによって加速フィーリングも向上させている。静粛性に関しても、スロットルを大きく開けばそれなりにエンジン音が高まるのは当然として、普段使いであればエンジンの音も、CVTのうなるような音もうまく抑え込んでいる。要は、狙ったのは街乗りの快適さということ。もちろん高速道路がダメと言っているわけではないが、このクルマはとにかく「普段の街乗り」を重視したチューニング(ダイハツも言っている)で、ギンギン走るクルマとはベクトルがまったく異なる。
アイドリングストップに関しては、他のダイハツ車同様、停止前にエンジンがストップする仕組みとなっている。気になったのが、停止後にブレーキを踏み増すと(気温などの環境にもよるが)エンジンが再始動してしまうことで、このクセには慣れが必要だろう。ダイハツもその辺はわかっているようなので、いずれは再チューニングしてくることを期待したい。
またブーンはコーナリング性能をどうこう言うクルマでもないのだが、FF車では前後スタビライザーが全グレードに装着されており、車両安定性に寄与している。スタビは普通、コストダウンに際して真っ先にターゲットにされる部品のひとつだが、ダイハツは先代「ムーヴ」のビッグマイナーチェンジでもこれを新規に採用しており、筆者はこの点を非常に高く評価した。軽自動車のノウハウ……を公言しているのであれば当然かもしれないが、この辺のクルマづくり、好きである。
気になる燃費については、正直決して良いとは言えなかった。5月というのに夏日並みの暑さでエアコンはフル稼働、チョイ乗りを繰り返し、加減速も多い中では本来の実力は出せていないと思う。その前に試乗した際は20km/リッターを超えていたので、そのあたりが実力ではないだろうか。
新型ブーンの結論を言えば、どこか突出して優れているわけではないが、昔クラスにもいた「目立たないけど、皆に好かれている子」みたいな感じ。自分的にはいい意味で「究極の下駄(げた)グルマ」と感じた。多分乗っているうちにこのクルマのよさはじわじわと効いてくる気がする。
(文=高山正寛/写真=荒川正幸)
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テスト車のデータ
ダイハツ・ブーンX“SA II”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3650×1665×1525mm
ホイールベース:2490mm
車重:910kg
駆動方式:FF
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:69ps(51kW)/6000rpm
最大トルク:9.4kgm(92Nm)/4400rpm
タイヤ:(前)165/65R14 79S/(後)165/65R14 79S(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:28.0km/リッター(JC08モード)
価格:121万5000円/テスト車=148万4266円
オプション装備:ボディーカラー<プラムブラウンクリスタルマイカ>(3万2400円)/純正ナビ装着用アップグレードパック(2万9160円)/リアワイパー<リバース連動/間欠>(1万4040円) ※以下、販売店オプション ワイドスタンダードメモリーナビ(14万8673円)/ETC車載器<エントリーモデル>(1万7280円)/カーペットマット<高機能タイプ/グレージュ>(2万7713円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1013km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:235.4km
使用燃料:14.0リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:16.8km/リッター(満タン法)/17.2km/リッター(車載燃費計計測値)
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高山 正寛
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