DS 4シック DS LEDビジョンパッケージ(FF/6AT)
本当は骨太 2016.06.03 試乗記 イノベーションとアバンギャルドを持ち味とするDSシリーズが、シトロエンから独立してプレミアムカーブランドへ“昇格”した。ダブルシェブロン改め「DS」の二文字をフロントグリルに掲げた新生「DS 4」のステアリングを握る。新ブランド「DS」
似たような政党名にコロコロ変わる政治の世界に比べれば、会社名が変わったり、ブランドが統合されたりするほうがまだ分かりやすいと思える昨今である。シトロエンから独立した新しいブランドが「DSオートモビルズ」と名乗りを上げるのもそれなりに筋が通っているかもしれない。今後は新しい社名を「グループPSA」と変更し、その傘下にプジョー、シトロエン、そしてDSの3ブランドが並ぶ形になるという。だが、「1955年創業のDSのイノベーションとアバンギャルドという価値を継承し……」とうたっているニュースリリースを目にすると、実はシトロエンびいきの私からしても、正直いささか無理筋というか、牽強(けんきょう)付会の匂いがする。商売の都合で、今回の場合はもちろんプレミアム性を明確にするためにDSブランドを分離独立させたということは理解できても、歴史を都合よく脚色するのはあまり感心しない。
1955年とはパリサロンで「シトロエンDS」が発表された年のことなのだ。1955年は日本でいえば昭和30年、アメリカ車を小さくしたような観音開きの「クラウン」が発売されたちょうど同じ年にデビューしたDSは、ショー会場の「グランパレ」に舞い降りた宇宙船のようだったと評されたものだ。無論、当時は生まれていなかったからその現場にいたわけではないが、その何十年か後でも“常識外れぶり”には驚かされた。昭和30年当時なら、まさしく画期的でアバンギャルドな車だったことは間違いなく、今振り返っても彼我の差にがくぜんとするしかない。ただし、そもそも60年も前の車をブランドの象徴のように引き出されても、その現物に接したことのある人は今どれだけいるかが疑問だし、正しく伝えられるかどうかまるで予想がつかない。かつてのDSにあやかって、革新性を訴えることにどれほどの効果があるかといえば、何とも言えないというのが正直な気持ちである。
懐かしいリズム
DSブランドの独立に合わせて、ダブルシェブロンではない新たなエンブレムを与えられたのが新しいDS 4である。それに伴ってフロントグリルが変更され、ATなどに改良を受けたほか、「クロスバック」と称する、全高が30mmアップの“背高SUVバージョン”も追加された。もっとも、DS 4も全高1500mmと他に比べて若干背が高く、もともとクーペとSUVとセダンを融合したスタイルを主張してきた。4ドアながらリアドアのウィンドウは固定式であるのが特徴で、ドアハンドルもウィンドウフレーム後端に目立たないように配置されている。いわば“クロスオーバー”に分類される4ドアハッチバックである。
165ps(121kW)/6000rpmと24.5kgm(240Nm)/1400-3500rpmを生み出す1.6リッターDOHC直列4気筒ツインスクロールターボエンジンは従来通り、EAT6(エフィシェント・オートマチック・トランスミッション)と称する6段ATとの組み合わせも変わらないが、ATはロックアップ領域を拡大し、よりダイレクトなレスポンスを備えたという。
1.6リッターターボは「プジョー508」に搭載されているものと同じユニットだから、それよりずっとコンパクトなDS 4には十分な余裕を与えていることはいうまでもない。そのうえ6ATを介しての加速感には、最近のターボエンジン+DCTにありがちな急(せ)かされているような忙しさではなく、ちょうど適切な自然なレスポンスを感じる。いっぺんにキックダウンしてタタタンとシフトアップするのではなく、ジワーッと加速することも可能なその振る舞いにはなんとなく懐かしささえ覚える。
コンサバでいいじゃないか
一番平凡で“コンサバ”だなと感じるのが実はインテリアである。巨大なセンターパッドを持つステアリングホイールはひと昔前の雰囲気だし、無理やりはめ込んだ印象のカーナビゲーションなどもインテリアの統一感をそいでいる。しゃれてるな、とニヤリとできるところが見つけられない。まあ、今時フランス車だからお洒落(しゃれ)でなければならないなんて誰も言わないだろうけれど。もちろん、実用性には何の問題もない。どうにもなじめないプジョーの小径ステアリングホイールとメーターの位置関係を思えば、はるかにマシで使いやすいが、それにしてもなんというか平均的なインテリアである。奇妙なボビン型メーター、勝手にセンター位置に戻ってしまう1本スポークのステアリングホイール、自動ではキャンセルしないターンスイッチなど、面食らって戸惑いながらも、一度慣れるとクセになるといった、かつてのシトロエンを懐かしく思い出すのは私だけだろうか。
フロントシートのサイズは大きめ、後席はリアドアのウィンドウが固定式でサイズも小さいためにやや閉所感はあるが、スペースそのものはまずまず十分であり、窮屈な印象はない。“お洒落さん”に思われたいのかもしれないが、実は見た目以上に使える車である。
骨太さが好ましい
フラットに真っすぐ走る能力はさすがシトロエ……、おっとDSである。比較的コンパクトな割には、パキパキした鋭さを追求するのではなく、快適性重視ということがうかがえる。17インチのタイヤを持て余すのではと心配したがほとんど問題なかった。ただし道路の継ぎ目など左右両輪同時に段差を越える際のバシッという明確なハーシュは相変わらず。これはハイドロシトロエンの時代から共通する数少ない苦手科目である。
ハンドリングはちょうどいいぐらいに軽快で、頼もしい重厚感もある。ステアリングを切り込む時にわずかに段付き感があるが、優れた直進性を考えるなら私はまったく気にならない。高いアベレージを保ちながらどこまでも走る、といったロングドライブには打ってつけである。
LEDビジョンパッケージと名乗りながら、LEDはいわゆるポジションライトのみにとどまる点(ヘッドライトはバイキセノンのディレクショナルタイプ)、自動ブレーキ関係の安全装備が備わらないことなどは、プレミアムで先進的と名乗るにはちょっと物足りない。ブランド戦略が吉と出るかどうかは考え込まざるを得ないが、「アバンギャルド」というものは、口で言ったからといって身に付くわけではない。かといって革新的なテクノロジーがすぐに投入される予定もないはずだ。骨太で頼もしく、快適なDS 4は乗れば非常に好ましいが、その事実が宣伝文句の陰で見逃されはしないかという点が、今の私の一番の心配事である。
(文=高平高輝/写真=小林俊樹)
テスト車のデータ
DS 4シック DS LEDビジョンパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4285×1810×1500mm
ホイールベース:2610mm
車重:1370kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:165ps(121kW)/6000rpm
最大トルク:24.5kgm(240Nm)/1400-3500rpm
タイヤ:(前)215/55R17/(後)215/55R17(ミシュラン・プライマシーHP)
燃費:14.9km/リッター(JC08モード)
価格:326万円/テスト車=352万7300円
オプション装備:ボディーカラー<メタリックペイント/グリ プラチナム>(5万9400円)/SSDカーナビゲーション(19万7640円)/ETC(1万260円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1525km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:456.3km
使用燃料:35.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:13.0km/リッター(満タン法)、12.8km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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