第128回:史上最大の進化(!?)を遂げたタイプ991に密着 新型「ポルシェ911カレラ・テクニカルワークショップ」から
2011.11.07 エディターから一言第128回:史上最大の進化(!?)を遂げたタイプ991に密着新型「ポルシェ911カレラ・テクニカルワークショップ」から
キーワードは4つ
2011年10月中旬、筆者はポルシェの開発の本拠であるヴァイザッハへと赴き、新型「911カレラ」のテクニカルワークショップに参加した。この日はあくまで座学。ステアリングを握ることこそできなかったのだが、終わってみれば、完全に刷新された新型911カレラのすさまじい進化ぶりに大いに脱帽させられてしまったのだった。
新型911カレラの開発においては4つのキーワードが掲げられたという。すなわち「軽量設計」「効率」「エモーション」「パフォーマンス」である。
まずは「軽量設計」から見ていこう。新型911カレラの外寸は現行型より56mm長く、7mm低い。全幅は不変だ。ホイールベースは100mm増しの2450mm。しかし車両重量は「カレラS」のPDKで1415kgと、40kgの軽量化を実現している。
環境性能、安全性などへの対処で、本来なら計算上は58.4kgの増加になったはずだという。しかし新型911カレラは、ボディー、シャシー、エンジンなど全身にわたる軽量化で98kgを軽減し、差し引きマイナスを実現している。特に注目は全体の44%をアルミ製とした軽量ボディー構造。これは軽いだけでなく、曲げ13%、ねじり20%というボディー剛性アップをも両立しているのだ。
主に燃費という面で「効率」の向上ぶりも著しい。新型911カレラS PDKの燃費は8.7リッター/100km(約11.5km/リッター)を達成。現行型が10.2リッター/100km(9.8km/リッター)だから、約17%の改善だ。また、カレラPDKは8.2リッター/100km(約12.2km/リッター)を達成。ライバル達と比較しても抜きん出た数値を実現している。
大きな役割を果たしているのがパワートレインだ。エンジンは吸排気系を一新したほか、内部も大幅にリファイン。最適な運転温度を維持する温度管理の徹底など、制御系も大幅に進化している。さらにカレラでは排気量が3.4リッターへと縮小された。
6気筒オーケストラへようこそ
MTが7段化されたのもトピック。オートスタート/ストップ機能はPDK、MTのいずれにも標準装備。さらにPDKには「コースティング機能」も盛り込まれた。これはDレンジ走行中のアクセルオフ時にクラッチを切り惰性で走行することによって燃費を稼ぐ機能である。
そのほかにも、軽量化、Cd値を0.30から0.29に向上させた空力性能、初の電動パワーステアリングの採用、低転がり抵抗タイヤの装着等々、環境性能改善につながる要素は無数に挙げることができる。飛び道具があるわけではない。高効率化は、こうした細かな積み重ねによって実現されているのだ。
911というスポーツカーにとっては欠かせない「エモーション」という要素。ここへのこだわりも想像以上と言える。特に力が入れられたのはサウンド。エンジン始動、アイドリング、変速、負荷の変化といった状況に応じて音色とボリュームを変化させ、クルマの状況をドライバーに的確に伝えることが重視されたという。イベントの冒頭、技術開発担当取締役のV.ハッツ氏が「6気筒オーケストラへようこそ」と述べたのは、まさにその自信の表れだろう。
当然のことながら、何より重要なのは「パフォーマンス」だ。これを犠牲にしてまでの燃費追求は911にとってはあり得ないし、そもそもそれを高効率ということはできまい。これについては、最後に用意されたテストコースにおけるカレラS PDKの助手席同乗走行での印象とあわせて記していこう。
まず圧倒されたのは加速だ。弾けるような勢いはまさに軽さの恩恵。カレラSの3.8リッターユニットは、最高出力も15psプラスとなる400psを実現しているから、その後の速度の乗りも一枚上手だ。透明度の増したフラット6サウンドもたまらない。
空力の効果も無視はできない。Cd値が0.29へと改善され、ドラッグは4%、リフトは28%低減されている。20mmローダウンとなる「PASM」スポーツシャシーを装着すれば、ドラッグはさらに小さく、リフト量もゼロに。120km/hを超えるとボディー後端部に移されたリアスポイラーが開き、ダウンフォースまで生み出されるのだ。
ちなみにカレラも3.4リッターへと排気量ダウンしながら最高出力は350psと5ps上乗せされている。軽量化も考えれば動力性能の向上ぶりは推して知るべし、である。
ニュル7分40秒は伊達じゃない
ブレーキングも強力だ。「PCCB(ポルシェ・セラミック・コンポジット・ブレーキ)」装着車とカレラSは、前6ピストン/後4ピストンキャリパーに前400mmという大径のローターを採用。効きが素晴らしいばかりでなく、ホイールベースが伸びた恩恵で挙動もきわめて安定している。
ステアリングの手応えはさすがに想像するしかないが、ハーフウェットの路面での微妙なコントロールを見ていると、これも期待を裏切ることはなさそう。そして、コーナリングも想像をはるかに超えた次元にあった。低重心化、フロントトレッドの拡大により前輪の食いつきは抜群。新採用の可変スタビライザー「PDCC(ポルシェ・ダイナミック・シャシー・コントロール)」の効果も大きいのだろう。ロール感はほとんど無く、すさまじい速さで旋回していく。この感覚は、まるでレーシングカート。ホイールベースが伸びて遠くなったはずの後輪が、自分の真後ろにあるかのような一体感には感動すら覚えてしまった。
立ち上がりの鋭さも文句なし。元々のリア荷重の大きさに加えて、電子制御LSDとブレーキ制御によって左右後輪間のトルク配分を行う「PTV Plus(ポルシェ・トルク・ベクタリング・プラス)」の効果も相まって、のけぞるほどの加速がまた始まるのだ。ニュルブルクリンク北コースでの7分40秒という先代「911ターボ」にも匹敵するラップタイムは、実際に体験してみて、十分にリアリティーをもって感じられたのだった。
走行はあっという間に終了し、導入路を戻る。乗り心地は硬さの中にしなやかさがあり、ロードノイズもきわめて低く、車内は実に快適だ。しかもDレンジでアクセルオフすればクルマは惰性走行に入り、停車すればエンジンも速やかに停止する。さっきまでのすさまじい走りが嘘のよう。これが新しい911カレラが身に付けた、誇るべき二面性である。
見た目の新鮮味には正直いって乏しい。しかし中身の進化は想像以上。歴史上、最大の進化を果たしたと言っていいかもしれない。そんなわけで、まだ自分では1メートルも動かしていないのに、早くも新型911に大いに魅了されてしまったのだった。
(文=島下泰久/写真=ポルシェ・ジャパン)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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