【F1 2016 続報】第18戦アメリカGP「ハミルトン、区切りの勝利」
2016.10.24 自動車ニュース![]() |
2016年10月23日、アメリカ・テキサス州オースティンにあるサーキット・オブ・ジ・アメリカズで行われたF1世界選手権第18戦アメリカGP。夏休み後のシーズン後半、パワーユニット交換のペナルティーやエンジンブローで多くのポイントを失ってきたメルセデスのルイス・ハミルトンが、およそ3カ月ぶりの優勝を飾った。彼にとっての通算50勝目は、今季の不運を過去のものとする意味でも区切りの勝利となった。
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■残り4戦、待ったなし
サーキット・オブ・ジ・アメリカズ、通称「COTA(コタ)」でアメリカGPが復活してから5年目を迎えた。巨大ハリケーンに見舞われた昨年はルイス・ハミルトンの3度目の戴冠の場となったオースティンも、今年は真逆の様相を呈していることは周知の通りである。
マレーシアGPでエンジンブローにより無得点に終わったハミルトンは、続く前戦日本GPでもポイントリーダーのニコ・ロズベルグに完敗し、ロズベルグに33点もの大差をつけられていた。残り4戦を全勝してもロズベルグが2位に入り続ければ逆転は不可能。待ったなしの状況に追い込まれたハミルトンには、まずはCOTAでの1勝が何としても必要だった。
もちろんハミルトンのドライバーとしての力量は疑いようがない。過去4度も最終戦までタイトル争いに絡んだ経験(2007年、2008年、2010年、2014年)は並ではない。最大のライバルであるハミルトンのポテンシャルを身をもって知っているロズベルグが気を緩めていないのも、また確かなところだろう。
ドライバーズタイトル争いが白熱する一方で、また違った緊張感をもってテキサスにやってきた一群がいた。アメリカを本拠とするF1チーム「ハース」がいよいよ母国でその勇姿を披露する日がきたのだ。開幕戦オーストラリアGP、第2戦バーレーンGPといきなり連続入賞し、周囲を驚かせたルーキーチームは、ロメ・グロジャンとエステバン・グティエレスのコンビでこれまで17レースを戦い28点を獲得。現在、コンストラクターズランキングでは11チーム中8位と健闘している。30年ぶりのアメリカンチームによるアメリカGP参戦ということもあり、地元ファンからは7月の第9戦オーストリアGP以来遠ざかっている入賞への期待が寄せられた。
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■ハミルトン、今季9回目のポールポジション
まずは予選で先制攻撃を決めたのはハミルトンだ。2年連続でロズベルグに奪われていたポールポジションを、0.216秒の差をつけて獲得した。今季9回目、通算58回目、テキサスでは初のポールとなった。ロズベルグは、急坂を登って左に曲がる特徴的なターン1でコースをはみ出し2位。高速での切り返しが続く最初のセクションで苦戦した。
続く3列目まではいつもの序列に。レッドブル同士の戦いはダニエル・リカルドに軍配が上がり予選3位、マックス・フェルスタッペンは4位につけた。3列目に並んだフェラーリ勢はキミ・ライコネンが5位、セバスチャン・ベッテルは6位。7位フォースインディアのニコ・ヒュルケンベルグに次いで、バルテリ・ボッタス8位、フェリッペ・マッサ9位とウィリアムズ勢が並び、トップ10の最後にはトロロッソのカルロス・サインツJr.がおさまった。
初の母国GP予選となったハースは、グティエレスが14番グリッド、グロジャンは17番グリッド。前戦日本GPでは2台そろってQ3に進出していただけに、やや残念なスタート位置となってしまった。
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■ロズベルグ、スタートで3位に後退
上位グリッドの大勢がスーパーソフトタイヤを履いてレースに臨んだのに対し、フロントローのメルセデス2台と4番グリッドのフェルスタッペンはソフトを選択。晴れ渡ったテキサスの空の下、22台のマシンが一斉にスタートを切ると、トップはハミルトン、蹴り出しのいいスーパーソフトのリカルドが2位に上がり、3位ロズベルグ、4位ライコネン、5位フェルスタッペン、6位ベッテルという順位でオープニングラップが終了。ロズベルグとの間にリカルドが入ってくれたことで、ハミルトンにとっては好都合な展開となった。
56周レースも始まったばかりの9周目にリカルド、ライコネンが最初のタイヤ交換のためピットへ。フェルスタッペンは翌周、2位ロズベルグは11周目、1位ハミルトンは12周目と、ソフトタイヤでスタートしたドライバーが早々にフレッシュなタイヤに履き替えた。最初のピットストップが終わると、トップはハミルトン、その4秒後方に2位リカルド、リーダーから6秒遅れて3位ロズベルグ、4位フェルスタッペン、5位ライコネン。ロズベルグのみ硬めのミディアム、その他はソフトタイヤを装着し、第2スティントに突入した。
20周目に近づくとフェルスタッペンが3位ロズベルグに接近。すかさずレッドブルは、ロズベルグよりライフの短いソフトタイヤを装着するフェルスタッペンに、タイヤをいたわりスティントを無事に終えるようにと無線でくぎを刺す。これに対し史上最年少ウィナーは「別に4位で終わるためにここにいるわけじゃない」と堂々と返した。トップドライバーとしての気概に富んだコメントだったが、図らずも別の意味で、この言葉は的中してしまった。
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■フェルスタッペンのリタイアをきっかけに、メルセデス1-2へ
26周目に2位リカルドが2度目のピットストップでミディアムタイヤに交換した。一足先にミディアムを履いてロングラン中だった3位ロズベルグとしては、目の前がクリアになったこのタイミングで着実にタイムを縮め、2位奪還を狙いたいところだったが、間もなくして好機がおとずれた。
30周目、フェルスタッペンのレッドブルがギアボックスのトラブルで突如スローダウン。表彰台どころか完走もできず、レッドブルはコース脇に止まってしまった。
ここで全車に徐行を義務付けるバーチャル・セーフティーカー(VSC)が出ると、メルセデスは2台を同時にピットに入れミディアムに換装。1位はハミルトンのまま、10秒後方でロズベルグが2位でコースに復帰、リカルドはチームメイトのリタイアをきっかけに3位に転落してしまった。
リタイアはこれが最後ではなかった。レースも終盤に入った39周目、4位走行中にピットに入ったライコネンのフェラーリがピットレーン途中でストップ。ホイールが締め切れていない状況でチームがゴーサインを出してしまうという初歩的なミスで、スクーデリアは手痛い取りこぼしを喫したのだった。
1位ハミルトンと2位ロズベルグのギャップは10秒から最終的に4.5秒まで削られたものの、順位は変わらないままチェッカードフラッグが振られた。
レース後、マレーシアでのようなエンジンブローの再来を最後まで心配していたと語ったハミルトン。これでロズベルグとのポイント差は26点、残る3戦で獲得できる75点満点の約3分の1まで減らすことができた。まだまだ大きな差だが、チャンピオンになるためには必須の、そして、過去の不運を振り切り前を向くためにはとても重要な、アメリカGPでの勝利となった。
そして、優勝争いには遠く及ばなかったが、ポイント圏最後の10位でゴールしたグロジャンとハースには、それぞれのチャンピオンシップポイントに1点が追加された。喜びと安堵(あんど)の表情を浮かべたグロジャンの顔に、また別のF1の戦いを見た気がした。
次戦メキシコGPは1週間後、10月30日に決勝が行われる。
(文=bg)