【F1 2016 続報】最終戦アブダビGP「ロズベルグ、11年目の初戴冠」
2016.11.28 自動車ニュース![]() |
2016年11月27日、アブダビのヤス・マリーナ・サーキットで行われたF1世界選手権第21戦アブダビGP。最終戦までもつれたメルセデス同士のタイトル争いは、最後の最後まで緊迫した展開を見せた。
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世界一の称号を勝ち取るために
ニコ・ロズベルグ対ルイス・ハミルトン、3年目のメルセデス同士のタイトル争奪戦は、史上最多21戦のレースが行われる2016年シーズンのファイナルラウンドにまでもつれ込んだ。初戴冠を狙うロズベルグはこれまでの20レースで367点を獲得。対して3年連続、4度目の栄冠を目指すハミルトンは355点と、12点差で迎えた大一番となった。
仮にハミルトンがアブダビで勝利しても、ロズベルグは3位以内で年間優勝を決めることができる。今季9勝、1レース平均で18点以上を稼ぎ、表彰台を逃したのは5回しかなく、ここ3レースすべてで2位という戦績を誇るロズベルグにとって、12点のギャップは余裕と思えなくもなかったが、歴史を少しひもといただけでも、ファイナルレースでのタイトル決定戦は一筋縄ではいかないことが分かる。
例えば、同じアブダビでの2010年最終戦、チャンピオンに最も近かったのは当時フェラーリのエースだったフェルナンド・アロンソ。ポイントリーダーとして8点のアドバンテージを持って乗り込んだこのレースで、2位以上でタイトルに手が届くという有利な立場にいながら、ランキング2位のマーク・ウェバーのレッドブルに気を取られて作戦を誤り、トップから15点差でランキング3位だったレッドブルのもう1台、セバスチャン・ベッテルが大逆転で世界王者となった。
2008年の最終戦ブラジルGPでは、5位以内で初タイトルを勝ち取ることができたハミルトンが「5位堅守」というコンサバなレースに終始。しかし終盤の雨でまさかの6位に後退、フェリッペ・マッサにタイトルを奪われかけたが、ファイナルラップで辛くも5位奪還に成功しチャンピオンに輝いた。またその前年には、ルーキーイヤーにチャンピオンの可能性があったランキング首位ハミルトンが、7点も差のあったキミ・ライコネンに栄冠をさらわれている(当時は1位に10点しか与えられず、今よりも状況は厳しかった)。
1950年から続くF1世界選手権の歴史の中で、最終戦でのタイトル決定はこれで29回目。この1戦ですべてが決まるという緊張、ひとつのミスが取り返しのつかない事態に直結してしまうという恐れ、ライバルを気にしすぎ自らのレースができないという雑念……これらプレッシャーを跳ねのけなければ世界一の称号を勝ち取ることはできない。GPウイークエンドを前に「アブダビでも勝利を目指す」と、全力で臨むことを宣言していた挑戦者ロズベルグ。相手となる難敵は、ハミルトンだけではなかった。
圧倒的に不利な状況にいたハミルトンには、ロズベルグとは逆に「最終戦の奇跡」も起こり得た。ただし自力ではチャンピオンになれないため、ライバルチーム、特にシーズン後半になって絶好調のレッドブルがロズベルグの順位を押し下げてくれること、あるいは今季ハミルトンが度々苦しめられたメカニカルトラブルがロズベルグのマシンに降りかかってくれることといった「助け」も必要とされていた。
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ハミルトン、まずは予選で今季12回目のポールポジション
まずは前哨戦となる予選ではハミルトンに軍配が上がった。Q3最初のアタックでロズベルグを0.3秒突き放し、続くセカンドアタックでもタイムアップを果たしながらただひとり1分38秒台に突入、ライバルの追随を許さなかった。ハミルトンは今季12回目、通算61回目のポールポジションを獲得し、自身のヒーローでもあるアイルトン・セナの歴代2位のポール記録にあと4つで肩を並べるまでになった。またメルセデスは21戦中20回目のポールで年間最多記録を更新した。
ロズベルグは0.3秒のギャップを詰められず予選2位。このままの順位でゴールすればワールドチャンピオンになれる計算だが、戦いのカギを握るライバルチームの動向、特にレッドブルの戦略は不気味に思えたに違いない。予選3位のダニエル・リカルド、6位のマックス・フェルスタッペンのスタートタイヤは、2番目にやわらかいスーパーソフト。一方最前列のメルセデス勢と、4位ライコネン、5位ベッテルのフェラーリ勢は「速いが長持ちしない」一番やわらかいウルトラソフトタイヤだ。失うものは何もないレッドブルが奇襲を仕掛けてくるかもしれない、そんな展開も考えられた。
続いてフォースインディアの2台、ニコ・ヒュルケンベルグが7位、セルジオ・ペレスは8位につけ、マクラーレンのアロンソは9位から入賞を目指すことに。そしてトップ10グリッドの最後には、このレースでF1を引退するウィリアムズのマッサがおさまった。
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スタートでメルセデス1-2、フェルスタッペンは最後尾から
今年で8回目となるトワイライトレース、アブダビGP。西日に照らされた22台のマシンが一斉にスタートを切ると、ハミルトン、ロズベルグは順当な滑り出しで1-2をキープ、その後ろにはライコネンが上がり、リカルドは4番手に落ちた。またフェルスタッペンはヒュルケンベルグと交錯しスピン、最後尾まで脱落。ストラテジーの異なるレッドブル勢にレースをかき乱されたくないロズベルグにとっては、まずまずのスタートといえた。
ウルトラソフト勢は早々にタイヤの替え時を迎え、55周レースの8周目に首位ハミルトンと3位ライコネン、翌周ロズベルグらが続々とピットに飛び込みソフトタイヤに換装した。大半が最初のピットストップを終えると、1位ハミルトン、2位はノンストップで走り続けているフェルスタッペン、3位ロズベルグ、4位ライコネン、5位リカルド。「フェルスタッペンは作戦が違うから、リスクを負わないように」というチームのアドバイス通り、ロズベルグはフェルスタッペンの後ろで無理せず周回を重ねた。
リードタイムを3秒としたトップのハミルトンは、やがてソフトタイヤのスライドを訴えるようになるが、よりタイヤが苦しかったのは2位フェルスタッペンの方だった。鼻っ面を押さえられしびれを切らした3位ロズベルグは20周目、レッドブルに思い切って仕掛け、見事2位奪取に成功した。3位に落ちたフェルスタッペンは22周目にようやく最初のピットインを行いソフトを装着、この時点で1ストップ作戦を採ることが見て取れた。
2位ロズベルグは、ファステストラップを更新し1位ハミルトンを追った。29周目になりハミルトンが2度目のピットイン、次の周でロズベルグもフレッシュなソフトタイヤに替えた2台は、このタイヤのままゴールを目指すことになった。
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孤軍奮闘、ハミルトンの「奇策」
レースの折り返しを過ぎてのトップは、ソフトタイヤで第2スティントをロングラン中だったベッテル。フェラーリが38周目にベッテルをピットに呼び込んだことで、再び1位ハミルトン、2位ロズベルグのメルセデス1-2に戻るのだが、ハミルトンの頼みの綱だったレッドブル勢はフェルスタッペン3位、リカルド4位で、ハミルトンの逆転はこのままでは不可能だった。
孤軍奮闘のハミルトンが考えついたのが「あえて遅く走る」という奇策だった。ハミルトンの後ろでペースを上げられない2位ロズベルグには、ヤングスターのフェルスタッペン、そしてフレッシュなスーパーソフトタイヤで猛追するベッテルが4位まで追い上げてきており、その間隔は見る見る狭まっていった。
残り数周、1位ハミルトン、2位ロズベルグ、3位フェルスタッペン、4位ベッテルまで3秒内にひしめく団子状態に。ロズベルグを表彰台とチャンピオンの座から引きずり下ろす可能性のある2台がメルセデス勢にひたひたと迫り、51周目にはベッテルがフェルスタッペンをかわして3位に上がると、緊張感はいよいよ増していった。
仮にベッテルに抜かれ3位に落ちてもロズベルグの年間優勝は変わらないが、何が起こるかわからないのが最終戦の怖さ。この事態を重くみたメルセデス首脳陣は、「ペースを上げなさい」とハミルトンに「命令」を出した。これに対しハミルトンは「どうせチャンピオンになれないんだから、このレースに勝とうが負けようが関係ない」と返答。敗北の時が近づくハミルトンの心中が穏やかではないことは明らかだった。
最終的にチェッカードフラッグが振られると、4位フェルスタッペンまでわずか1.6秒という僅差でのゴール。ハミルトンは今シーズンを4連勝で締めくくるも自身4度目のタイトルは逃し、2年連続でチームメイトに敗れていたロズベルグは2位で悲願の初タイトルを勝ち取った。
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33人目のワールドチャンピオン、2組目の親子王者
31歳のロズベルグが、GPデビュー11年目でようやく世界一の称号を手に入れた。これは12年目にして初(そして唯一)のタイトルを取った、ナイジェル・マンセル(1992年王者)に次ぐ遅咲きの記録となる。
過去2年、最速マシンであるメルセデスを与えられながら、チームメイトのハミルトンに勝てず苦杯をなめ続けたロズベルグは、その経験を踏み台にし、今年は勝負強いドライバーへと成長した。開幕から4連勝した後、ハミルトンに4連勝とチャンピオンシップでの逆転を許した。昨年までのロズベルグならこの時点でハミルトンの波にのまれていたはずだが、今年はシーズン後半戦に盛り返し、第15戦シンガポールGPでは見事なレース運びでポイントリーダーの座を奪還。流れを自らに引き寄せ、最後までその勢いを保ち続けた。
今年はハミルトンにメカニカルトラブルが多く、特にトップ走行中エンジンブローに見舞われた第16戦マレーシアGPでの無得点は大きな痛手だった。しかしモータースポーツにおいては、このような不運も勝負のうちである。2014年最終戦、逆転を信じて戦ったロズベルグも、同じようにトラブルに涙をのんでいたのだ。
33人目のワールドチャンピオン経験者となったロズベルグ。34年前に世界一となった父ケケ・ロズベルグは、息子に気を遣い、レース終了後にサーキット近隣から駆けつけた。グラハム&デーモン・ヒルに次ぐ2組目の親子チャンピオンとなった2人のロズベルグは、すっかり暗くなった中東の空の下で喜びを分かち合っていた。
(文=bg)
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