第7回:天上天下唯我独尊カー(後編)
2016.12.26 バイパーほったの ヘビの毒にやられまして![]() |
見えない・積めない・安っぽいと、デイリーユースでは欠点だらけのわが相棒「ダッジ・バイパー」。しかし、そんなクルマにだって探せばちゃんといいところはあるハズ。今回は、そんな思いを込めて箱根の山越えツアーを敢行。前編で被った、“ろくでなしカー”の汚名返上なるか? そして、記者が開いた悟りの境地とは?
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ご本尊はやっぱり……
(前編からの続き)
前回を、「なんだかんだ言って気に入ってるのよね~」的なノリでしめさせていただいた記者であるが、いざ、どのへんが気に入っているのかを紹介しようとすると、はたとペンが止まる。難しいですね。モノの魅力を語るというのは。
魅力といえば、わが友に「人の魅力は抽象的だけど、欠点は具体的で現実的なんだよ」という金言とともに、結婚生活に終止符を打った男がいる。彼が、元奥さまに対していかな“具体的かつ現実的欠点”をさらしたのかはまぁ知らんが、言ってることは正鵠(せいこく)を射ていると思う。クルマも同じだ。
取りあえず、バイパーが東京・武蔵野のわが家にやってきておよそひと月半。つくづく感じたのは、「ホントに似たようなのが他にないクルマだな」ということである。ギョーカイの末席を汚している恩恵で、とにかく台数だけは乗っているワタクシ。それでも、やっぱりバイパーみたいにヘンテコなクルマには出会ったことがない。
「では、どのへんがヘンテコで、どのへんが唯一無二なのか?」と問われれば、まったく月並みなオチで面目ないが、まずは2座のボディーに8リッターV10 OHVという破壊的アンバランスっぷりを挙げざるを得ない。このエンジン、ホントすごいんですよ。
もう始動時の「ぼぼううん!」という音からして違う。最近は同じようにひと吠(ほ)えカマして目を覚ますクルマも少なくないが、たいていが芝居半分でそれをやっているのに対し、バイパーの場合は必要にかられてのこと。冷えた巨大発動機を無理やりたたき起こすため、じゃんじゃんにガスを噴いた結果の爆音なのである。エンジンさまが寝起きの不満を爆発させているのであって、芝居っ気がないから雑で、おなかに響く。
スポーツカーというより機関車?
もちろん、そんな爆音では近所迷惑もはなはだしい。朝方などは「バカヤロー、何時だと思ってんだ!」とどやされる前に駐車場から遁走(とんそう)せねばならず、「暖気もほどほどに」という状態での出陣を強いられる。
当然のことながら、バイパーは不満たらたらである。アクセルを踏んでも回転は上がらないので、アイドリング状態のまま1、2速のギアを駆使して、人気のないブルーベリー農園のそばまで移動。そこでひっそり暖気を済ませるというのが、記者とバイパーの“出発の儀式”なのだ。
で、暖気が済むと今度はすさまじい熱量にヘキエキとさせられる。12月ともなると武蔵野の朝はけっこうな寒さとなるが、走行中は当然のように窓全開。今はいいけど、夏はどうなることやら。サイドミラーをのぞくと、ボンネットから放出された盛大な湯気が車体にまとわりついており、なんだかスポーツカーというより、機関車とかトレーラーヘッドなんかを走らせているような気分になる。走らせたことないけど。
ちなみに、アイドリング時のエンジン回転数は700rpmあたり。大きめだけどカドのないおおらかな振動と、大トルクによって生じる横揺れ、「ごぼぼごぼ~」という滋味あふれる排気音は、「ぼんぼん燃料燃やしてまっせ」という実感に満ち満ちている。なんにしても、OPECには原油の減産を考え直していただきたい。
……ここまでの記述だけだと「なんだか暑っ苦しそうなエンジンだな」で終わりそうだが、もちろんそれだけではない。バイパーのV10は、暑っ苦しい分だけちゃんと仕事もする。
当たり前ですが、速いです
高速道路を100km/h巡航で走っていると、タコメーターの針が示すのはだいたい1250rpmあたり。この速度域でのバイパーはすこぶる快適で、先ほどの例えではないけれど、機関車みたいに粛々と走る。同時に、打てば響くトルクレスポンスも持ち味で、どの車速域でも加速に痛痒(つうよう)はナシ。あまりクルマの流れが途切れないような状態でも、スパッと決められる車線変更がキモチいい。
もうひとつキモチいいのが、低回転域のねばりである。第2回でもちょこっと触れたけど、このクルマ、本当に1000rpm以下が常用回転域なのだ。同じ「トルクバカ一代」でも、昨今の直噴ターボ車じゃこうはいくまいて。首都高速も“6速入れっぱ”で普通に走れるのだが、それだとアイドリング状態でグイグイ加速していくから要注意。うっかりするとオカマを掘るので、正直、あまりオススメはしない。
もちろん、言うまでもなく踏むと速い。なにせ450psと67.7kgmだ。16年の歳月を経て相応に衰えてはいるのだろうが、それでも1570kg(車検証記載値)の車重に対してお釣りが来る膂力(りょりょく)なのは間違いない。料金所ダッシュは怖いものなしである。
かように、濃密な回転フィールと昔ながらのマッチョイズムにあふれた8リッターV10 OHVと比べると、正直、フットワークにまつわるあれやこれやの印象は薄い。悪い意味ではなくて、たぶん、フツーによくできているんだと思う。
今回、へたっぴなりに真剣に向き合おうと、小田原-御殿場間の箱根山越えルートを走ってみたのだが、記者ごときがちょいと“おいた”する程度では、バイパーは顔色ひとつ変えなかった。
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真面目で真摯な一面も
操舵フィールは、タイヤのぶっといクルマにありがちな、粘土っぽい無愛想なもの。スピード違反上等でギンギンに攻めれば変わるのかもしれないが、常識的な車速では、どこを走っていてもこの感覚のままである。一方で、ハイグリップタイヤ特有のゴリゴリ感も希薄なのだが、それについては前が2011年4月、後ろが2013年4月というタイヤの製造時期が影響しているのでしょう。交換しないとね(泣)。
身のこなしは軽い……と言うと言い過ぎかもしれないけど、少なくとも重くはない。ハナ先の動きも素直で、幅2m弱のV10エンジン搭載車だと身構えていると、肩透かしを食う。イイ意味でもう少し小ぶりなクルマを運転している感じで、長尾峠以北の狭っ苦しい山道でも持て余すことはなかったし、アンダーステアで怖い思いをすることもなかった。
むしろ、個人的にはもうちょいドッシリしていてほしいくらいで、高速道路でアシを取られたりすると、ヒヤっとするほど姿勢が変わる。意外やバイパー、“GT<スポーツカー”といった趣のクルマであったようだ。
……後で知ったことなのだけれど、実はこのクルマ、前より後ろの方が軸重が重いのね。フロントにV10なんて長大なエンジンを積んでおきながら、よくやったもんである。ウソかホントか、パイロンスラロームは同時期の「ポルシェ911」より速かったというし、敏しょう性を重んじるスポーツカーとして、存外に真摯(しんし)に作られたクルマなんだろう。
ちなみに、かつてこのクルマに試乗したことがあるライターの皆さまや、バイパーで有名な某自動車屋さんの証言によると、雨の日はさらなる“曲がりたがり”に豹変(ひょうへん)するらしい。雨の日は、バイクで出かけようと思う。
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マスプロダクトとしては、失格
さてさて、前後編に分けてバイパーのインプレッションなるものに挑戦してみた記者であるが、こうして文字に起こして、俯瞰(ふかん)して、あらためて分かったことがけっこうある。
たぶんこのクルマ、マスプロダクトとして見たら完全にアウトです。
というか、そもそもバイパーはマスプロダクトなんかじゃ全然ない。米国のオーナーズクラブのウェブサイトを拝見したところ、その生産台数は1994年の一番多い時期でさえ、年産3000台をちょっと超える程度だった。わがバイパーが生産された2000年の年産は、各モデル合わせて2000台強。過日お世話になった『Goo-net』のカタログページにも、「毎日13台だけが製造されるスペシャルモデル」と記述がある。ようするに、このクルマはほぼ手作りの少量生産モデルだったのだ。それを思うと、前編で紹介したもろもろの“デキの悪さ”もうなずける。
一方で、運動性能的にはかなり真面目で、“V10ありきのクルマ”ではあるものの“V10だけのクルマ”ではない。ぐいぐい曲がるしきっちり止まる、ちゃんとしたマトモなスポーツカーだ。
よく昨今のアメ車の進化を見て、したり顔で「かの地のクルマも欧州車に学び、最近ようやくちゃんと走るようになった」的なことをおっしゃる人がいるが、ぜひラベンダーでもキメて世紀末へトリップし、現役当時のこのクルマに試乗していただきたい。それで同じことが言えるか、あらためて意見をうかがいたいもんである。
もっとも、こうした走りに対するコダワリは、たいていの場合、実用性や機能性とのトレードオフである。既述の通り、バイパーの軸重は後ろの方が重いのだが、そうするためにどれほど無理な設計としたかは素人でもまあ察しがつく。少なくとも「C5コルベット」はここまで不自然なドラポジではなかったし、ここまで熱くなかったし、ここまで荷室が狭くなかった。バイパーは、マスプロダクトとしての可否より、“旋回性能と蹴りアシが命”なクルマだったんだろう。
アメリカ版“バックヤード・スペシャル”
こうしたバイパーのキャラクター、何かに似ているなあ、何にかしら? と考えていたところ、自動車ライターの渡辺敏史氏が記者に放った“名言”を思い出した。某出版社が、長期リポート用に借りていた個体をドライブしたことがあるというので、感想をうかがったのだ。氏は、バイパーを評してこう言った。
「ガサツなTVR」
……誠に言い得て妙である。ガサツってのが気になるところだが(笑)、よく比較されるコルベットなどより、確かにTVRの方がいろいろな意味でバイパーに近い。
ようするに、全盛期のクライスラーが作り上げた高性能スポーツカーなんて思うからイカンのだ。クルマ好きのおっさんたちが、自前のスペースフレームにピックアップトラック用のV10エンジンをイジって積んだ、コナーストリート発のバックヤード・スペシャル。その方がこのクルマの実態に近いし、ずっとよくその魅力を表していると思うのだが、皆さまいかがでしょう?
(webCGほった)

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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