ボルボP1800E(FR/4MT)
元祖 イケメン系ボルボ 2017.01.05 試乗記 北欧発のスポーツクーペとして1961年に登場した、「ボルボP1800」の最終モデルに試乗。クラシック・ボルボならではのドライブフィールと、半世紀を経ても変わらずに受け継がれる、このブランドならではのこだわりに触れた。新車同然の1971年モデル
2016年の最後に乗ったボルボは、1971年型のP1800だった。
新車みたいなP1800に乗ってみませんか、というお誘いを受けて試乗させてもらったクルマは、ボルボ・カー・ジャパン木村隆之社長のマイカー。ボルボ・カー東京の東名横浜支店内にできたオールドボルボの整備工場“クラシックガレージ”が仕上げた一台である。
P1800は、1961年に登場した1.8リッターの2座スポーツクーペである。テールフィンを持つ全長4350mmの2ドアボディーは、60年代のマセラティを多く手がけたピエトロ・フルアの作。60年代前半のボルボといえば、ずんぐりした「120」シリーズ(アマゾン)の時代。突然変異のようなよそゆきのスタイリングをまとったワケは、このクルマがアメリカやヨーロッパの新たな輸出市場に照準を合わせていたからだろう。
イエテボリ工場が手一杯だったため、最初の2年間はイギリスのジェンセンモーターズで生産された。ジェンセンは高級スポーツカーメーカーだったが、P1800では品質管理に難があるとされ、1963年春からはスウェーデン生産に変わり、名前もP1800Sにあらためられた。Sは “Sverige”(スウェーデン)の頭文字である。
その後、68年にエンジンを2リッターに拡大したが、1800の車名は変わらず、1973年まで、トータルで4万7000台あまりが生産された。試乗車は1970年に登場した「1800E」。SUツインキャブに代えてEFI(電子制御燃料噴射)を備え、118psから130psにパワーアップしたP1800のファイナルバージョンである。
当時、ボルボはヤナセ系の北欧自動車が輸入していた。試乗車の新車時価格は249万円。一番安い「ポルシェ911」が385万円。「ロータス・ヨーロッパ」が216万円。「日産フェアレディZ」が100万円そこそこだったから、かなりの高額車である。
いまの時代にも安心して乗れる
小学生のときからたまに見かけたことはあるが、P1800に乗るのは初めてである。現在、日本でナンバーの付いているP1800は、108台だという。クラシックガレージの“ワークス”整備を受けているとはいえ、基本設計は1950年代のクルマだ。いくら「楽しんできてください」とオーナーに送り出されても、虎の子の一台に緊張しないわけにはいかない。ボルボジャパン地下駐車場のタワーパーキングから出したら、ちょうど別の広報車が戻ってきた。コックピットドリル割愛で表に出ると、すっかり夜のとばりが降りていた。
薄暗いコックピットでそれらしいスイッチを引っ張ったら、ライトがついた。雨が落ちてきたので、やはりそれらしいスイッチを引くと、ワイパーが動いた。よかったよかった。
据え切りはタイヘンだが、動き出せば、ハンドルは重くない。クラッチペダルも重くない。変速機は4段MT。センタートンネルから突き出したシフトレバーは、メタリックな手応えを残して小気味よく作動する。
60~70年代の旧車で、評価の大きな分かれ目になるのはブレーキだが、その点でもこのクルマは優秀だ。P1800Eからは四輪ディスクを備える。交通密度の高い道路で、いつもより多めに車間距離を開けたくなるような不安はない。
つまり、半世紀前のスポーティーボルボは、いまでもフツーに走れるし、実用になる。逆に言うと、現役当時は、かなりススんだクルマだったに違いない。
それにしても、ちょっと暑い。ヒーターが効き過ぎている。ヒーターのコントローラーがどこにあるのか、暗くてわからない。クーラーは付いていない。三角窓を開けて、車内の空気をうめる。
健勝なエンジンと時代を感じるステアフィール
電子制御燃料噴射の採用で130psを得た2リッターエンジンは、4気筒OHVの「B20」型。P1800Eは、ボルボで初めてコンピューターを搭載したクルマということになる。ちなみに、最新の「XC90」には、50個のコンピューターが使われているそうだ。
最高速190km/h、0-100km/h=9.5秒。デビュー当時のP1800Eは、2リッタースポーツクーペとしてはなかなかの高性能を誇った。
なにしろ虎の子だから、それを確認するような無茶はしなかったが、エンジンはいまでもかくしゃくとしている。レッドゾーンは6500rpmから。決して回りたがりのエンジンではないが、3000rpmあたりからのトルク感が力強く、そして気持ちいい。4速トップで3400rpmの100km/h巡航も平和である。
ただ、高速になると気になるのは、ステアリングの“遊び”だ。ステアリングホイールは細くて、大きい。直径は41cmもある。その円周上で5cm以上左右に振っても効かないくらいの不感帯がある。昔のリサーキュレーティングボール式ステアリングに遊びはつきものだが、そのなかでも鈍い部類である。東京オリンピックが開かれ、東海道新幹線が開通した1964年、筆者は小学4年生だった。お父さんがRRの「日野コンテッサ」に乗っている同級生の女子が、「クルマって、ハンドルをまっすぐしてるだけじゃ、まっすぐ走らないのよ」と知ったかぶりしていたのを思い出した。
安全、良質、スタイリッシュ
子どものころ、未来的というよりも、地球防衛隊的な乗りものっぽく見えた2ドアクーペボディーは、レストアされてまさに新車同様である。ドアやボンネットやトランクなど、開口部の建てつけがシャンとしているのは、良質のスウェーデン鋼のおかげだろうか。
プロポーションからわかるとおり、キャビンはコンパクトである。特に前後長が短い。長身者なら、運転席に座ったまま、リアのガラスに手が届くはずだ。
運転席と助手席のあいだに、赤いレバーが2本並んでいる。最初、外からのぞき込んだとき、何かと思った。チョークレバーだろうか? EFIなのに。乗り込んでベルトをしたら、わかった。シートベルトのキャッチに付いているリリースレバーだった。ボルボは1959年に世界で初めて3点式シートベルトを採用したメーカーである。黒基調の車内でひときわ目立つ赤いレバーに、安全性をすでに強く打ち出していたボルボの意欲が見てとれる。
富士五湖方面へワンデイトリップした240kmで、燃費は7.2km/リッターを記録する。
富士山の見える駐車場に止めておいたら、新しいスーパーカーだと思ったのか、中国人観光客に囲まれて、買ったばかりの一眼レフで写真を撮られた。
いまの「V40」とか「V60」とか「XC60」とか、あるいはちょっと前の「C30」とか、最近のボルボしか知らない人だと、ボルボはスタイリッシュなクルマのメーカーだと思っているかもしれない。でも、カッコイイ系ボルボの元祖は、P1800である。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
ボルボP1800E
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4330×1690×1290mm(車検証記載値)
ホイールベース:2450mm
車重:1120kg(車検証記載値)
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 OHV 8バルブ
トランスミッション:4段MT
最高出力:130ps(97kW)/6000rpm
最大トルク:18.0kgm(176Nm)/3500rpm
タイヤ:(前)165SR15/(後)165SR15(ミシュランXZX)
燃費:--km/リッター
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:1971年型
テスト開始時の走行距離:13万9041km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:239.0km
使用燃料:33.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.2km/リッター(満タン法)
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下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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