メルセデスAMG GT R(FR/7AT)【海外試乗記】
本籍はニュルブルクリンク 2017.01.23 試乗記 「メルセデスAMG GT」シリーズの頂点に君臨するハイパフォーマンスモデル「AMG GT R」に試乗。エンジンとシャシー、そして空力性能が磨かれたフラッグシップスポーツは、まさに公道に降り立ったレーシングカーと評したくなる仕上がりを誇っていた。ピークパワーは585psへ
メルセデス・ベンツをベースとしない、AMG独自開発のスポーツカー第2弾、その名もAMG GTの走りを究めたモデルとして登場したメルセデスAMG GT Rの試乗会は、ポルトガル南西部に位置するアルガルベ・サーキットで開催された。激しいアップダウンにブラインドコーナーが連続するこのコースは、ニュルブルクリンク北コースで7分10秒9という、後輪駆動市販車最速タイムをたたき出したクルマを、そのニュルブルクリンクが使えない冬期に評価するには、まさに最良の舞台だ。
それにしてもAMG GT R、見た目からして獰猛(どうもう)さが増していて、ずらり並ぶ姿はまるで威嚇するかのようだった。今後、AMG GT全車に使われることとなった、「300SLプロトタイプ」のそれをモチーフとする“AMGパナメリカーナグリル”をいただくフロントフェイスには大きな開口部が備わり、しかもフォルムは格段にロー&ワイド。何しろそのフェンダーは左右合わせて「AMG GT S」より68mm広げられており、全幅は2007mmにも達するのである。
試乗の前に技術展示を眺め、エンジニアに話を聞く。まずV型8気筒4リッターツインターボエンジンは、ターボチャージャーやウェイストゲートを改良し、過給圧を1.20barから1.35barまで高めるなどの変更の結果、最高出力を585psまで向上させている。これはAMG GT Sの実に75ps増である。AMGスピードシフトDCTも、軽量デュアルマスフライホイールの採用により変速時間を短縮している。
前275/後325サイズまで拡大されたタイヤは、試乗車ではサーキット向けと言っていい「ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2」を履いていた。そのハイグリップに合わせて、サスペンションはよりハードにセッティングされ、さらにリアタイヤを100km/h以下の速度域では前輪と逆位相に、それ以上では同位相に最大1.5度までステアする後輪操舵機構も組み合わされている。
さらに、車体はそのワイドなフロントフェンダー、トランスアクスルのトルクチューブ、ドライブシャフトにフロア下の補剛パーツなど各部にCFRP素材を用いることで軽量化。AMG GT Sの15kg減という車両重量は、ここまで列記した内容を考えれば、十分に成果アリと言っていいはずである。
速く、鋭く、操りやすく
概要をつかんだら、早速テストドライブだ。DTMの伝説的ドライバーであるベルント・シュナイダー先導による4ラップで1セッションというのが今回の試乗形式。これを何度か、繰り返した。
ピットロードを出てアクセルを踏み込み、まずシビレたのはその加速、そしてレスポンスの良さである。まさにはじけるような速度、そしてエンジン回転の上昇には、特に低いギアでは、とても手動でのシフトアップなど追いつかないほど。しかしながら確かに変速の切れ味は増していて、パドルに手が触れた瞬間には次のギアに切り替わってくれる。
しかもアクセル操作に対するパワーの出方が、とてもリニアなのがうれしくさせる。踏んではもちろん離した時にも、まるでターボエンジンとは思えないような意のままの反応を見せて、これだけの高出力にも関わらず実にドライバビリティーが高いのだ。
そんな好印象はシャシーも同様。やはり非常にコントローラブルにしつけられている。ステアリングフィールは格段にダイレクト感が強まっているし、リアの動きもつかみやすい。挙動自体も、AMG GT Sと比べて格段に落ち着きが出て、滑ったら滑りっぱなしということがなくなっている。後輪操舵独特のフィーリングはわりとハッキリあるが、走りを邪魔する感じはなく、思った通りに操れる。
空気を味方に
これだけでも十分、進化を感じることはできたのだが、先導するシュナイダーのペースは、一体どうすればそんなに……というぐらい速い。もちろん腕の差は十分承知しているが、どうもそれだけとは思えない。しかしコースに慣れ、ペースのさらに上がった2度目のセッションで、その答えをつかむことができた。先導車に何とか食らいつこうと、できるだけ速度を落とさずコーナーへ入っていくと、かえって挙動が安定したのである。
これはまさしく空力の効果。速度が上がり、ダウンフォースが高まって、さらに速い速度でのコーナリングが可能になったのだ。
実はAMG GT R、ワイド化されたフロントスプリッターや大型リアスポイラーなどの目に見える部分だけでなく、車体下面の空力にも徹底的に配慮されている。フロントラジエーターグリル前に設けられた“エアパネル”は、冷却の必要がない時にはフラップを閉じて、空気を車体下面へと導く。さらに、その車体下面には高速域で40mm下方に飛び出し、ベンチュリー効果を発生するアクティブエアロダイナミクスシステムを搭載しており、これらの効果でまるで現代のレーシングカーそのままの、攻めるほどにさらに攻められる走りを実現しているのだ。
走りに向き合いたいドライバーへ
それをつかめた3度目のセッションでは、さらにペースを上げることができた。ただし、速度が上がれば当然、失敗した時の挙動も大きく出る。あまり調子に乗らない方がいいかもしれない……というわけで、次の時間はひと呼吸入れるために一般道へ。
こちらの車両はタイヤに「ピレリPゼロ」、リクライニングスポーツシート付き。乗り心地はもちろん硬いが十分に日常使用にも耐えられるものと言えるし、騒々しいとはいえ室内だって会話するのに困るほどではない。有り余る力のごく一部だけを引き出して余裕を持って走らせるのは、これもまた快感だった。
最後のセッションは途中からウエットに。本当はESPオフの際に、ダッシュボード中央のダイヤルスイッチでトラクションコントロールの効きを9段階に調整できる、GT3マシン譲りの機構をいろいろと試してみたかったのだが、お預けになってしまった。
サーキットを計16周に、一般道。走りに走った一日だったが、クルマとの濃密な対話、意のままに操る喜びを満喫できるAMG GT Rと過ごした時間は、まるで疲れなど感じることのない爽快なものだった。飾っておくのではなく真剣に走りに向き合いたい人にこそ選んでほしい一台。ただし、日本導入は今年中盤から後半と、まだもう少し先の予定である。
(文=島下泰久/写真=ダイムラー/編集=竹下元太郎)
テスト車のデータ
メルセデスAMG GT R
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4551×2007×1284mm
ホイールベース:2630mm
車重:1555kg(DIN)
駆動方式:FR
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:585ps(430kW)/6250rpm
最大トルク:76.8kgm(700Nm)/1900-5500rpm
タイヤ:(前)275/30ZR19/(後)325/30ZR20(サーキット試乗車はミシュラン・パイロットスポーツ カップ2、公道試乗車はピレリPゼロ)
燃費:11.4リッター/100km(約8.8km/リッター、EU複合モード)
価格:16万5410ユーロ(ドイツでの車両本体価格。付加価値税19%を含む)/テスト車=--ユーロ
オプション装備:--
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロード&トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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