メルセデスAMG GT63 4MATIC+ クーペ(4WD /9AT)
これぞフラッグシップ 2024.07.09 試乗記 「完全独自開発」をうたう「メルセデスAMG GT」がフルモデルチェンジ。AMGの手になる最高出力585PSの4リッターV8ツインターボと4WDの組み合わせ、後輪操舵システムや2+2が選択できるキャビンなど注目ポイントは多い。その進化したパフォーマンスやいかに。似ているのはエクステリアだけ
独立系チューナーを端緒にその歴史をスタートさせ、現在ではグループ内でのハイパフォーマンスモデルを手がけるサブブランドとして位置づけられているメルセデスAMG。その頂点に立つモデルAMG GTが、2代目へと進化し日本に上陸した。
今回も「自身による完全独自開発」を金看板とするピュアなスーパースポーツカーとしての立ち位置に変わりはなく、V型8気筒というこのブランドのシンボリックな心臓も継承。従来型のキャラクターから逸脱しないキープコンセプト路線が選ばれたことは、わざわざ説明するまでもなく一見した姿からも明らかだ。
すなわちそれは、「独自開発」という例のフレーズを初めて掲げたかつての「SLS AMG」が、実質的後継モデルである初代AMG GTへと変貌を遂げたときのような大きな驚きを覚えないということである。ありていに言えば従来型のオーナーは安心して愛車に乗り続けることができるであろうし、大胆な変化を期待していた向きには「代わり映えしないな」と、そんなふうにも受け取られそうな世代交代である。
もちろんつぶさに観察すれば、本当に代わり映えしないわけではなく、全長は一挙に20cm近くもストレッチされているし、駆動輪は後2輪から全4輪へと大きな宗旨替えを実施。それもあり、1.7tほどだった重量が限りなく2tに近づいたと知れば、実は両者は似て非なるものといわれても否定が難しくなる。
果たしてこのあたりも正常進化と受け取るべきなのか、それとも……といった疑問を抱きながら、新世代AMG GTとの初対面を果たすこととなった。
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姉妹モデル「AMG SL」との違いはどこに?
前述のように「(AMGの)完全独自開発」と紹介されるこのモデルではあるものの、新型AMG GTに関してはこの部分に少し注釈を加えておいたほうがよさそうだ。
というのも、新型「AMG GT63 4MATIC+ クーペ」に採用された特徴的なランニングコンポーネンツは、その多くがこのモデルで初出されたわけではなく、すでに“出典”とされる前例が存在するからだ。それは、ひと足早い2021年に登場した、数えて7代目となった最新世代のR232型「SL」である。新しいAMG GTはこの新型SLと多くのランニングコンポーネンツを共有する、色濃い血縁関係がある。
例えば、アルミスペースフレームのボディー骨格や最高出力と最大トルクが585PSと800N・mというスペックを誇るM177型4リッターV8直噴ツインターボエンジン+湿式多板クラッチ付き9段ステップATというパワーパックなどが、その代表。さらには2700mmというホイールベース値や5リンク式の前後サスペンション、トーションバー式のスタビライザーに代わり4輪のサスペンションストラットを相互に油圧接続し制御する「AMGアクティブライドコントロール」と呼ばれる足まわり、AMG GTでは初採用となる4WDシステムなども同様となる。
こうしてかたや“優雅なオープンボディー”、こなた“より硬派でスポーティーなクーペ”と立ち位置の違いをアピールしながらも、内容的には完全な姉妹車と言っても過言ではないのがともに世代交代を行って間もないこの両者。新型SLがAMG GT同様の「パナメリカーナグリル」を採用し、やはりメルセデスAMGのブランドで展開されるようになったことを見るにつけ、グループの戦略がもはやこうした内情を隠そうともしていないことは明確なのである。
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ボディーの大きさに戸惑う
幸か不幸か個人的にはまだ新型SLに触れた経験がない現在、新しいAMG GTに対面しての率直な第一印象は、「何とも大きい」というものだった。
「ロングノーズに後退した小さなキャビンを備えるロー&ワイドでファストバックプロポーションの2+2クーペ」と、初代モデルと同様にこうしたキーワードで概要が紹介できるAMG GTではあるものの、いずれもそれら特徴の度合いがグンと強く表現されたのが新型である。
前に触れたように全長が増したことに加えて、全幅もよりワイドになり今や2m近い。一方、従来型より高まったとはいえ全高は1355mmとやはり絶対的に低いので、ロー&ワイドな感覚が殊更に強調されて感じられるのも当然だ。ドライバーズシートに収まればボディーのフロントエンドがどのあたりなのかは見当もつかず、端的に言って大きさに対する戸惑いの印象は拭えない。
例えば、前向き駐車を試みようとした場合には、細心の注意が必要。対象物から相当に離れて止まったつもりでも、実は思いのほかギリギリだった、などというシーンもしばしば起こりそうだ。
タイトなワインディングロードへと乗り入れれば、今度は走り慣れた道が何とも狭く感じられ、車線からはみ出さないよう走るのに気を使う。導入されるAMG GTは左ハンドル仕様のみ。リアアクスルステアリングが標準で装備されるとはいえ、どうやらその狙いどころは同位相操舵による超高速走行時のスタビリティー向上にフォーカスされているとみえ、タイトターンや低速時の小回り性の向上に目覚ましい効果が発揮されているような実感を得るには至らなかった。
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孤高のフィーリング
そんなこんなで、これはやはりサーキット──それもそれなりに高速レイアウトの──へと持ち込まないとその神髄は味わえないという思いは、正直現在でも消えてはいない。けれども乗れば乗るほどに「やっぱりAMGはこうでなくっちゃね!」という心の高ぶりを感じたポイントが、まずはこのモデルの心臓にあったことは間違いない。
4WDシャシーの新採用で強大な出力を安心して一滴漏らさずトラクションへと変換できるようになったという前提条件があることは確かだが、新しいAMG GTを走らせて味わえる快感は、アクセルペダルを踏むほどに耳に届くビートの効いたサウンドとともに、ドライバーの全身を刺激するその加速フィールにこそ濃厚だった。
絶対的な速さをとっても、フィーリング面をとっても、ひとことで言ってそれは「最高!」である。特にパフォーマンスのあまりの高さゆえ、簡単にはフルスロットルなど許されないパブリックロードにおける走りでは、こうした孤高のフィーリング面にこそ無形の価値があるという思いを新たにした。
少し前に「F1テクノロジーからのフィードバック」というフレーズとともに、2リッター4気筒ながら680PSで1020N・mという怒涛(どとう)のシステム出力を手にした最新の「AMG C63」が、しかしセールス面では芳しい成果を示せていないというハナシを小耳にはさんだ。
そのうえでこのAMG GTに乗ると、比類なく濃厚な路面とのコンタクト感や、公道上では際限知らずという比喩を使うしかないコーナリング能力も確かに大きな魅力だが、同時に多くの人がAMGに求めるのは圧倒的なスピード性能よりも、記号と密接にリンクした固有のテイストにあるんだろうなと、あらためて実感する。
2人で乗るとなれば「広大な」と表現できそうな従来型をしのぐラゲッジスペースがあり、70mm延長されたホイールベースとリアアクスルステアリングを擁する4WDシャシーによって、まさにどこまでも走り続ける気になれそうな恐ろしく安定したクルージングも楽しめる。従来型以上にGT性能を究めたキャラクターも、新たな見逃せないポイントである。
これをもって“フラッグシップ”という言葉を使うならば「まさにそのとおり」と納得するしかない。それが最新世代のAMG GTなのである。
(文=河村康彦/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
メルセデスAMG GT63 4MATIC+ クーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4730×1985×1355mm
ホイールベース:2700mm
車重:1970kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:585PS(430kW)/5500-6500rpm
最大トルク:800N・m(81.6kgf・m)/2500-5000rpm
タイヤ:(前)295/30R21 102Y XL/(後)305/30R21 107Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツS 5)
燃費:--km/リッター
価格:2750万円/テスト車=2979万4000円
オプション装備:マットペイント<ハイパーブルーマグノ>(100万円)/鍛造21インチAMGアルミホイール<RWL>(3万5000円)/パノラミックルーフ(14万7000円)/可倒式リアシート(26万2000円)/Burmesterハイエンド3Dサラウンドシステム(60万5000円)/ナッパレザーマキアートベージュ/チタニウムグレー・ハイパーブルーマグノ<マット>(24万5000円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:810km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:323.9km
使用燃料:46.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.9km/リッター(満タン法)/6.9km/リッター(車載燃費計計測値)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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