スズキ・ソリオ バンディット ハイブリッドSV(FF/5AT)
買った人を裏切らない 2017.01.24 試乗記 スズキのトールワゴン型コンパクトカー「ソリオ」に、燃費32.0km/リッターのフルハイブリッドモデルが登場。独自開発のユニークなハイブリッドシステムが注目を集めているが、その見どころは燃費性能だけではなかった。シングルクラッチAMTにモーターをプラス
ソリオ ハイブリッドをオススメするとして、その理由を3つあげるなら。順不同で(1)速度の管理がしやすいから。(2)乗り心地がいいから。で(3)は……。取りあえず、2つあるだけでもリッパ(笑)。私がこのクルマを心の底からオススメするかどうかはひとまずおいといて、ソリオ ハイブリッド、新型車のデキに興味がある人ならゼヒとも試したほうがいい。特に自動車メーカーで製品作りに関わっている人たちは。あるいは、購入を決めてしまった皆さんに向けてはこういいたい。「ラッキーでしたね」。
(1)速度の管理がしやすいから。に関しては、パワートレインによるところが大きい。というか、それがほぼ唯一最大の勝因。このクルマの場合、核になっている部分は自然吸気ガソリンエンジン+マニュアルトランスミッションである。そのマニュアルトランスミッションにメカトロ系を追加して変速の仕事を自動化したのがスズキ呼称AGS。一般的にはシングルクラッチAMTと呼ばれる(俗に“ガチャコン”とも)。シングルクラッチAMTの弱点、あるいは商品力上の一大難点として駆動トルク切れ(による“失速感”)というのがあって、ソリオ ハイブリッドの場合はそれを電気駆動でカバーできている。
カバーされてしまうと、あとに残るはシングルクラッチAMTの(ほとんど)いいところのみ。加速中や巡航中に減速比が勝手にウニョウニョ動いてイヤな感じ……がないし、アクセルペダルから足を離すと自然にエンジンブレーキが利く。そんなのはフツーに扱いやすいMTが選べればいいだけの話ともいえるけど、しかしここは日本。電気モノ(CVT+ハイブリッドや電気CVT)もふくめてCVT大国という生き地獄のような環境である。発進時に「おや!?」なショックが出たりすることがあるので仕上げはカンペキとはいえないけれど、そういうわけでソリオ ハイブリッドは十分天国。「なにこのハイブリッド!? 運転しやすいじゃん(笑)」てなもんである。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
ダメ出しができない
「ガチャコンの駆動トルク切れを電気モーターでカバーできたら……」とは自動車のパワートレイン関係のことにちょっとでも興味がある人ならわりと誰でも考えることで、それが今回、モノになった。しかしてそのデキは、思っていたとおりかもっとヨカッタ。そのために“フル”ハイブリッドが必要なのかというのはあるけれど、ソリオの場合、フルハイブリッド化で重量はそんなにヒドくは増えていない。具体的には40kgアップ(MT→CVTの重量アップが例えば30kgとか)。あと値段は、ザッと計算したところ約22万円アップ。4.4Ahで100Vというから、リチウムイオン二次電池のいわゆる総電力量は0.44kWhか。ちっちゃ。
速度の管理にはブレーキ関係の領域も当然あって、そっちもまあ、悪くはない。少なくとも、トランスミッションのクセにつきあわされてG一定の減速ができないかできにくくてイヤな思いをするぶんがなくなっているか減っているかはしている。ということで、ここでもやはり天国。ちょっとは。
(2)乗り心地がいいから。に関しては、(1)よりもさらにビックリした。不意を突かれた。というのは、「日本車(の乗用車)は乗り心地が悪い、酔う」という理由をちゃんと書かなきゃと思い立ったあと最初に乗ったのが今回のこのクルマだったから。
ソリオ ハイブリッドの乗り心地は、スッと動き始めて数秒後くらいに「ウヒャーッ!!」とか「アハァ~ン」とかなるような感じでステキなわけでは別にない。ないのだけど、いつもの試乗ルート内のそこかしこにあるチェックポイントというかチェック区間を走ってみてもダメが出ない。出せなかった。じゃあこんどは……ということでさらにイジワルなところを走ってみても、やはりダメ……というか、ダメじゃなかった。あれえ!?
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
乗り心地の秘密はダンパーにあり
わかりやすくいうと、ピッチング系の挙動。例えばフロントのアシが絶賛伸びてる中にリアのアシが絶賛縮み中で(またはその逆で)……が繰り返されると、これは教科書的に典型的なピッチング。そこまでではないにしても、車体が地面と平行を保ったままキレイに上下に揺れる、いわゆるバウンシング……にはなっていない動きというか揺れが、たいがいの日本車は簡単に出る。あるいは、走行中の車高が基準位置から容易に落ち込んでしまう。ダンパーがズブッとだらしなく縮んだところから反転して、こんどは伸び側でキュッと止まる。さらにはブルブルやワナワナ。低周波のこもり。そういうのが各種絶賛出まくるはずなのに、コイツときたら(笑)。
……とまあ、そういう感じでヨカッタ。車内の楽しいおしゃべりがあるときフッと途切れたり、あるいは乗ってるうちに乗員の口数がだんだん減っていって……みたいなことのない快適さ、ぐらいに考えてもらうといいかもしれない。
なおソリオ、車体のがっちり度が日本車にしては例外的に高いということは別にない。リアサスペンションの設計がいいというのはあるけれど、乗り心地関係の唯一最大の勝因がそこだとはちょっと思えない。ということで専門的にいうと、ダンパーの仕上げというかチューニングが成功しているのがすごく大きい。シロートのクセにこういうことをいってはナンだけど、ここまでの乗り心地を狙ってモノにできるぐらいダンパーのことをよくわかっている人は日本の自動車メーカーのなかにはまずいない。フルハイブリッド用のリチウムイオン二次電池が床下収納用の穴に接地されていることによる重量配分比の改善(ロクヨンよりもリア寄り)というのもあるかもしれないけれど、この乗り心地が偶然の産物ではなかったとしたら、モノのわかった人はおそらくダンパー屋さんのなかにいる(その人または人たちの能力や知見をうまくいかせたという意味ではスズキ側の担当者もエラい)。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
ジムニーを見習うべし
ということで気になるのはサプライヤー。SACHSやBILSTEINではないのはわかる。日立かKYBかショーワか。クルマについているダンパーをしつこく眺めてもわからなかったのでスズキ広報に聞いたところ、答えはKYB。「ほかのソリオもKYB製ですが、ハイブリッド用は専用チューンのものが使われています」。ほほー。
ただし残念ながら、シートのデキはほめられない。30分間も座り続けていると、臀部(でんぶ)にストレスを感じるようになる。あと舵感も、EPSつきのいまの日本車の水準に照らして「たしかに最悪ではないけど……」のレベルにとどまる。真ん中あたり=直進付近にガキッと固着したような領域があって……なタイプではないな、という程度。ほかのところに大きな美点もあることだし「まあフツー」といっていい気もするけれど、ハンドルを動かすとほぼ同時に上屋がフラッと傾くところはフツーに日本車。進路の管理のやりやすさもふくめて真っすぐ走ることは真っすぐ走るけれど、ブッシュの感じもふくめて、もっとバンと張っていてほしい。頼れる感じ、たくましさがほしい。というか足りない。ていうか、アンタんとこには「ジムニー」というのがあるでしょ!! 見習ってくれ!!
ジムニーは取りあえず別枠の殿堂入りとしても、現行「アルト」以降、乗って「オッ!!」となる物件が最近のスズキ製には多い。今回のこれも、そういうのの一台ということで。
(文=森 慶太/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
スズキ・ソリオ バンディット ハイブリッドSV デュアルカメラブレーキサポート装着車
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3710×1625×1745mm
ホイールベース:2480mm
車重:990kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:5AT
エンジン最高出力:91ps(67kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:12.0kgm(118Nm)/4400rpm
モーター最高出力:13.6ps(10kW)/3185-8000rpm
モーター最大トルク:3.1kgm(30Nm)/1000-3185rpm
タイヤ:(前)165/65R15 81S/(後)165/65R15 81S(ヨコハマ・ブルーアース)
燃費:32.0km/リッター(JC08モード)
価格:210万6000円/テスト車=237万5266円
オプション装備:ボディーカラー<ファーベントレッド ブラック2トーンルーフ>(4万3200円)/全方位モニター付きメモリーナビゲーション(12万7440円)/後席右側ワンアクションパワースライドドア(4万6440円) 以下、販売店オプション フロアマット(2万8782円)/ETC車載器<工賃込み>(2万3404円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:2056km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(6)/高速道路(4)/山岳路(0)
テスト距離:343.1km
使用燃料:19.6リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:17.5km/リッター(満タン法)/18.8km/リッター(車載燃費計計測値)
![]() |

森 慶太
-
メルセデス・ベンツGLE450d 4MATICスポーツ コア(ISG)(4WD/9AT)【試乗記】 2025.10.1 「メルセデス・ベンツGLE」の3リッターディーゼルモデルに、仕様を吟味して価格を抑えた新グレード「GLE450d 4MATICスポーツ コア」が登場。お値段1379万円の“お値打ち仕様”に納得感はあるか? 実車に触れ、他のグレードと比較して考えた。
-
MINIカントリーマンD(FF/7AT)【試乗記】 2025.9.30 大きなボディーと伝統の名称復活に違和感を覚えつつも、モダンで機能的なファミリーカーとしてみればその実力は申し分ない「MINIカントリーマン」。ラインナップでひときわ注目されるディーゼルエンジン搭載モデルに試乗し、人気の秘密を探った。
-
BMW 220dグランクーペMスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.9.29 「BMW 2シリーズ グランクーペ」がフルモデルチェンジ。新型を端的に表現するならば「正常進化」がふさわしい。絶妙なボディーサイズはそのままに、最新の装備類によって機能面では大幅なステップアップを果たしている。2リッターディーゼルモデルを試す。
-
ビモータKB4RC(6MT)【レビュー】 2025.9.27 イタリアに居を構えるハンドメイドのバイクメーカー、ビモータ。彼らの手になるネイキッドスポーツが「KB4RC」だ。ミドル級の軽量コンパクトな車体に、リッタークラスのエンジンを積んだ一台は、刺激的な走りと独創の美を併せ持つマシンに仕上がっていた。
-
アウディRS e-tron GTパフォーマンス(4WD)【試乗記】 2025.9.26 大幅な改良を受けた「アウディe-tron GT」のなかでも、とくに高い性能を誇る「RS e-tron GTパフォーマンス」に試乗。アウディとポルシェの合作であるハイパフォーマンスな電気自動車は、さらにアグレッシブに、かつ洗練されたモデルに進化していた。
-
NEW
BMW R12 G/S GSスポーツ(6MT)【試乗記】
2025.10.4試乗記ビッグオフのパイオニアであるBMWが世に問うた、フラットツインの新型オフローダー「R12 G/S」。ファンを泣かせるレトロデザインで話題を集める一台だが、いざ走らせれば、オンロードで爽快で、オフロードでは最高に楽しいマシンに仕上がっていた。 -
第848回:全国を巡回中のピンクの「ジープ・ラングラー」 茨城県つくば市でその姿を見た
2025.10.3エディターから一言頭上にアヒルを載せたピンクの「ジープ・ラングラー」が全国を巡る「ピンクラングラーキャラバン 見て、走って、体感しよう!」が2025年12月24日まで開催されている。茨城県つくば市のディーラーにやってきたときの模様をリポートする。 -
ブリヂストンの交通安全啓発イベント「ファミリー交通安全パーク」の会場から
2025.10.3画像・写真ブリヂストンが2025年9月27日、千葉県内のショッピングモールで、交通安全を啓発するイベント「ファミリー交通安全パーク」を開催した。多様な催しでオープン直後からにぎわいをみせた、同イベントの様子を写真で紹介する。 -
「eビターラ」の発表会で技術統括を直撃! スズキが考えるSDVの機能と未来
2025.10.3デイリーコラムスズキ初の量産電気自動車で、SDVの第1号でもある「eビターラ」がいよいよ登場。彼らは、アフォーダブルで「ちょうどいい」ことを是とする「SDVライト」で、どんな機能を実現しようとしているのか? 発表会の会場で、加藤勝弘技術統括に話を聞いた。 -
第847回:走りにも妥協なし ミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」を試す
2025.10.3エディターから一言2025年9月に登場したミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」と「クロスクライメート3スポーツ」。本格的なウインターシーズンを前に、ウエット路面や雪道での走行性能を引き上げたという全天候型タイヤの実力をクローズドコースで試した。 -
思考するドライバー 山野哲也の“目”――スバル・クロストレック プレミアムS:HEV EX編
2025.10.2webCG Movies山野哲也が今回試乗したのは「スバル・クロストレック プレミアムS:HEV EX」。ブランド初となるフルハイブリッド搭載モデルの走りを、スバルをよく知るレーシングドライバーはどう評価するのか?