マクラーレン570GT(MR/7AT)
路上のフォーミュラカー 2017.07.11 試乗記 マクラーレンの中でベーシックかつピュアな魅力を持つ「スポーツシリーズ」。その第3弾となる「570GT」のコンセプトは、日常的な使いやすさと快適性のさらなる改善にある。その狙い通り、570GTは毎日乗りたくなるスーパースポーツカーに仕上がっていたのだろうか。それとも……? 雨の箱根で試乗した。垣間見えるレーシーさ
マクラーレンのエントリーモデルであるスポーツシリーズ。その中でもこの570GTは、570の「S」とはまた違うラグジュアリーさを売りにしたモデルらしい。とはいっても相手はマクラーレン。とはいってもそのパワーは570ps! コイツがヤワなはずが、あるわけがない。
だから570GTのコックピットに収まって、そのフロントウィンドウ越しに降りしきる雨を見ながら、しばし考え込んでしまった。
よりによってこの天気……しびれちゃうよなぁ。
コイツがタダモノではないことは、いつものワインディングロードへ向かうその道中で簡単に理解することができた。前後のスプリングレートは、570Sに対してフロントで15%、リアで10%ソフトにしているという。そのサスペンションがもたらす乗り心地は、例えば同じセグメントにいる「ホンダNSX」の、しっとりまったりとした乗り心地に比べると、コツコツとしたやや荒削りな印象を伴う。
また兄貴分の「650S」と比べても明らかに乗り心地は荒っぽく、2700万円以上もするスポーツカーに対する表現としては甚だ失礼だけれど、これは「エントリーモデル」なのだということを少し意識させられてしまう。
もっともそれは、NSXがその足元にマグネティックライドダンパー(とコンチスポーツコンタクト5Pタイヤ)を投入しているのに対して、570GTはコンベンショナルな油圧式ダンパーを選んでいることも大きく影響していると思う。
ただ面白いのは、そのちょっと荒削りな乗り心地が全然嫌みじゃなく、むしろ適度にレーシーで気持ちが良いことである。さらに言えば、インパネからドアトリム、センターコンソールまで隙なく貼り込まれた豪華なレザートリムや、天井のグラスルーフまで用意してラグジュアリー性を際立たせようとしているのに、このクルマからは隠しきれない本性がポタポタとこぼれ落ちている。それがとっても面白いと筆者は感じた。
休日にこそ乗りたいGT
もっとも、ボディーの剛性感については、それが乗降性を考慮して、カーボンモノコックのサイドシルを削り取ったことが影響しているのかは不明だが、かつて「MP4-12C」で覚えた威圧的なまでの剛性は感じない。けれどその身のこなしはフロントエンジン車に対して圧倒的に軽く、ミドシップスポーツカーとしての特異性はビシビシと伝わってくる。
また570Sよりギア比をわずかに遅くしたというステアリングも、少なくともオープンロードではその操作に対して動きの忠実さや質感の高さの方が大きく目立ち、まったくダルだとは思わない。いやむしろ、混み合った街中をライトウェイトスポーツカーのようにスパスパと泳ぐ素早さに、高級スポーツカーならではの“格の違い”を感じてしまう。
だからもし筆者が570GTのオーナーになったとしたら、これに毎日乗りたいなんて思わないだろう。GTという名前を持つけれど、やっぱりこのクルマは特別なのだ。
筆者が思うに、570GTに似合うのは、狙いすました休日にガレージからコイツをひっぱりだしてワインディングへと連れ出すような、古典的なスポーツカーとの生活だ。つまり目的地に着くまでの、ワクワクと心躍るような気持ちを適度にキープするためだけに、いやさらに盛り上げるためだけに、このGTはいい乗り心地(悪くない乗り心地と言うべきか?)を用意してくれているのだと思う。
もちろんハイエンドなホテルのエントランスへさっそうと乗りつけるのもいい。そんな使い方をしてもマクラーレンの佇(たたず)まいには、英国特有の品の良さがあるから嫌みになりすぎない。けれどその乗り心地の奥底、つまりもっと本質的な部分には、ドライバーをむずむずと刺激する、やはり英国的な何かが潜んでいる。
だからこの雨には、正直まいった。なぜなら、その“何か”を確かめるよりも前に、まずは“570psのミドシップ”というスペックに身構えなくちゃいけなかったからだ。
巌のような安定感
というわけで、いつものワインディングへ到着した筆者は、ちょこっと考えた。こういうときは臆するでもなく荒ぶるでもなく、時間をかけて少しずつ、慎重にそのクルマの素性を探っていくに限る。ブレーキも操舵もゆっくりと、しかし確実に熱が入るようにジワッと荷重を押しつけていくように走る。まるで雨の日のフォーミュラに乗るように。
感心したのは、そこで570GTがきちんと反応することだった。何度も何度もしつこく走り回っていると、そのステアリングは段階的に手応えを増していき、着実にタイヤが温まっていく様子を、静かに知らせてくれるようになったのである。
より操作を緻密にするために、ブレーキは2ペダルの利点を生かし左足を使う。ブレーキのリリースを可能な限り丁寧に行い、タイムラグなしにアクセルでトラクションを掛けるためである。ツインターボのレスポンスは微妙なアクセル開度にも実に細かく反応し、そこに大味なところはまったくない。
車両安定装置(ESP)はアクティブ。タイヤが温まった頃を見計らってモードは「スポーツ」へ。ショートシフトの間隔はだんだんと伸びていき、エンジンサウンドが徐々に高まっていく。
なんて操作に忠実なクルマなんだ! 乗り手が運転に集中すればするほど、それに応えてくれる。トランスミッションは背後から「ガラガラ、ヒューン」と作動音や微振動を伝えてくるけれど、その変速スピードは素速く、クラッチがつながったとき、「ポルシェ911 GT3」のようにはじけてリアタイヤの接地性を損なうこともない。そしてカーボンシャシーのフロアにはNVHが遠慮なしに入ってくるけれど、速度を上げていくとこれと反比例するかのようにマシンとの一体感が増していく。ビターッと乗り心地が整ってくるのである。
エンジンは5000rpmを過ぎたあたりで、グン! ともうひと伸びする。しかし後輪で路面をかきむしるような凶暴さはなく、確実に路面を蹴り出してくれる。つまりリアの接地性がとても高いのだろう。アクセル操作を丁寧に行えば、ESPの制御すら入らない。おっかなびっくりたどり着いたその先に待っていたのは、刹那(せつな)の興奮とともに、恐ろしく分厚い安定感だった。
運転に夢中にさせてくれる
ひとことすごい。ひとこと楽しい。ものすごくわかりやすい言い方をするならば、これはミドシップの「日産GT-R NISMO」だ。だから、そんな時代ではないということを承知で言うなら、やっぱりここに、昇天しそうなほど官能的な自然吸気エンジンが欲しいとは思う。
またMP4-12Cで感じたような、路面に吸い付くような空力効果をあまり感じられないのも少し残念だ。タイヤの接地性にも、もう少ししっとりした懐深さがあるとよい。GTらしい性格を目指しているのは承知しているが、これだけの運動性能を持っているなら、もっと体との密着性が高く、なおかつ乗り心地の良いシートだって必要だ。
しかし演出や虚飾が一切なく、この価格にして朴訥(ぼくとつ)とした乗り味は、実はマクラーレンにおける最大の魅力だと筆者は思う。限界がさらに高い所にあるのは明白だけれど、それを上手に隠して一緒になって走ってくれる懐の深さとインフォメーションの豊かさは、本当にレースを戦い抜いてきた彼らだからこそ練り上げられた宝だ。ドライバーのレベルにかかわらず、運転に夢中にさせてくれる性能。それはどんなドライバーが乗っても速く走れることとは、まったく違う。
GTなんて名前が与えられているけれど、これはもうレーシングカーだ。反応がソリッド過ぎないことを考えても、570GTはオジサンのために用意されたナンバー付きの少し大きなフォーミュラカーである。だから価値観が合えば2752万7000円という価格は決して高くはない。価格に対する性能の純度は、ライバルたちよりもはるかに高いと思うのである。
今回雨の中で570GTに乗れたことは、もしかしたらとても良かったのかもしれない。
(文=山田弘樹/写真=荒川正幸/編集=竹下元太郎)
テスト車のデータ
マクラーレン570GT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4530×2095×1201mm
ホイールベース:2670mm
車重:1350kg(乾燥重量)
駆動方式:MR
エンジン:3.8リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:570ps(419kW)/7550rpm
最大トルク:600Nm(61.2kgm)/5000-6000rpm
タイヤ:(前)225/35ZR19 88Y/(後)285/35ZR20 104Y(ピレリPゼロ)
燃費:10.7リッター/100km(約9.3km/リッター、欧州複合サイクル)
価格:2752万7000円/テスト車=2881万8000円
オプション装備:エリート・ペイント<ベンチュラオレンジ>(60万6000円)/Byマクラーレン・デザイナーインテリア#2<ジェットブラック、サルテグレー、カペラオレンジ>(43万7000円)/スペシャルブレーキキャリパー<マクラーレンオレンジ>(15万5000円)/リチウムイオンバッテリーチャージャー(3万円)/灰皿(8000円)/ブランドロゴフロアマットセット(5万5000円)
テスト車の年式:2017年型
テスト車の走行距離:1505km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:212.4km
使用燃料:38.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:5.5km/リッター(満タン法)/6.7km/リッター(車載燃費計計測値)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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