【F1 2017 続報】第9戦オーストリアGP「20点と15点の差」
2017.07.10 自動車ニュース![]() |
2017年7月9日、オーストリアのレッドブル・リンク(4.318km)で行われたF1世界選手権第9戦オーストリアGP。前戦アゼルバイジャンGPでの接触の影響で、セバスチャン・ベッテル対ルイス・ハミルトンのタイトル争いに暗雲が垂れ込める中、バルテリ・ボッタスが優勝をさらった。
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ハミルトンとベッテルの「接触」その後
3度のセーフティーカー導入に赤旗中断と大荒れの展開となったアゼルバイジャンGPだったが、最大のハイライトは、チャンピオンの称号をかけて激しい争いを繰り広げる2人のドライバーの「接触」だった。
セーフティーカーからのリスタート目前、先頭のルイス・ハミルトンに2位セバスチャン・ベッテルが追突。ハミルトンがわざと減速したと思ったベッテルは拳を振り上げ、ハミルトンのマシンに体当たりして怒りをあらわにした。この一件はレース中に審議され、データからもハミルトンに非はないと判断されていた。そしてベッテルには10秒のストップ&ゴーペナルティーが科され、フェラーリのエースは優勝の機会を逸し4位でレースを終えた。
ベッテルによる故意の接触を重くみた国際自動車連盟(FIA)は、7月3日にさらなるペナルティーの必要性を協議した。当初「ハミルトンが悪い」という見解を貫いていたベッテルだったが、自らの誤りを認め謝罪。これを受けたFIAは、追加処罰を見送る決断を下した。
まったくの無実であるハミルトンは、ベッテルの謝罪を受け入れ、「もう今週末のレースに集中するよ」と語ったものの、アゼルバイジャンでの「ベッテルの行為は恥ずべきもの」という発言を撤回することはなかった。またFIAの決定には不満の様子で、オーストリアGPの公式会見にベッテルとともに出席した際には「ジャン(・トッドFIA会長)もここに座り質問に答えるべきだ」と語った。
ハミルトンの心中は推して知るべしだが、仮に怒りが収まっていたとしても、この立場は利用する価値があるというもの。何しろ問題を起こした相手は、目下14点差でタイトルを争っているポイントリーダーである。この機会にベッテル&フェラーリ陣営に、ポイントでも精神面でも、少しでもダメージを与えたいと考えてもなんら不思議はないだろう。
レッドブルで2010年から4連覇を達成したベッテルは、普段は陽気で人気者だが、怒りのスイッチが入ると思わぬ行動に出ることがある。2010年のトルコGPでは、チームメイトのマーク・ウェバーとの優勝争い中に接触しリタイア。マシンを降りると、走行を続けるウェバーに対し、頭の横で指をクルクルと回転させるという挑発的な態度を見せた。また昨年のメキシコGPでは、前を走っていたマックス・フェルスタッペンのドライビングが審議対象とならないことに腹を立て、無線で競技長に暴言を吐くということもあった。
こうしたベッテルの行動は「スポーツマンシップに反する」「チャンピオンとしての品格に欠ける」と言われても仕方がないものだ。しかし一方で、F1がたんなる自動車技術の競争ではなく、感情を抱えた人間同士の戦いでもあるということをわれわれに思い出させてくれる出来事でもあった。
オーストリア、イギリス、ハンガリーの3戦を終えるとF1は夏休みに突入する。シーズン前半戦を良いかたちで締めくくれるのはフェラーリのベッテルか、メルセデスのハミルトンか。14点差の首位攻防戦の9戦目は、牧歌的な風景に溶け込むレッドブル・リンクで幕を開けた。
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ボッタス、2度目のポールポジション、ハミルトン降格で8番手
金曜日の2回のフリー走行でトップタイムをマークしたのはハミルトン。しかしギアボックス交換による5グリッド降格というハンディを負うことが決まっており、さらに土曜日の最後のフリー走行ではベッテルが最速タイムを計測、追いうちをかけられた。
予選Q1でハミルトンがトップを奪ったものの、Q2ではメルセデスの僚友バルテリ・ボッタスが1位。ボッタスはトップ10グリッドを決するQ3の最初のアタックでも一番速く、わずか0.042秒遅れてベッテル2位、ハミルトンは3位だった。セッション終了間際、各車は最後のフライングラップに入っていたが、ハースのロメ・グロジャンがコース上にストップ、黄旗が振られたことでタイムアップは果たせず。結果ボッタスが第3戦バーレーンGPに次ぐ自身2度目のポールポジションを獲得した。
ハミルトンが8番グリッドに降格したことで、フェラーリのキミ・ライコネンが3番グリッドに繰り上がった。その後ろにはダニエル・リカルド、マックス・フェルスタッペンとレッドブルの2台が並び、グロジャンは6番手からスタートすることになった。続いてフォースインディアのセルジオ・ペレス7番手、同じくエステバン・オコンが9番手に入り、トロロッソのカルロス・サインツJr.がトップ10最後の位置につけた。
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抜群のスタートでボッタスがトップを守る
上位10台は、8番グリッドから挽回を狙うハミルトンのみスーパーソフトタイヤ、他は最もやわらかいウルトラソフトを履き、71周のレースがスタート。フライングギリギリの抜群のダッシュを決めたボッタスがトップを守り、2位ベッテル、3位リカルド、4位グロジャン、5位ライコネンが続いた。フェルスタッペンがターン1で他車のクラッシュに巻き込まれ0周リタイア。そのおかげでハミルトンは7位に上がった。
先頭のボッタスはファステストラップ連発でリードを拡大。この日の主役が自分であることをアピールするかのような力走をゴールまで続けることになった。
もう1台のメルセデス、ハミルトンは、すぐに5位までポジションアップを果たすも、4位ライコネンをなかなか抜けないでいた。フェラーリのタイヤにはブリスターができており、その後ろを走っていたハミルトンのメルセデスもブレーキの熱が上昇。ハミルトンはクーリングのため車間を若干広げざるを得ず、順位はしばし膠着(こうちゃく)した。
この状況を打開するため、31周を終えてハミルトンがピットに入り、ウルトラソフトタイヤに履き替えた。また34周目に3位リカルド、翌周には2位ベッテルがそれぞれスーパーソフトにチェンジした。トップ独走のボッタスは41周してようやくピットに入りスーパーソフトに換装。ベッテルの4.5秒前でコースに復帰した。
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ベッテルとハミルトンの猛追
ピットストップが一巡すると、1位ボッタス、2位ベッテル、3位リカルド、4位ハミルトン、5位ライコネン。このタイミングでハミルトンとライコネンの順位が逆転した。
しかし、勝負はまだ終わっていなかった。首位を守り続けるボッタスに対して、2位ベッテルが3秒、2秒と差を詰め、残り5周で1秒台に。そして2周で1秒を切ってきたのだ。しかしファイナルラップでも順位は変わらず、落ち着いた走りでボッタスが第4戦ロシアGPに次ぐ自身2度目の勝利を飾った。
またトップ2台の後ろでも、3位リカルドに4位ハミルトンが肉薄。ラスト2周でハミルトンが抜きかけたが、すぐにリカルドがポジションを取り戻すという手に汗握る展開となった。結局、リカルドがチームの名を冠したサーキットでなんとかポディウムを守り切り、ハミルトンは2戦連続で表彰台にのぼれなかった。
優勝を逃したベッテルだったが、ハミルトンとのポイント差は14点から20点に広げることができた。そしてボッタスは、ハミルトンの15点差にまで近づくことができた。
フェラーリ対メルセデスの2強対決は、徐々にだがメルセデスが速さ、強さを持ち直してきている。ベッテルとハミルトンという2強の戦いにも、ボッタスという新たなプレーヤーが加わりつつあるのかもしれない。
次戦イギリスGP決勝は、1週間後の7月16日に行われる。
(文=bg)