第51回:幸運の女神には前髪しかない
2017.07.25 カーマニア人間国宝への道フェラーリはお預け!
暑い。それにしても暑い。こう暑くちゃフェラーリなんか乗ってられん!
日本の夏は、フェラーリに適さない。エアコンが効く・効かないの問題ではない。たとえエアコンが効いたって、窓を閉めたらフェラーリサウンドがあまり聴こえない。その時点でもうフェラーリに乗る意味はほとんどなくなる。
よって私は、エアコンがビンビンに効いた「458イタリア」でも、夏はほとんど乗りませんでした。ましてや「328」なんか乗ってたまるか!
328にはエアコンではなくクーラー(ヒーターとは別に稼働する冷房装置)がついているが、その容量というか馬力? は実にささやかで、吹き出し口に手を当てれば確かに涼しい風は出るものの、ニッポンの夏にキャビン全体を冷やすなどまるで不可能。
それでも、日が落ちた夜なら大丈夫だろうと、辰巳パーキングに出撃してみました。行きは渋滞ゼロだったのでカイテキにフェラーリサウンドを満喫できたが、帰路は若干渋滞があり、そうすると水温もけっこう上がるし、外気はジメジメジトジトだし、フェラーリ様をいじめてるだけみたいなブルーな気分に。ゴメンナサイ赤い玉号!
夏の首都高山手トンネルなんぞ論外だ。あの中は外気より10度近く高かったりするので、渋滞してたらそれこそ人車ともにお陀仏(だぶつ)の可能性がある。
とにかくこう暑くては、謎のメチャ軽ステアリングの原因究明も中断せざるを得ない。9月にまたお会いしましょう。バッハハ~イ。
ディーゼルLOVE復活
実は梅雨に入ってフェラーリ様にほぼ乗らなくなってからこっち、スーパー節約号こと「ランチア・デルタ1.6マルチジェット」の後継マシンのことばかり考えるようになっておりました。ディーゼルLOVE復活です。
というのも、F-X(次期主力戦闘機)の有力候補である「プジョー308 BlueHDi」の登録済み未使用車が、かなりドバッと市場に出回り始めていたからです。ディーラーのデモカー落ちですね。
プジョーのクリーンディーゼルが日本に導入されたのは去年の夏。1年経過を前に、デモカーの入れ替えが急増したようだ。
こういうのはカーマニアの「狩り」の好機。好機は逃すともう二度とやってこない。幸運の女神には前髪しかないと申しますので、後から追っても遅いのです。
実は我が家の「DS 3」も、昨年10月にディーラーのデモカー落ちをゲットしたものです。登録後わずか4カ月、走行20kmで、新車価格より56万円安かった。うれピ~!
DS 3は昨年6月にマイナーチェンジがあり、デモカーが速攻で旧モデルになってしまったという、ディーラー様にとっては大変悲しい状況でした。まさにカーマニアにとって狩りの好機! 思わず突撃してしまった次第です。「今買わなきゃもう買えない!」その思いが私を激しく突き動かしたのです。
が、営業マン氏によれば、「このクルマ、4カ月前から中古車として出してましたけど、ずーっとまったく売れなくて、もうあきらめて営業車にしようとしてたところでした」だって。幸運の女神は、焦らなくても結構そこらをプラプラしてるんだな~。焦ってるのはオレだけか?
カーマニアゆえの悩み
とにかく、プジョー308 BlueHDiは今が買い時だ。
でもそれを買うと、DS 3とかなりキャラがカブる。「なんでそんな似たようなクルマ2台も買ったの?」って言われそう。
カーマニア的には、片や3気筒のダウンサイジングターボ、こなた4気筒ディーゼルで、別分野のクルマなんだけど、どっちもPSAグループだし同じディーラーで売ってるし。
なので、308を買うならSW(ステーションワゴン)にしようと思ったんだけど、考えてみると自分にはもう、ステーションワゴンを必要とするライフスタイルがない! 子供はデカくなって今更ワイワイ家族旅行でもなく、愛犬も老衰で死んだ。そんなに荷物を積むことなんかない。
でも308のハッチバックだとモロにDS 3とカブる。3ドアと5ドアという違いはあるものの、ラインナップ的に美しくない。カーマニアは無駄にそういうことにこだわるのです。
ということで、もう一方の有力候補、「BMW 320d」を再考しなければならなくなりました。
320dに関しては、登場以来憧れ続け、「いつかは320dツーリング」と心に決めていた。カーマニアなので心に決めたクルマがかなり多いのですが、その中の筆頭格だった。
しかし、もはやツーリングは不要となると、「320dセダン」か……。
それはあまりにも平凡! なにせ3シリーズ セダンは、今や「杉並区のカローラ」だ。近所にウヨウヨしていてまったくカーマニア感がない。そこらのオッサンにしか見てもらえない。
ランチア・デルタならどっからどう見てもカーマニアだったのに、急にそこらのオッサンになるのは、カーマニアとしてあまりにも巨大な堕落ではないか!? そんなことも無駄に考えるのでした。
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。