第152回:サービス過剰なクルマとロボの娯楽大作
『トランスフォーマー/最後の騎士王』
2017.08.03
読んでますカー、観てますカー
日米両国で発展した物語の最新作
前作『トランスフォーマー/ロストエイジ』でオプティマス・プライムが地球から去り、バンブルビーが暫定リーダーとなってディセプティコンと戦っていた。倒されたはずのメガトロンも復活し、オートボットたちは苦戦を強いられる……。
3年ぶりの新作『トランスフォーマー/最後の騎士王』のストーリーを説明しようとしたのだが、知らない人にはまったく意味不明だろう。前回も同じようなことを書いたような気がするが、仕方がない。映画を楽しむためには、『トランスフォーマー』の世界観を知っておくことが必要なのだ。トランスフォーマーというのは、もとをたどると日本製の変形合体ロボット玩具である。アメリカでも大ヒットし、日米両国で30年以上にわたって物語が発展してきた。
現在上映中の『パワーレンジャー』も、日本の『スーパー戦隊シリーズ』がもとになっている。日本で放映された番組の戦闘シーンだけを使い、新たに撮影したドラマ部分と合体させてローカライズした作品がアメリカで大ヒット。ふんだんな予算を使い、娯楽大作映画に仕上げたわけだ。日本人は『秘密戦隊ゴレンジャー』から始まる赤・青・黄・ピンク・緑の衣装に身を包んだヒーローに慣れ親しんでいるから、中身がアメリカ人の高校生だとギョッとする。
『トランスフォーマー』はテレビアニメやコミックでさまざまなストーリーが展開していて、マニアでなければ全体像をつかむのは難しいかもしれない。知名度が上がったのは、2007年に実写映画の『トランスフォーマー』が公開されてからだろう。スティーブン・スピルバーグ(製作総指揮)、マイケル・ベイ(監督)というビッグネームがタッグを組んだ作品でもあり、世界的に大ヒットした。
シボレー・カマロがロボに変形
2009年の『トランスフォーマー/リベンジ』、2011年の『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』までが第1期。『ロストエイジ』から主要キャストが変わり、新シリーズが始まった。トランスフォーマーと協力して人類の敵と戦うケイド・イェーガーを演じるのが、マーク・ウォールバーグだ。今回も引き続き登場し、地球の危機を救う。
この欄で取り上げるのには理由がある。宇宙の彼方からやってきた金属生命体のトランスフォーマーたちが、地球では機械の形態をとっているからだ。彼らは物体をスキャンして自らを変形する能力を持っており、多くの場合対象としてクルマが選ばれる。イェーガーの相棒となるバンブルビーは、黄色い「シボレー・カマロ」だ。クルマが瞬時に巨大ロボにトランスフォームするプロセスが、メカ好き少年の心をとらえたのである。
『最後の騎士王』の舞台は前作から数年後だが、映画の冒頭はブリトン人とアングロ・サクソン人との激しい戦闘シーンだ。アーサー王伝説で描かれた戦いである。アーサー王は実在していて、魔法使いマーリンが不思議な力を持っていたのはトランスフォーマーと接触していたからだという。その後も歴史的大事件にはいつも彼らの影があった。トランスフォーマーがいなければ、第2次世界大戦でヒトラーが勝利していたのだ。
『最後の騎士王』では、有史以前からトランスフォーマーが地球の運命に関わっていたことが示される。イェーガーが地球を救う役割を担うことになるのも、歴史の必然だったらしい。今回から新たに加わった貴族のバートン卿(アンソニー・ホプキンス)とインテリ美女のヴィヴィアン・ウェンブリー(ローラ・ハドック)が、歴史の謎を解き明かす。風呂敷を広げるだけ広げていて、149分の尺ではとても描ききれない壮大なストーリーになった。
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自動運転のシトロエンDSが激走
マイケル・ベイ作品だから、サービス精神は満点である。最新VFXを使ってド派手な戦闘シーンを畳みかけ、巨大ロボたちの迫力満点のぶつかり合いが繰り返される。3Dだから上下左右に加えて前後の奥行きも加わり、スクリーンに映し出されている動きをすべて把握するのは困難だ。多岐にわたるエピソードを追うだけでも大変なのに、要所要所にギャグがちりばめられているので観客の思考は寸断される。良くも悪くも、容赦ない過剰さがこの監督の持ち味なのだ。
イェーガーとバンブルビーは、次第に追い詰められる。ディセプティコンはTRFと結託していて、共同でオートボットを狩るのだ。TRFといっても、「Boy meets Girl それぞれの~」とか歌いだしたりはしない。Transformer Reaction Forceという人類の対トランスフォーマー部隊のことである。いよいよ危機的な状況になった時、オプティマス・プライムが現れた。しかし、彼はなぜかオートボットたちに襲いかかってくる……。
というわけで、アクション、美女、友情ストーリー、歴史の新解釈と、娯楽作の要素をてんこ盛りにした作品である。観た後にお腹いっぱいになるのは間違いない。クルマからロボへの変身シーンもふんだんに用意されている。バンブルビーは、もちろん最新型のカマロだ。最近いろいろと私生活が大変な渡辺 謙が声をあてている侍ロボのドリフトは、前作の「ブガッティ・ヴェイロン」から「メルセデスAMG GT R」に変わった。
高性能スポーツカーが多く登場する中、「シトロエンDS」が活躍する場面もあった。自動運転機能を備えていて、ヴィヴィアンを乗せてロンドンを激走する。映画では新キャラとなるホットロッドが変形していたのだが、やはり性能に不足を感じたのか、途中からなぜか「ランボルギーニ・チェンテナリオ」に変わってしまった。珍しいところでは「キャタピラー」の油圧ショベルも姿を見せる。戦車や戦闘機、ヘリコプターに変形するロボもあるから、兵器マニアにもオススメだ。
(文=鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。