フォルクスワーゲン・ゴルフカブリオレ(FF/7AT)【試乗速報】
いつもと違って見える空 2011.09.08 試乗記 フォルクスワーゲン・ゴルフカブリオレ(FF/7AT)……399万9000円
以前と変わらぬソフトトップ・スタイルで復活した「ゴルフカブリオレ」。注目のニューモデルに試乗した。
スマートでスポーティ
電動メタルトップの「イオス」に取って代わられたかに見えた、「ゴルフ」のオープンモデルが、ソフトトップとおなじみの車名をたずさえて帰ってきた。さっそくセンターコンソールのハンドブレーキ脇にある「U」字型のレバーを押し下げると、ソフトトップが動き出した。手動でロックのたぐいを外す必要はない。完全な自動だ。トップがキャビン背後に収まり、数cm下りていた窓がスッと戻ってオープン化完了。その間わずか9秒あまり。これは速い! と感動してしまった。
オープン状態になった新型をあらためて眺めると、従来の「ゴルフカブリオレ」とは何かが大きく違っている。あのトレードマークだったゴツいロールバーが消えているのだ。さらに、以前は畳まれたソフトトップがキャビンの後端で盛り上がっていたが(後ろがよく見えなかったよなぁ)、それもなくなってやけにスッキリしてしまった。おまけにAピラーの根元からキャビンをぐるりとクロームのモールディングが取り囲んでいる。スマートなクルマになったものである。
スマートなイメージは、若干傾斜が強められたウインドシールドによるところも大きいように思う。これは天地方向の高さも低く、全高でいうと55mmも低められている。そのためボディは全体としてクーペ的なバランスとなり、スポーティな雰囲気をぐっと高めることにもなっている。またこの天地に低いウインドシールドは、同時に乗員にとって開放感を高めることにも役立っており、心なしか流れる風景がより身近に感じられるクルマになっている。
巻き込みはこんなに変わる
オープンにして走っていて思うのは、新型は風の巻き込みの少ないクルマだということ。両側のウィンドウを上げて60km/hで走っていると、ドライバーの頬をうっすら風がなでていく程度でしかない。これがどれくらいのものか、“定量的”に表現するために、今回は秘密兵器のアネモメーター(風速計)を用意してみた。
ドライバーの左の頬あたりを測ってみたら、この日の天候下(無風に近い日であった)では、車体後方から前方へ抜ける風は0.8m/sから1.4m/s、ときに一瞬2.0m/sを超えるくらい。これは我が家の扇風機でいうと(たとえが貧弱でスミマセン)、1mぐらい離れて「弱」の風に当たっているのに近い。髪の長い女性でも、不快にならずに済むだろう。
面白かったのは、前席のウィンドウを下ろすと風切り音は一気に増えるが、それほど風の巻き込みはひどくならなかったこと。だいたい2.6m/sから3.0m/sくらい。これは我が家なら扇風機の「中」である。
さらに実験は続き、今度は前席の両側を上げて、後席両側の小さなウィンドウを下げてみた。すると意外や、我が家ではほとんど押されることがない「強」ボタンに相当する4.0m/sから4.5m/sぐらいの風がドライバーの顔面をおそった。長髪のドライバーなら、髪の毛が大きく乱れる強さである。一見、存在感が小さなリアのサイドウィンドウだが、あるとないとでは大違いなのだ。
ちなみに、後席の居住空間を利用して設置するウインドディフレクターの効果は素晴らしく、我がアネモメーターのディスプレイは壊れたかのように0m/sを指すばかりであった。これは車速を80km/hに上げても変わらなかった。オーナーになったあかつきには、面倒くさがらず、ぜひ設置してみてほしい装備である。
ソフトトップへの“進化”
新型の見どころは、もちろん走行風の処理の巧みさだけではない。160psの1.4リッターツインチャージャーエンジンがもたらす低回転でもトルクに満ちた走りは、実はオープンドライビングにも意外な効能を持っていることがわかった。スロットルペダルに軽く足を乗せていると、2000rpmに達しない低い回転域ですっすっとスマートにシフトアップを繰り返していく。その一方で、ペダルを踏み込めば力強い加速に転じることもできるから、ドライバーは余裕をもって運転に徹することができ、結果として風景を楽しもうという気持ちにつながってくるように感じられた。
さらにゴルフ6の特筆すべき持ち味のひとつ、室内の静かさが効いている。オープン状態で走っていても音と振動が非常に穏やかなクルマであることはわかるが、クローズ状態にすればそれがよりいっそうはっきりする。布素材が本来持っている吸音性能に加え、ドアやウィンドウ周りに徹底した遮音が施されているらしく、ソフトトップのオープンカーにしては異例なほど室内が静粛である。高速道路で気になりがちな風切り音やトップのバタツキ音も、とてもよく抑えこまれている。
また、ボディの剛性感が高いことが、さまざまな点にいい影響を与えていることもよくわかった。一番わかりやすいのは乗り心地だ。足まわりはやや硬めの設定だが、路面からの入力に対してブルブルとだらしない震えを残すことはほとんどないから、硬さを不快に感じる場面はほとんどない。また、ゴルフならではの素直でキビキビとしたハンドリングもしっかり受け継がれており、運転して楽しいクルマであることは、あいかわらずである。
なるほど、電動メタルトップからソフトトップに戻ったのはマーケットに対する“媚び”や懐古趣味などではなく、マジメに進化した結果だったようである。
(文=竹下元太郎/写真=小河原認)
