アストン・マーティン ヴィラージュ(FR/6AT)【試乗記】
まさに、悍馬 2011.09.06 試乗記 アストン・マーティン ヴィラージュ(FR/6AT)……2450万8050円
かつて存在したモデル名で生まれた、新型アストン・マーティン「ヴィラージュ」。スポーツカーとしての実力はどれほどのものなのか? ワインディングで試した。
お得な(?)2300万
「馬をひけい!」
2011年に織田信長が生きていたとして、六天魔王・信長がこう叫んだとき、出てくるにふさわしい馬、現代でいえば自動車はなにか? やっぱり英国のサラブレッド・スポーツカー、アストン・マーティンがいいのではないか、と私は思うわけです。
今年3月のジュネーブショーで発表されたアストン・マーティンの新しい12気筒モデル、「ヴィラージュ」が早くも上陸している。大型アストンのスタンダードモデルたる「DB9」と高性能版「DBS」の間に位置づけられる、豪華グランツーリズモである。
とはいえ、2299万5000円という価格は、とんでもなく高価なDBSの3412万5000円よりも1000万円以上低く、DB9の2178万150円に100万円ほど上乗せしたに過ぎない。それでいて、馬力は497psと、DB9の477psの20ps増しで、DBSの517psに迫り、DBSと同じ20インチ径のタイヤ&ホイールを履き、軽量かつ耐フェード性に優れるCCM(カーボン・セラミック・マトリックス)ディスクブレーキを標準装備する。19インチ、鋳鉄ディスクのDB9に対して、たいへんお買い得になっているのだ。
ヴィラージュは、そのデザインが示唆しているように、技術的には発表以来8年を経過したDB9のアップデイト版で、主にDBSでつちかったテクノロジーが惜しみなく投入されている。商業的にはDB9をはじめとするVHアーキテクチャーの最終売りつくし(←筆者の憶測)バーゲンモデルといえる。手づくり少量生産のアストン・マーティンといえども、近い将来、より環境に適した新世代――それはメルセデス・ベンツとの提携によるという噂があるけれど――の導入を急がねばならないからだ。
なお、ヴィラージュとはフランス語でベンド(曲がり)、カーブ、コーナー、あるいはチェンジ、シフトの意だそう。80年代に一度使われている名称ではあるけれど、初代ヴィラージュは短命に終わっている。ここを抜ければ、次は全開にできるつなぎ、ということで与えられた。いやいや、ヴィラージュこそドライビングの喜びだ! セ・ラ・ヴィ。
磨きのかかった「DB9」
デザインはDB9をベース、というか、ほとんどDB9そのものといってよい。新しいステンレススチール製のグリルと「ラピード」ゆずりの新しいLEDヘッドライト、それに新デザインのメッシュグリル付きバンパーが与えられたことで、もともとクールだったDB9の表情にキラメキと現代性が加わった。まさに悍馬(かんば)である。美しき野獣。気品がある。エレガントである。寡黙で、シャツのボタンを首までキチンと止めていながら、はちきれそうな筋肉がどうにも隠しきれない。
ボディーサイズは全長4703mm、全幅1904mm、全高1282mmと、全長以外は20インチを履くDBSにごく近い。2740mmのホイールベースもDBSと同じだ。カタログ上の車重は1785kgで、DB9比15kg軽い。これは、鋳鉄製ディスクに比べて12.5kg減量となるCCMディスク採用の恩恵だろう。
ドイツはケルンでハンドビルドされる現代アストンの至宝、6リッターのV12は、最高出力497ps/6500rpmと最大トルク58.1kgm/5750rpmを発生する。わずか1500rpmで最大トルクの85%を生み出すフラットトルクが持ち味だ。組み合わされるトランスミッションは、DB9、DBSと同じZF製6段オートマチックの「タッチトロニック2」のみとなる。ファイナルはDB9の3.15から3.46に低められている。
じつはこれ、DBSと同じ数値で、0-100km/h加速はDBSの4.3秒に次ぐ4.6秒を誇るものの、最高速度はDB9の306km/hから299km/hに落ちている。リアルワールドでの速さを追求した、ということだろう。
12度斜め上方に開く「スワン・ウイング・ドア」を広げさせて着座してみよう。テスト車のインテリアはウッドが皆無で、いっそうクールだけれど、DB9と基本的には同じレザーと天然素材を用いたブリティッシュモダンの世界であることに変わりはない。美しき野獣を目覚めさせるには、クリスタル製のキーを押し込んでやればいい。
その気にさせてくれる
オールアルミニウム製のV12 DOHCは一声、ガオッとほえ、コンクリートジャングルに野獣の存在を知らしめるや、ひっそり息を潜める。12本のシリンダーは粛々とアイドルするのだ。ステアリングコラムに固定される、右+(アップ)、左−(ダウン)のマグネシウム製パドルの右側を手前に引くと、ギアがローに入る。ブレーキをリリースすると、ごく滑らかな動きでヴィラージュは発進する。この瞬間、「洗練」という言葉が浮かんだ。前後バルクヘッドに消音材を増やしたことで、室内は静粛性が増しているのだ。
その一方で、野生味は依然、現代アストン・マーティンの魅力として残っている。ADS(アダプティブ・ダンピング・システム)を持つ足まわりは、目地段差のある日本の道路ではハードにしたほうが、当然固めだけれど、ボディ全体の動きが小さくなる。その場合、下腹に心持ち力を入れ、姿勢を正しくする。私は悍馬を駆って遠乗りしているのだ。おのずとそういう気分になる。
フェイシアの「スポーツ」ボタンを押すと、ドライブ・バイ・ワイヤのスロットルが30%鋭くなり、タッチトロニック2のシフトが50%速くなる。さらにエグゾーストのバイパスバルブが早く開き、野性味あふれる打楽器系のサウンドによる行進曲の演奏時間を長くする。ゆえに筆者は始終「スポーツ」を選択する。
タッチトロニック2は、トルコン式ATのくせに、歯切れの良いギアチェンジを見せ、ときにシングルクラッチのトランスミッションであるかのような変速ショックさえ発生してみせる。これも野性味の演出なのだろう。
前後重量配分50対50から生まれるハンドリングは、山道を本気で飛ばそうとするとお尻がムズムズする。ロールはほとんどしない。それ以上踏めば、リバースステアに転じる。LSD付きゆえ、腕っこきには自由自在に違いない。残念ながら、筆者は腕っこきではないので、それ以上のことは言えない。信長公の御馬のくつわを預かったにすぎぬ。ありがたき幸せ。燃費計は4.2km/リッターでござった。
(文=今尾直樹/写真=峰昌宏)
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今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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