技術開発のためにテストコースを改修
自動運転の実現に向けた各社の取り組みとは?
2017.10.30
デイリーコラム
高速道路や市街地の道路環境を再現
ちょっとおおげさな話に聞こえるかもしれませんが、2017年10月20日は(正確には翌日も)、自動車業界にとって非常に重要な日だったのかもしれません。それはスバルが、報道向けに北海道の「スバル研究実験センター美深(びふか)試験場」を公開したからです。
私たちはいわゆる“前入り(前日から現地に入る)”したわけですが、出発時の空港の待合室では、同業者やメディアの方々がこれほどまでにいるのか……と思うくらいの参加人数に驚かされました。それだけスバルの気合を感じるイベントだったといえるでしょう。
ちなみに、ツアーの一環として帰路の飛行機の中では、同社の吉永泰之社長が“ビデオメッセージ”で登場したのですが、同氏もまだこの完成した施設を見ていないとのこと。社長より先に見てしまうなんて、少し申し訳ない気持ちもあったりして……。
余談はここまでとして、美深試験場について簡単に解説します。
もともとスバルと北海道の関係は深く、1977年に美深町内での走行試験を開始。1995年に試験場が完成するまでの約18年間は、道道や町道を借用してのテストだったとのこと。その後、2003年に高速周回路が完成し、そして今回、大幅な改修により「高度運転支援技術センター」が新設されたわけです。特に高速道路を模した1200mの直線路には、出合い頭の事故なども想定した十字路を設置したり、市街地コースには信号を備えた交差点や、逆に信号のないラウンドアバウトを設けたりすることで、あらゆるシーンでのテストが行えるようになっています。
“ゴール”へのアプローチ方法はさまざま
では、この施設の完成でスバルが目指すものとは何か? ここで何を研究するつもりなのかといえば、それはもちろん「次世代型アイサイト」でしょう。同社で自動運転プロジェクトの責任者を務める柴田英司氏によれば「現在のステレオカメラにミニマムデバイス(高精度デジタルマップやGPSなど)を取り付けることで、自車線だけでなく他車線も認識しての自動車線変更機能を実現。そこからさらに技術レベルを磨いて、究極の安全を目指す」とコメントしていました。
自動運転に関しては、最終的な目標は“レベル5”の完全自動運転ですが、メーカーによってそこまでのアプローチは微妙に異なります。既存の前走車追従クルーズコントロールを進化させ、「セレナ」から「プロパイロット」の導入を開始した日産、新型「A8」で“レベル3”の市場投入をもくろむアウディ、スマートのマイクロカーによる“レベル5”実現に向けて研究を進めているダイムラー。こうした各社の取り組みからは、「まず技術を市場投入してそこから育てよう」、あるいは「メーカー内部で安全面も含めて徹底的に技術を磨き上げてから商品化しよう」といった、商品化に対するさまざまな姿勢がうかがえます。
2020年までに存在感を示す必要がある
研究開発の仕方もまちまちで、海外ではボルボのように、すでに一般道での実証テストをどんどん進めているメーカーもあります。もちろん、(多少規制が緩和されたとはいえ)これを日本で実現するためには法律やインフラなどクリアしなければならない問題が山積み。いずれにせよ、日本のメーカーは2020年に東京オリンピック・パラリンピックがあるので、それまでに世界に対して存在感を示せるようにならなくてはなりません。その点では、正直日本は少し遅れていますし、「待ったなし」の状況にあるといえるでしょう。
今回、スバルの試験場を見学して感じたことは、同社は“レベル5”の完全自動運転に関しては、主に「運送事業者の技術」として捉え、一般ユーザーに対しては“レベル4”までの技術を都市間高速道路から量販価格で実現することを目標としていることです。つまり、あくまでも主役はドライバーであり、日々の安心で優しい自動運転技術を目指しているわけです。こう考えると自動運転も非常に身近に感じることができるのではないでしょうか?
(文=高山正寛/写真=スバル/編集=堀田剛資)
