トヨタ・アベンシスXi(FF/CVT)【試乗記】
スッキリ爽快 2011.08.30 試乗記 トヨタ・アベンシスXi(FF/CVT)……250万円
約3年ぶりに日本市場に導入された「アベンシス」に試乗。欧州向けモデルとして開発され、4カ月限定で日本向けに生産される「トヨタがつくった欧州車」の乗り味は?
ほどよく目立つ!?
「アベンシス」の再導入に大きな期待を抱いていたという人、率直に言って、そう多くはないと思う。筆者自身もそう。「へぇ、そうなんだ」というぐらいにしか思っていなかった。それだけに乗ったら驚いた。いいじゃない、アベンシス。導入には、確かに意味がある。
何でもソツなくそろえていそうなトヨタだが、実はミドルサイズのワゴンというピースは欠けていた。ワゴン市場自体が縮小したからに他ならないが、気付けばワゴンは「カローラフィールダー」という選択肢しか残っていなかったのだ。
そこで急きょ、ワゴンだけ日本向けが期間限定生産され、1グレードで投入される新型アベンシスは、実はヨーロッパでは2009年から販売されている。「トヨタがつくった欧州車」というコピーで売られた先代はパッケージングも走りもヨーロッパ生まれらしい実直さが光っていたが、けっして華やかな存在ではなく、現行モデルでは導入が見送られていたのである。
それこそ2年前の発表の時には、前後オーバーハングの長さ、大きく傾斜したAピラーやクーペのようなルーフラインなど、このセグメントのトレンドに安易に乗っちゃったなぁ……と映って大して良い印象ではなかった外観は、今見ると意外や悪くない。周囲の状況も変わってきたからだろうか。最初に見た時ほどやり過ぎ感はなく、それでいて力強くショルダーラインが張り出したリアビューなどによって容易に埋没しない存在感もある、結構良いあんばいに映る。残念なのは、退屈なボディカラーしか用意されないことだ。
丹念な作り込み
インテリアはデザイン自体はシンプル。しかしクオリティは十分に高く使い勝手も良さそうだ。そうそうこのクルマ、販売台数が少ないがゆえにウインカーレバーは左、ワイパーは右のままなので、そこだけはご注意を。
全幅が1815mmあるが、ライバル達もサイズアップが著しいことから前席は特別広くは感じられない。しかし着座位置を低く設定し、ステアリングコラムの角度もそれにピタリと合っているのは気持ちが良い。ルーフ形状のせいかサンバイザーが視界の上方にちらつくのが少々気になるぐらいだ。
広さを実感できるのは後席の方である。膝の前には握り拳が縦にして入るし、頭上も余裕。左右方向のゆとりも大きく、これなら大人3名乗車も十分実用的だ。床面も平らだから長時間でもいけるだろう。
荷室も広い。通常時の容量は543リッターあるし、後席バックレストを倒せば奥行き1920mm、幅1550mmという大きな空間が現れる。未使用時にトノカバーを床下に収納できたり、フロア下にも収納が用意されたりと使い勝手にも配慮がなされている。
とりあえず室内空間やパッケージングの面では、ヨーロッパのライバル達に遜色(そんしょく)ないものに仕上がっていると言っていいだろう。奇をてらった所はないが、すべて丹念に作り込まれている。そんな印象である。
体感性能は数値以上
感心したのは走りだ。エンジンは実用域からしっかりトルクが出ていて、普段は1000rpm台、軽く加速させても2000rpm台で十分に力を感じる。先代のイメージで、てっきり2.4リッターエンジンを積んでいるのかと思ったら、2リッター自然吸気と聞いてビックリ。スペックは地味でも、ここまでのドライバビリティが出せるなら文句なしだ。
乗り心地は一般的には硬めと評される部類。けれど先代ほど突っ張った感じではなく、姿勢がフラットに保たれるので、少なくともステアリングを握る分には快適に感じられる。オッと思ったのはステアリングレスポンスの良さ。微小な舵角(だかく)からスッと反応するので、首都高速のようなところでも、そして別に飛ばさなくても、とても気持ち良く走れるのである。
とりたてて上質だとか、味わい深いだとか、そういう走りではない。けれど乗り手の意思に忠実な動きはスッキリ爽快。気持ち良い乗り味が実現されている。
総じて、このセグメントの輸入車にも全然負けてないぞ、と思った。トヨタが最近よく使う“ワクワク、ドキドキ”とは違うかもしれないが、何気ない普段使いのあらゆる場面で実感できる、しっかり作り込まれたクオリティの高さには、実は日本で買えるトヨタ車に欠けているのは、ワクワクよりドキドキより、まずこういうことじゃないの? と感じさせられたのだった。
しかもこのクルマ、250万円というヨーロッパのライバルより断トツに手頃な価格で手に入るのだ。トヨタやるじゃん、海外向けは。日本向けのモデルも、もっと頑張ってよ……という意味も込めつつアベンシス、個人的には推奨銘柄とする次第である。
(文=島下泰久/写真=郡大二郎)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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