“現世ご利益”のあるサービスがようやく登場
老齢者介護の現場から“つながるクルマ”の未来を考える
2017.11.20
デイリーコラム
普通のクルマと普通のスマホがあればOK
読者諸兄姉の皆さまは、モーターショーなどで自動車メーカーやサプライヤーが紹介している“コネクテッドな未来”に、心をときめかせたことがあるだろうか? ぶっちゃけ、記者は一度もない。理由はカンタンで、実現が何年先かも分からん絵空事の未来に、実感が湧かないからだ。今をときめくIoTやらAIやらビッグデータやらについても、これまでは一歩引いたところから「ふーん」と眺めているだけだった。
ところが過日、「そろそろ、そうした意識は変えなきゃいかんかも」と思わせるサービスに出くわしてしまった。ダイハツが開発した介護施設向けの送迎支援システム、その名も「らくぴた送迎」である。
……画面の向こうから、「大風呂敷を広げておいて、ずいぶんミニマムな話だな」「竜頭蛇尾とはまさにこのこと!」なんて声が聞こえてきそうだが、いやしばし待たれい。石を投げるのは、せめてコラムを読み終わってからにしてください。
あらためまして、ダイハツが開発した「らくぴた送迎」は、デイサービスをはじめとした通所介護施設向けの送迎支援システムである。小難しい表現を使うと、「スマートフォンを使った簡易テレマティクスシステム」。特別な機器に頼ることなく、施設が所有するフツーのクルマで使えるところがミソとなっている。
主な機能は2つ。ひとつは、送迎計画の自動作成機能だ。これまでは、一部の職員が長年の経験とカンを頼りに作っていた送迎の運行スケジュールを、送迎の利用者と使用するクルマを登録するだけで、システムが「ポン」と作ってくれるようになったのだ。蓄積された運行記録を活用すれば、送迎ルートの見直しや、車両台数の削減も図ることができるという。
もうひとつが、ダイハツが「国内初!」と高らかにうたう、介護施設と送迎車との相互連携機能だ。システムによって自動生成された送迎計画は、スマートフォンを介して各ドライバーの間で共有される。しかも、その後の運行状況や介護者のキャンセル通知なども、皆がリアルタイムで共有できるのだ。
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システム自体は非常にシンプル
例えば、送迎車が施設を出発した後で、ある利用者から「今日はおじいちゃん、具合が悪くてねえ……」とキャンセルの連絡が入ったとする。すると、施設のスタッフがシステムに「佐藤さんキャンセル」と情報を入力(入力といっても、ポチっとボタンを押すだけだ)。その情報は送迎車と共有され、担当ドライバーは無駄足を踏むことなく、次の利用者のお宅に向かうことができるというわけだ。
逆もしかりで、ドライバーが利用者のお宅で「ごめんなさい。おばあちゃん急に具合が悪くなって……」と伝えられたら、今度は彼がスマホを使って鈴木さんのキャンセル情報を発信(やっぱりボタンを押すだけ)。施設側は電話などでの連絡がなくとも、「ああ、今日は鈴木さんお休みか」と知ることができる。
……こうして文字にしてみると、つくづくシンプルなシステムである。つながっているのはドライバーのスマホと施設のPCだけ。しかも情報の共有自体は“人力”なわけで、コネクテッドというにはあまりにも簡素である。もちろん、小難しい先進技術は使われていない。
しかし、このシステムは上述のシンプルな仕組みだけで、現世ご利益をシッカリ実現している。送迎ドライバーを煩雑な仕事から解放し、介護事業者の業務の効率化にも寄与しているのだ。
今はただの“送迎支援システム”だが……
記者がこのギョーカイに入ったころには、すでに“つながる技術”を使ったモビリティーの進化が各所で言いはやされていた。ビッグデータやコネクテッドカーといった“新語”が出てきてからも、もうずいぶんたつ。しかし、いまだに記者は「いやあ、ビッグデータのおかげでモビリティーは変わったなあ!」なんて感心したことがない。誰が受益者で、どんな現世ご利益があるのかをナマで実感したためしがないのだ。
それどころか、最近では技術のほうが一人歩きしている気さえする。某社などは「タクシーに車載カメラを搭載して、映像分析で分かったレーン渋滞情報をアプリで配信しよう!」なんて、壮大なんだかなんなんだかよく分からないサービスをブチあげたが、正直なところ、「そんな迂遠(うえん)なことを考える前に、やることがあるんじゃないの?」と思った人は私だけじゃないはずだ。弊社編集長のこんどーなども、「そうはいっても他に目的があるんとちゃうの? タクシーの車載映像なんて集めて、使い切れんのかなぁ?」と首をかしげていた。
また、タクシーといえば「Uber」や「全国タクシー」といった高度な配車サービスも普及しつつあるが、あれにしても複雑なシステムを構築しながら、“白タク”が許されない日本でできることといえば、「自分の元にタクシーを呼びつけること」だけ。便利は便利だが、さすがに“モビリティーの未来を感じるぜ!”とまではいかなかった。
だからこそ、原始的でありながら実利のハッキリしたシステムの方に、「始まったな。未来」と感じてしまったのだ。
このシステムが進化して、レンタカーやカーシェアの窓口に使われたらどうなるか? タクシーの予約サービスに応用する利点はないか? わが街、武蔵野市を走るコミュニティーバスの運行管理に使われたとしたら?
弊社デスクの竹下は、路線廃止の危機にさらされる過疎地のバスの存続に思いをはせていた。今はシステムは質素だし、ネットワークもちっちゃなものだが、その先に広がる夢はでかい。妄想は際限なく広がる。
そういえば、ダイハツは2015年の東京モーターショーで発表したコンセプトカー「NORI ORI(ノリオリ)」について、個人所有ではなく“コミュニティーでシェアするクルマ”として提案していた。そんなクルマの使い方が実現する時代に、ユーザーはどうやってクルマをやりとりするのか? ミニマムでシンプルな「らくぴた送迎」に、未来のライドシェアの基盤を見た気がした。
そんなわけで、がんばれダイハツ。
(webCG ほった<Takeshi Hotta>)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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