そのココロは“名古屋とジュネーブの融合”
ロサンゼルスにみる自動車ショーの本質
2017.12.11
デイリーコラム
カリフォルニアではこれがフツー
デトロイトやニューヨークと並んで開催される、アメリカの3大自動車ショーのひとつがロサンゼルスオートショー(LAショー)である。初開催は1907年と、その歴史は実に100年におよぶが、ぶっちゃけ規模はデトロイトに遠く及ばない。それどころか、実際に歩いた感じ、間違いなく東京モーターショーよりちっちゃい。なにかにつけてバカでかいアメリカにおいては、あくまで一地域のショーという立ち位置なのだろう。
しかし、だからこそデトロイトスリーの圧力に支配されず、海外メーカーも力を入れたがる独自のポジションを得たのだろうとも思う。言ってみれば、アメリカ版名古屋モーターショーであり、アメリカ版ジュネーブモーターショー。……後者はちょっとホメすぎだけど、それが今回の取材で得た、LAショーの率直な印象だった。
会場で真っ先に感じたのは、ありきたりだが「エコカーはすっかり浸透したなあ」という事実だった。駐車場ではプラグインハイブリッド車(PHEV)のミニバンがせっせと充電中で、主要メーカーのブースでは必ずその一角をハイブリッド車やPHEV、電気自動車(EV)が占めている。しかもそれらは、何の変哲もない大衆セダンやハッチバックが大半で、しかもしかも、それらすべてが“今回が初披露!”な最新モデルというわけでもない。日本人が思う以上に、ここでは次世代環境車なんてのはフツーの存在なのだ。
だからということもあるのだろう。どう考えても地球に厳しそうな700hpオーバーのマッスルカーどもと、そうした環境対応車が、何の疑問もなくブースを共にしていたりする。展示者サイドに言い訳がましさはないし、見る側もいちいちそれで目くじらを立てたりはしない。
説教くさいムードは皆無
皆さんご存じの通り、ロサンゼルスが位置するカリフォルニア州は、世界で最も環境負荷に厳しい規制をしいている地域であると同時に、アメリカの富裕層がこぞって居を構えている地域でもある。道行くクルマを見ていても、バカでかい「キャデラック・エスカレードESV」のハイヤーが“黒タク”感覚で行き来する一方で、ホテルの前では「プリウスv」(日本でいう「プリウスα」ね)のタクシーが客待ちをしている。空荷のフルサイズピックアップトラックが遠慮ナシに走っているかと思えば、テスラのEVや「シボレー・ボルト/ボルトEV」なんてクルマもチラチラ散見される。ガスガズラーとエコカーが混在する光景もまた、ここではフツーなのだ。
もうひとつ、会場を歩いていてぼんやり感じたのが、なんというか“政治色”の薄さだった。思い起こすに、とにかくコンセプトカーの影が薄かったのだ。目立っていたのはフォルクスワーゲンやBMWが持参したEVコンセプトがせいぜい。ワールドプレミアはトヨタの「FT-AC」くらいだったのでは? しかも、このクルマも自動運転や電動パワートレインといったジドーシャの未来を高らかにうたう、説教くさい類いのものではなかった。
このあたりは、東京やフランクフルトとはえらく違う。
確かに、記者としてはしれっと展示されるエコカーの数々が強く印象に残ったのだが、それは上述の通り、カリフォルニアという地域の特性がそうさせたものだろう。展示者は「来場者の興味を引くものをブースに並べているだけ」といった趣で、従って、ギョーカイの未来を示唆するような新しい提案などは、会場のどこを探してもなかった。
それじゃあ見ごたえがなかったのかと言えば、とんでもない。普段ゲップが出るほどクルマに触れている記者にとっても、その見ごたえは十分だった。展示車のラインナップにみる欲望と自律の混在、特別な存在ではない“フツーのエコカー”の数々、「いかにもクルマ好きな連中がやってますよ」といった、サブイベントにサブ展示。このショーには、カリフォルニアという市場の特性が凝縮されている……と、アメリカ初上陸の記者は勝手に思った。ザッツ・カリフォルニア、ザッツ・西海岸。
魅力的な“ワールドプレミア”の数々
そして、それ以上に記者を満腹にさせたのが、なんといっても展示内容の“濃さ”だった。日本ではなかなかお目にかかれない巨大なピックアップトラックやマッスルカーを拝めたから……というのはモチロンあるのだが、やはり話題性のあるワールドプレミアが大挙して押し寄せたのが大きいだろう。
ショーの主役を張った「ジープ・ラングラー」を筆頭に、可変圧縮比エンジンを搭載した「インフィニティQX50」や、「メルセデス・ベンツCLS」「BMW i8ロードスター」。ポルシェはなんと、「718ボクスターGTS」「718ケイマンGTS」「911カレラT」「パナメーラ ターボS Eハイブリッド スポーツツーリスモ」(車名長!)と、4台ものニューモデルを初公開してみせた。地元ピープルからしたら、トレンドのど真ん中を行く3列シートSUVの「スバル・アセント」「レクサスRX L」も要チェックだろう。もちろん、アメリカの誇り「シボレー・コルベット」に追加された新顔「ZR1コンバーチブル」の存在も忘れてはならない。
地域ショー的立ち位置でありながら、国内・海外問わず、さまざまなメーカーが多数のワールドプレミアを持ち寄る事実は、年間販売1000万台を超えるアメリカ市場の魅力の大きさと、門戸を広く開いているLAショーの性質をよく表していると思う。ふと、「“モーターショーのプライオリティー”って、こういうことなんじゃないの?」と、過日催された某国のモーターショーを思い出してしまった。
もう同じ未来には飽きた
もうひとつ、今回のショーで気づかされたのが、もう遠い未来を語るコンセプトカーなんぞなくとも、モーターショーというイベントが心象的に成立してしまうという事実だった。そもそも、私たちはすでにコンセプトカーが見せる未来の端緒に触れてしまっている。EVも燃料電池車も街を走っているし、金を払えばプチ自動運転カーだってコネクテッドカーだって買える。夢の半分はもう現実となってしまっており、いまさらVRで未来のモビリティーを見せられても、たいていの場合、それは想像の範囲内の提案でしかない。
さらに言えば、そこで再現されているのは交通インフラの一部と化した、夢も希望も自由もありゃしない“ただの移動”の風景である。報道関係者や投資家はともかく、ショーに足を運ぶクルマ好きがそんなもんに目を輝かせると、メーカーは本当に思っているのだろうか? ちょっと、いろいろ考えなおした方がいいと思うぞ。
今回の取材で感じたあまたの印象をひとまとめにして表すと、それはいろんな意味で、「トヨタConcept-愛i VS 新型ジープ・ラングラーは、10:0でラングラーの勝ちだな」というものだった。ホント、いろんな意味で。
過日のデイリーコラムで、鈴木ケンイチさんは「モーターショーは世界的に岐路に立たされている」と述べていたが、“なごやんジュネーブ”なロサンゼルスショーは、まあしばらくは大丈夫なんじゃないかなあと、無責任に思った次第である。
(webCG ほった)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。