ホンダ・シビック タイプR(FF/6MT)
タイプRよ、どこへ行く? 2017.12.13 試乗記 320psのパワーと400Nmのトルクを誇る新型「ホンダ・シビック タイプR」。その速さはもはや“FFのスーパーカー”と呼ぶべきものだ。ニュルブルクリンクの北コースを7分43秒80で駆け抜けたその次は、一体どこに向かおうとしているのだろうか?「ルノーさんもついてこれないでしょう」
「シビック、また始めました」。7年ぶりで日本に帰ってきたシビックシリーズのトップガンが、タイプRである。限定750台でお取り寄せされた先代モデル同様、メイド・インUKだが、こんどはいつでも買えるカタログモデルである。
新型のいわば開発ヘッドコピーは「7分43秒80」。先代のラップタイムをまた7秒近く更新し、引き続き「ニュルブルクリンク、FF最速」を看板に掲げる。「当分、ルノー(メガーヌR.S.)さんもついてこれないでしょう」。復活シビックのお披露目となった2017年5月の「シビックデイ」で、エンジニアがそう言っていた。
今回、高速道路を走っていると、ジャンクションで先々代の赤い欧州タイプR(FN2)が合流し、後ろに入った。英国製タイプRが2台続くなんて、福引1等賞よりも低い確率だろう。FN2・タイプRは、「タイプRユーロ」の名で2009年にイギリスから限定輸入された。「フィット」ベースのコンパクトな3ドアに自然吸気2リッターVTECを搭載し、いま思うと最後のシビックらしいシビックのタイプRといえた。
そのあとのFK2型が先代の欧州タイプR。このときからボディーが大型化し、2リッターエンジンはターボ化され、ターゲットは「ニュル最速」に置かれた。英国モノになったシビック タイプRは、いまやすっかりニュルブルクリンクに憑りつかれちゃったのである。
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洗練されてより上等に
ニュルでまた速くなった新型タイプR、どれだけ硬派になったか、という予想は、走りだすなり裏切られた。もともと先代も「BMW M135i」並みの走行品質を備えていたが、新型はさらに普段使いでのマナーが洗練され、上等になった。
アダプティブダンパーを備える足まわりはもちろんスポーティーに硬いが、荒くはない。乗り心地はフラットで、たしかに“欧州仕込み”を感じさせる。クラッチも重くない。
10psアップした320psの2リッター4気筒VTECターボには、新たに軽量フライホイールが組み込まれ、過給レスポンスを高める電動ウエイストゲートが付いた。といっても、その結果、よりレーシングライクになった印象はなく、先代のほうがもっと吠えたような気がする。3本出しマフラーや、派手なウイングやディフューザーや、ルーフ後端に並ぶボルテックスジェネレーター(空気の剥離を抑えてリアウイングの効果を高める)など、外観はタイムアタッカーまるだしだが、乗りだしてみるとむしろ高級であることに驚く。
ここで燃費にふれておくと、今回、約370kmを走って、10.2km/リッター(満タン法)だった。もちろんプレミアム指定だが、320馬力カーとしてはワルくない。
FFのスーパーカー
オープンロードに出て、スロットルを開けると、タイプRはFFのスーパーカーである。新型プラットフォームで構築された5ドアボディーは、全長で17cm大きくなったが、車重(1390kg)は16kg軽くなっている。速いのはあたりまえだ。前足だけで地面をかいてこの速さを得る世界は独特で、フル加速すると、違う景色が見える感じがする。そういう意味でも、“スーパー”である。
新しいフロントのストラットには、トルクステアを抑えるジオメトリーが盛り込まれた。しかし、鬼ダッシュすると前輪の抑えが足りなくなるのは先代と同じだ。緩い上りの直線を低いギアで全開加速すると、シフトアップするまでダダダダッと前輪がジャダーを起こす。+Rモードにすれば、なんとか抑え込める。サーキットで速いスタートをきるときは、+Rモードがmustである。
今回からドライブモード機構が付き、エンジン/ダンパー/ステアリング/レブマッチシステムなどの硬軟をコンフォートから+Rモードまで3段階に変えられるようになった。デフォルトが“スポーツ”なのは「NSX」と同じである。
新機軸のレブマッチシステムは、「ヒール&トーを不要にする」とうたう回転合わせ機構である。腕前は見事で、シフトダウンでわざとつんのめらせようとしてもできないし、自分で回転合わせをやっても邪魔にならない。この手のシステムとしては非常によくできている。キャンセルボタンはないが、設定でオフにすることもできる。
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FFとマニュアルだからこそ楽しい
2年前に乗った先代モデル同様、10代目シビックのタイプRも“大作”だなあと思った。320ps、400NmのFFという前人未到のチャレンジャーなのだから、そう思わせるのも当然だ。
だが、大作でもけっしてよそよそしくない。性能を持て余す宝の持ち腐れ感も薄い。フルスロットルを踏んだときの、鳥肌が立つような加速感だけで、モトが取れる感じがする。
FFだからやはり軽いし、筆者程度のウデとスピードなら、4WDより自在感が味わえる。単純に速さを追うなら、四駆と2ペダル変速機がいいにきまっているが、それをいっちゃあおしまいよ、である。FFとマニュアルでここまでムキになっているガラパゴス体質が、このクルマを楽しくさせている。
450万円の価格は、シビックだと思うと高いが、世界最速のFFスーパーカーだと思えば、高くない。とはいえ、2代目からシビックに試乗してきたトシヨリとしては、こうも思う。シビック タイプRよ、どこへ行く?
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=小林俊樹/編集=竹下元太郎)
テスト車のデータ
ホンダ・シビック タイプR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4560×1875×1435mm
ホイールベース:2700mm
車重:1390kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6MT
最高出力:320ps(235kW)/6500rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2500-4500rpm
タイヤ:(前)245/30ZR20 90Y XL/(後)245/30ZR20 90Y XL(コンチネンタル・スポーツコンタクト6)
燃費:12.8km/リッター(JC08モード)
価格:450万0360円/テスト車=474万1586円
オプション装備:メーカーオプションなし ※以下、販売店装着オプション ギャザズナビゲーション スタンダードインターナビVXM-185VFi<本体+取り付けアタッチメント+デジタルTV用フィルムアンテナ[12セグ+ワンセグ放送用4ch]+ナビゲーションロック>(17万7506円)/フロアカーペットマット<デザインタイプ>(6万3720円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:4925km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:371.1km
使用燃料:36.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.2km/リッター(満タン法)/10.2km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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