プジョー5008アリュール(FF/6AT)
ファミリアールの末裔 2017.12.19 試乗記 プジョーの多人数乗車モデル「5008」が、ミニバンから3列シートのSUVに大変身。ガソリンエンジンを搭載したエントリーグレード「アリュール」の試乗を通し、「3008」のストレッチバージョンとなった新型の出来栄えを確かめた。ミニバンから3列シートSUVへ
2016年10月に開催されたパリモーターショーで新型プジョー5008が発表されたとき、戸惑いに近い気持ちを抱いたのは僕だけではないはずだ。
旧型5008は、同じPSAグループの「シトロエンC4ピカソ」とプラットフォームやパワートレインを共有した、3列シート7人乗りのミニバンだった。それが新型では、同じパリショーでデビューした新型3008のボディーをストレッチして3列シート化した、SUVとなっていたのだ。ボディー前半やインパネまわりは3008とほぼ同じであり、エクステリアやインテリアが専用だった旧型に比べると、独自性が薄れたという印象を抱かせた。
ところがその後、「レクサスRX」に以前からある5人乗りに加えて7人乗りが追加された。日本に輸入されてはいないけれど、「フォルクスワーゲン・ティグアン」にも「オールスペース」というサブネームを持つ3列シート車が出現している。
同じ車体で2列シートと3列シートを用意した車種は、「トヨタ・ランドクルーザープラド」や「日産エクストレイル」などこれまでもあった。しかし先ほど取り上げた車種は、全長とホイールベースを伸ばすことで違うキャラクターに仕立て上げている点が特筆できる。5008はそんなトレンドをいち早く取り入れた一台だったのだ。
サイドビューに見るデザインの妙味
そういえば、フランスにおけるPSAグループのライバルであるルノーは、欧州ミニバンの元祖でもある「ルノー・エスパス」を、2014年のモデルチェンジでSUV風に一新している。2年前にフランスを訪れた際、現行エスパスで移動する機会に恵まれた。ドライバーを務めたルノーのスタッフに聞くと、従来のスタイリングでは生活感を拭い去ることが難しく、躍動感を出すためにタイヤを大径化しようと考えた結果、SUV的なスタイリングに行き着いたという答えが返ってきた。
5008がミニバンからSUVにスイッチした理由も似たようなところにあるのだろう。やはりヨーロッパの人たちは走りそうなカタチが好きなのだ。他社の企画にまで口を出して申し訳ないが、背の低いミニバンとして一世を風靡(ふうび)した「ホンダ・オデッセイ」も、このような進化を遂げたほうがブランドイメージにふさわしかったのではないかと思ってしまった。
東京モーターショーなどで確認済みの実車にあらためて対面すると、まず感心するのはルーフサイドのモールとブラックアウトしたリアゲートによって、後方まで長く伸びたルーフを意識させず、スマートに見せていることだ。
スペックを紹介すると、5008の全長は4640mm、ホイールベースは2840mmで、2列シートの3008と比べると、それぞれ190mm、165mmも長くなっている。たしかにリアドアが長くなったことは認識できるけれど、リアゲートが垂直に近い角度を持つことは、いい意味でほとんど意識しないで済む。
おそらく3008と5008は最初から共同開発が決まっていたのだろう。トリック的なアイデアで3列シートSUVをスタイリッシュにまとめた手法、さすがである。
一方の全高は1650mmと、3008より20mmだけ背が高いだけで、運転席まわりの作りは基本的に共通。ミニバンとして考えると運転席は低く、乗り降りがしやすい。インパネの造形はかなりエッジが効いているけれど、一部にファブリックを張ったおかげで温かみも感じる。
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考え抜かれた2列目シート
硬めなのにふっかり包み込むような座り心地の前席は、3008同様、長旅を楽にこなせそうだ。2列目はスライドを最後方にセットすると、身長170cmの僕であれば楽に足が組める。スライドを最も前にしても10cmぐらいの余裕が残る。頭上空間は不満なし。前席背もたれに内蔵した折り畳み式テーブルは、シート形状に合わせたスタイリッシュな形状で、使い勝手も上々だった。
3列目も2列目を少し前にスライドすれば、自分の体格でも頭はつかえず、足元に余裕を残して座れる。シートは薄く、姿勢は直立気味だが、短時間なら大丈夫だ。
さらに特筆すべきは、C4ピカソもそうだったが2列目のシートアレンジが考え抜かれていること。座面横のレバーで低くフラットに折り畳め、背もたれのレバーで3列目へのアクセスが楽な“ウオークインモード”になる。3列目も薄くフラットに格納することが可能で、このあたりは一部の国産ミニバンより使いこなせそうだ。
楕円(だえん)形の小径ステアリングの上からメーターを見る、プジョー独自の「iコックピット」は、背の低いハッチバックと比べれば違和感が少ない。液晶メーターは僕も所有していたかつての「シトロエンCX」を思わせるボビン風など、いろいろな表示が選べる。独創的な形状のセレクターレバー、センターパネルの“ピアノスイッチ”は、見た目が斬新なだけでなく扱いやすくもある。
いずれも3008と同じディテールなのだが、3列シートでここまで遊び心を感じさせるインターフェイスを持つ車種は異例ではないだろうか。ドライバー役の人に向けたアピールポイントになるはずだ。
このジャンルはフランス車にお任せを
エンジンには1.6リッターガソリンターボと2リッターディーゼルターボが用意され、どちらも6段ATを介して前輪を駆動する。“プラス1列”のシートによる重量増は80~90kgと、思ったより軽くおさまっている。今回は最大でも2名乗車だったので、取材したガソリンエンジンの「アリュール」でも加速に不満を抱くことはなかった。
ただ5008の場合、定員乗車になれば相応の重量増加になるし、車格を思えば高速道路を使った長距離走行というシーンも多いと考えられる。そんなユーザーには最大トルクが400Nmとなるディーゼルを積んだ「GT BlueHDi」のほうが適役だろう。モード燃費もガソリン車の13.6km/リッターに対し、17.3km/リッターと格段に向上する。
高速道路といえば、ライバルと同等のスペックを身につけた運転支援システムは、アダプティブクルーズコントロールの動作が慎重かつ穏やかで、フランス車らしいマナーだった。道がすくと過敏に反応する一部の車種よりリラックスできる。
3008の乗り心地は競合車が多いこのクラスのSUVの中でも最良で、さすがプジョーと感心したものだった。5008はその美点を、ロングホイールベースによってさらに一段引き上げていた。この面で定評のあるフランス車の中でもトップレベルに挙げられる一台だ。一方のハンドリングは、ステアリングを切ったあとの車体の動きなど、やはりリアが少し長い感じはするけれど、気になるのはタイトコーナーぐらいであり、それ以外の道ではゆったりとした身のこなしがむしろ好ましい。
プジョーはかつて、「404」や「504」などのワゴンボディーに3列シートを据えた、「ファミリアール」と呼ばれる車種を持っていた。ホイールベースはセダンより長く、全高はやや高めで、いかにも長距離旅行に向きそうな姿だった。新型5008は流行のSUVファッションをまとってはいるものの、内に秘めた精神はあの頃のファミリアールに似ている。こういうジャンルは彼らの得意分野であることを、短時間のドライブでもうかがい知ることができた。
(文=森口将之/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
プジョー5008アリュール
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4640×1840×1650mm
ホイールベース:2840mm
車重:1580kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:165ps(121kW)/6000rpm
最大トルク:240Nm(24.5kgm)/1400-3500rpm
タイヤ:(前)225/55R18 98V/(後)225/55R18 98V(ミシュラン・プライマシー3)
燃費:13.6km/リッター(JC08モード)
価格:404万円/テスト車=450万5468円
オプション装備:パールペイント(8万1000円)/パノラミックサンルーフ(15万円)/5008タッチスクリーン専用カーナビ(19万8720円)/ETC2.0車載器(2万2680円)/フロアマット(1万3068円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:2240km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:228.2km
使用燃料:23.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.7km/リッター(満タン法)/11.4km/リッター(車載燃費計計測値)
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森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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