第463回:「パジェロ」と「ランエボ」が合体したコンパクトSUV?
「三菱エクリプス クロス」のプロトタイプに試乗
2017.12.16
エディターから一言
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三菱自動車にとって久々のニューモデルとなる「エクリプス クロス」。その国内発売は2018年3月とまだ時間があるが、クローズドコースでというただし書き付きでひと足早く試乗することができた。ダイナミックなクーペスタイルが自慢の新型SUVの走りは、そのスタイリングに負けないくらいスポーティーなものだった。
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コンパクトSUVは見た目が重要
「スタイリングが一番の強みです」
チーフ・プロダクト・スペシャリストの林祐一郎氏がプレゼンテーションで強調したのは、エクリプス クロスのデザインだった。三菱車のイメージとしてまず挙げられるのは、「パジェロ」に代表される四輪駆動の技術だろう。「i-MiEV」や「アウトランダーPHEV」で、電動化を得意としていることも知られてきたかもしれない。三菱と聞いて最初にデザインを思い浮かべるのは、多分かなり少数派だ。
だからこその、デザイン推しである。エンジニアに話を伺うと、「乗ってもらえれば良さがわかるはずなんですけどねえ……」と嘆いていた。中身に自信があっても、試乗をしてもらえないのでは伝わらない。急成長しているコンパクトSUV市場で、購入者の63%がスタイル・外観を重視すると答えている。コンパクトカーだと39%の人しか重視点に挙げていない。このカテゴリーでは見た目の重要度が高いのだ。
三菱では2015年から「ダイナミックシールド」というデザインコンセプトを採用している。デザイン本部長の國本恒博氏は「中央のブラックフェイスで力強いパフォーマンスを表現し、バンパーの左右とアンダーガードが包み込む形状にしてクルマを守る安心感・安全性をイメージしている」と語っていた。「アウトランダー」や「RVR」にも通じるデザインだというが、まあ後づけみたいなものだ。コンセプトが全面的に適用されるモデルは、日本で販売されるものとしてはエクリプス クロスが初となる。
SUVの最新流行は、「レンジローバー イヴォーク」「マツダCX-4」などのようなクーペスタイルだ。エクリプス クロスも、ウエッジシェイプを強調してスポーティーなイメージを打ち出している。「VIBRANT & DEFIANT」がキーワードになっているそうだが、見慣れない単語だ。躍動感と反抗的なまでの挑戦を意味しているという。アッパーボディーがVIBRANT、ロアボディーがDEFIANTを受け持つ形だ。
かつてのスポーティーカーの名前
エクリプスという名は、かつて三菱が販売していたスポーティーカーと同じである。クーペ的なSUVだから、この名前を受け継ぐことにした。とはいっても、エクリプスを覚えているのは相当な三菱ファンだけだろう。1989年に北米専用モデルとして発売され、ハイパフォーマンスなのに値段が安いということでスマッシュヒットとなった。翌年からは日本でも販売されたものの、人気が出たとは言えない。
1999年にモデルチェンジを受けて3代目となっても、日本で販売されたのは4年後である。オープンモデルのみで、目標販売台数は2年で500台。超レア車だが、その時に試乗していたことを思い出した。ゆるゆるの古典的アメリカンテイストが充満したクルマだったから、本当に500台売れたかどうかも怪しい気がする。エクリプスという名前で販売促進ができるとは考えにくい。
エクリプス クロスの売りは、三菱が持つほかのヘリテージだそうだ。パジェロの悪路走破性能と、ランエボ譲りの車両運動統合制御システム「S-AWC」である。この2つを合体させることで、オフロードでもオンロードでも高い性能を持つSUVを作ることができるというわけだ。
だから、試乗会には両方の性能を体験できるようなコースが設定された。広い駐車場を利用したクローズドエリアでのテストである。日本で発売されるのは3月で、公道では走ることができない。ヨーロッパ向けにはすでに出荷が始まっているから、ナンバーが付いていないとはいっても実際に販売されるものと同じだと考えていいはずだ。
コースは短い直線とスラローム区間、散水してウエット路面にした20Rの旋回路からなる。加速性能とハンドリングを試すことができるレイアウトだ。比較のため、アウトランダーとRVRも用意されていた。時間を置かずに乗り比べるのだから、はっきりと違いがわかる。エクリプスの出来に自信があるということだろう。
俊敏にスラロームをこなす
エクリプス クロスのパワーユニットは、ガソリンの1.5リッター直噴ターボとディーゼルの2.2リッターターボの2種類。試乗車はガソリンエンジンで、8段スポーツモード付きCVTが組み合わされる。FFモデルも販売されるが、乗ったのは4WDである。S-AWCが搭載されるのは、4WDモデルだけなのだ。
ゆっくりと発進して少しずつ加速する。低速域のスピードコントロールはスムーズだ。アクセルを踏み込むと間髪を入れず鋭い加速が始まる。CVTにはステップ変速を模した制御が使われていて、トルコンAT好きも満足できるフィールである。パドルを操作しなくても、ペダルへの入力に応じて適切な回転数が選ばれる。
100km/hを少し超えたあたりでフルブレーキングし、スラローム区間へ。ステアリングを切り込むと瞬時にノーズが向きを変え、シャープな動きでパイロンを抜けていく。背の高さに似合わぬ俊敏な走りだ。ステアリング操作は最小限でいい。大きなハンドルをヨイショッと回さなければならなかった昔のヨンクを思うと、隔世の感がある。
ウエット路面に入っていっても、まったく不安感はない。ほとんどロールを伴わず、安定した姿勢で正確に円周をトレースしていく。S-AWCはSuper All Wheel Controlの略。電子制御で4輪の駆動力を変化させる機構だ。2007年に発売された「ランサー エボリューションX」で初採用された。状況に応じて前後のトルク配分を変え、旋回時には左右の前輪のブレーキを制御してスムーズなコーナリングを実現する。2年以上前にランエボは生産終了してしまったが、遺産はSUVに生かされているのだ。
比較用のRVRに乗ると、エクリプス クロスの優位性がよくわかった。RVRはボディーが小さいだけあって軽快さに勝り、加速性能は同等だった。しかし、スラローム区間に入ると古さを露呈する。ステアリング操作に対してクルマが反応するまでに、一瞬の間があるのだ。時間にすればほんのわずかな差なのだろうが、ドライバーにはストレスになる。思ったように走らないと感じてしまうのだ。
アウトランダーは強力なエンジンを積んでいるだけに加速では分があった。フル加速で120km/h近くに達する。S-AWCを搭載しているだけに、スラロームでも結構キビキビした動きだ。ただ、エクリプス クロスと比べると少しだけロールが大きく、SUVに乗っているという感覚が強い。
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45度の急坂を軽々と
もう一つのプログラムは、特設コースを使った同乗試乗である。キャンバー路面ではボディーが斜めになってリアタイヤが路面から離れてしまうが、駆動力は失われない。自動的に適切なトルク配分が行われ、力強く前進していく。モーグル、階段越えも軽々とこなした。運転手役のエンジニアが、「剛性が高いから、ボディーがまったくねじれないんです!」と誇らしげに話す。
圧巻だったのは、20度、30度、45度の勾配がつけられた急坂コースだ。強い駆動力が必要なので、3つある走行モードの中で最も悪路に強いという「GRAVEL」を選んで登っていく。何の問題も起きないまま、頂上までスルスルと登りきった。するといったんブレーキを緩めて後退し、30度のところで停まってから坂道発進。駆動力確保が難しい場面だが、タイヤを空転させることなく再びテッペンに達した。
一般ユーザーが45度の坂を登るような経験をすることはまずないだろう。これは少々の悪路でも大丈夫ですよ、ということを象徴的に示しているのだ。旅先で岩場に迷い込んだりしても戻ってこられるという安心が手に入る。オンロードではキビキビとした走りを見せるし、オフロードにも強い。1台でだいたいのことがこなせるクルマなのだ。
アウトランダー、RVRと並んでいると、エクリプス クロスのスタイルは明らかに異質だ。よく言えば機能をそのまま体現していたのが以前の三菱デザインだったが、エクリプス クロスはモダンさやダイナミックさを意匠として身にまとっている。「トヨタCH-R」や「ホンダ・ヴェゼル」などの強力なライバルがひしめいている中で勝ち抜くのは簡単ではないが、ようやくスタイルでアピールすることができるようになった。走行性能をガチで比較されるようになったことは、エンジニアにとって喜びであるはずだ。
(文=鈴木真人/写真=小林俊樹/編集=竹下元太郎)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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