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急成長を遂げるアジアの大国
インドの自動車市場の勢力図をひも解く

2017.12.18 デイリーコラム 鶴原 吉郎

新しい税制にみる「EV優遇」の姿勢

インド経済は高い成長を続けている。2015年のGDP成長率は8.0%、2016年も7.1%と、それぞれ中国の6.9%、6.7%を上回り、世界の主要国の中で最も高い成長率を誇る。この勢いは今後も持続する見込みだ。2016年11月に実施された高額紙幣の廃止というショックも乗り越えて、今後も7%以上の高い成長率を維持すると見られている。

ただ、自動車市場では2017年7月に導入されたGST(物品・サービス税)が一部で混乱を招いている。インドの間接税には複数の国税と州税があり、非常に複雑な体系となっていた。GSTは、複数の間接税を統一することで税体系の透明性向上と簡素化を図る狙いで導入されたもので、結果的に全長4m以下の小型車には1%程度の減税をもたらした。一方で、4m以上の中型車・大型車では増税となるケースが多かった。特に、電気自動車(EV)に関しては税率を従来の22%から12%へと10ポイントも下げて優遇する姿勢を明確にする一方で、これまで30%の税率だったハイブリッド車(全長4m以上)は43%と、実に13ポイントも増税している。これがトヨタやホンダなどにとって打撃となっている。

よく知られているように、インドの自動車市場で最大のシェアを誇るのは、日本のスズキの子会社であるマルチ・スズキだ。マルチ・スズキは現在市場の38.4%のシェア(マークラインズ調べ、乗用車・商用車の合計、以下同)を握る圧倒的な大手メーカーである。もともとは、1983年に日本の初代「アルト」をベースにエンジン排気量を800ccに拡大した「マルチ800」を発売し、事業をスタートした。

1986年に発売した、2代目アルトをベースとした2代目マルチ800が20万ルピーという低価格で大ヒット。その後2014年まで30年近く販売され続けた。現在はマルチ800の後継を担う、7代目アルト(ちなみに日本における現行アルトは8代目)ベースの「アルト800」、およびアルト800のエンジン排気量を1リッターに拡大した「アルトK10」を販売している。

2016年のオートエキスポでスズキが発表した小型SUV「ビターラ ブレッツァ」。SUVはインドでも高い人気を誇っている。
2016年のオートエキスポでスズキが発表した小型SUV「ビターラ ブレッツァ」。SUVはインドでも高い人気を誇っている。拡大
「マルチ800」からの歴史を受け継ぐ「アルト800」。今日におけるマルチ・スズキのエントリーモデルである。
「マルチ800」からの歴史を受け継ぐ「アルト800」。今日におけるマルチ・スズキのエントリーモデルである。拡大

日韓と現地メーカーがしのぎを削る

最近のスズキは市場の上級移行に対応してラインナップを充実させている。日本でもおなじみの「スイフト」や「バレーノ」などのほか、日本では販売していない小型4ドアセダン「シアズ」、さらには「スイフトセダン」こと「ディザイア」、小型SUVの「ビターラ ブレッツァ」など、その例は枚挙にいとまがない。さらに2015年からは上級車種を扱う新しい販売チャンネルとして「NEXA(ネクサ)」を設立したことなども奏功し、2016年度のシェアを2015年度に対して1ポイント程度拡大することに成功している。

インドでシェア2位を占めるのが韓国現代自動車で、2016年度のシェアは13.6%。主力商品はAセグメント車の「グランドi10」(図2)や、Bセグメント車の「i20」などといった小型車だ。これらは日本の市場に入ってきていないので目にする機会がないのだが、スズキの同じクラスの車種に比べても近代的なデザインを採用しており、価格も同クラスのスズキ車よりもむしろ若干高く設定されているほど。決して低価格を売りにしているわけではない。

現代に次ぐシェアを占めるのが、現地メーカーのタタ(12.7%、同)およびマヒンドラ&マヒンドラ(11.1%、同)の2社である。タタはかつて15%以上の市場シェアを占めたこともあったが、10万ルピー(当時のレートで約20万円)カーを目指して2009年に投入した超低価格車「ナノ」の失敗や、新型車の投入の遅れからシェアは低下傾向にある。これとは対照的に、マヒンドラは売れ筋の小型車クラスに有力な車種を持たないものの、多彩なSUVを展開することでシェアをかつての7%程度から拡大させている。

ホンダとトヨタはマヒンドラに次ぐ5位と6位を占めるが、市場シェアはそれぞれ4.2%、3.8%と存在感を示せていない。特にトヨタは、2011年にBセグメントに投入した戦略車種「エティオス」の販売が不振で、同じ年に投入した戦略車種「ブリオ」が堅調な販売を維持するホンダよりも低いシェアに甘んじている。トヨタが新興国戦略で推し進めるダイハツ工業との連携強化は、同社のコスト構造では競争力のある小型車を作るのに限界があることを示していると言えるだろう。

(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/編集=堀田剛資)

「スイフト」をベースとしたマルチ・スズキのコンパクトセダン「ディザイア」。
「スイフト」をベースとしたマルチ・スズキのコンパクトセダン「ディザイア」。拡大
韓国のヒュンダイはインドでスズキに次ぐ2位のシェアを誇る。写真はコンパクトカーの「グランドi10」。
韓国のヒュンダイはインドでスズキに次ぐ2位のシェアを誇る。写真はコンパクトカーの「グランドi10」。拡大
鶴原 吉郎

鶴原 吉郎

オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。

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