第535回:欧州で人気上昇中!
日本車と寿司の不思議な関係
2018.01.05
マッキナ あらモーダ!
日本のアレが絶好調
ヨーロッパにおける2017年の日本車販売は、良い結果となりそうだ。手元にある2017年1月~10月の欧州地域販売台数統計(JATOダイナミクス調べ)をもとに計算すると、日本車の販売台数は前年同期比10万5087台増の176万0272台だった。全ブランド中13%を日本車が占めている。
日本車のメーカー別では、1位はトヨタの61万6141台、2位は日産の49万9012台、3位はスズキの20万4859台である。以下、マツダ、ホンダ、三菱そしてスバルと続く。前年比で見るとトヨタ、日産、スズキが増、マツダ、ホンダ、三菱、スバルは減だった。
他国のブランドも含む車種別販売統計を確認してみると、首位50車には、「日産キャシュカイ(デュアリス)」(5位)、「トヨタ・ヤリス(ヴィッツ)」(15位)、「トヨタ・オーリス」(40位)、「トヨタC-HR」(42位)が入っている。
そのヨーロッパではいま、寿司がブームである。
やや時間のたった資料だが、2015年7月の『イル・ファット・クォティディアーノ』電子版によると、“日本料理店”と称する飲食店は、ミラノだけでも400店を超える(ただし、記事中のインタビューに答えたイタリア日本食協会の組合員によると、“真の日本料理店”は20店以下という)。
名車をも押しのける寿司
第2次大戦後にフォーミュラジュニアで一世を風靡(ふうび)したモデナのスタンゲリーニは、自社製スポーツカーの生産終了後も、本社屋でフィアットの販売店を営んでいた。
ところが数年前、そのフィアット販売店を別の地域に移したのに続き、社屋の一角に「ZUSHi」というチェーン系寿司店をテナントとして迎えた。かつて歴代スタンゲリーニ車がにぎにぎしく並んでいた2階の半分は、いまやその店に使用されている。
ポルトガルのイベント会場では、日本人のボクを発見するや、すかさず「俺、寿司店やってるんだよ!」と声をかけてきたスマートのオーナーもいた。見れば、彼の愛車兼営業車には漢字で「生の魚」と記されていた。
フランスにおける、こんな記憶もある。数年前、撮影場所として指定された建物を訪問すると、それはちょっとしたシャトー(城)であった。旧貴族の所有か? と関係者に聞いたところ、「近年、スーパーマーケットで販売する寿司で財を成した、実業家の持ち物だよ」と教えてくれた。
質はともかく思わず手が出る
そのスーパーで販売されている寿司、筆者自身も欧州各地でお世話になっている。
出張取材は疲れる。21年間こちらに住んでいても、中身はコテコテの日本人である。母国語以外で真面目に会話を続けていると、心身ともに消耗する。モーターショーの取材ともなると、人間のバッテリーの減りは、さらに早くなる。
そうした日には胃の消化能力も、おのずと弱る。カロリーたっぷりの西洋料理はきついし、腹の具合を良い状態にしておかないと翌日の仕事にも影響する。補佐役に女房を同行させているときは特に気を使う。
そこでスーパーマーケットに駆け込む。近年では地方のスーパーでも、かなりの確率でSUSHIが売られているようになったからだ。
残念ながら、寿司だねの風味や、ごはん(しゃり)のクオリティーで、日本の持ち帰り寿司に匹敵するものに出会ったことはまだない。特に米のパサつき感は、半端でないときがある。さらに、日本ではデフォルトの「箸」「しょうゆ」が添付されておらず、クルマでいうオプション設定となっているときがあるので、購入時は要注意だ。
しかし、外国の見知らぬ地で出会った日本人女性がすべて美女に見えるように、よその街で買う寿司には、独特のありがたみがある。したがって、日本のものと比べるとかなり高額であるにもかかわらず、ついフラフラと手を伸ばしてしまう。
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ファンタジーあふれる欧州寿司
実はそうした寿司については、もうひとつ楽しみがある。商品のネーミングだ。今回は、過去4年にわたり筆者が撮りためたオモシロ商品名を一挙公開しよう。
まず写真1はイタリアにて、「TARO」は現財務大臣、「REN」とは野党前代表から着想を得たものだろうか。「KENTA」にあたる議員もいたことからして、日本の政界に詳しい人物による命名かと想像してしまう。
個人的には、写真2の「AKI」を発見したときは“自分仕様”のようでうれしかったものだ。
写真3は2016年のジュネーブモーターショー取材の折、駅構内のスーパー「ミグロ」で購入した「YAYOI」である。これだけボリュームにとぼしく、またACTIONと書かれたセール品でありながら、邦貨にして約1300円。日本からすると「とほほ」であるが、やたら物価が高いこのレマン湖畔の街においては、買い得に感じられるから怖い。
このようにあまりに高額なときは、1パックを女房と2人で分けたりするものだから、一段と悲しくなってくる。
とはいうものの、いずれの商品も、昨今日本で流行の「キラキラネーム」ではなく、スタンダードな名前である点には注目したい。
そのジュネーブでは2017年、「SUZUKA」も発見した(次章参照)。この時は店頭に無かったが、姉妹品に「FUJI」もあるから、経営陣に自動車ファンが存在しているのは間違いないだろう。
最後は、2017年9月のフランクフルトモーターショー取材で同市内に赴いたときのものである。この流通チェーンに納めているMATSUというブランドは、「HAYATO」のほか、「MIYU」「MAMIKO」「MISAKI」「YUMI」「HINATA」そして「HONOKA」と、妙に女性名が充実している。加えて「HARUKI」まである。いやはや、ノーベル賞より前に寿司の名前になるとは。
日本の印象が変わりつつある
ボクは、1990年代末にイタリアに住み始めて間もないころ、イタリア人が経営する料理教室で広報兼通訳をしていた時期がある。
その流れで、寿司講座の企画も手伝ったことがあった。当時はまだ、イタリアで寿司レストランが珍しかったこともあってかなりウケた。だが、せっかく苦労して調達した海苔(のり)を、食べるときに気味悪がられてはがされてしまったこともあった。そんな思い出も、寿司がイタリアで一般的になった今となっては、昔話である。
寿司レストランやスーパーで観察するところ、こうした欧州の寿司ブームを支えているのは、主にミレニアルといわれる1980~2000年代に生まれた世代である。彼らは日本カルチャーへの抵抗がない。上映開始されたばかりの新作和製アニメを見ながら育った、ひとつ上の世代もしかり。
冒頭の日本車人気も、よく売れている車種からして、日本の事物に対する抵抗がない、そうした年代が支えるようになっているとみられる。寿司のバイラルな普及は日本愛好ムードをさらに熟成させ、間接的に日本車の販売も後押ししているに違いないのである。
気がつけば、「日本=模倣大国」という先入観から「スバルの水平対向4気筒やインボードブレーキは、アルファ・ロメオの模倣だ」などと、時間の流れすら無視した発言をする高齢者にも会わなくなった。
代わりに、折からの日本観光ブームで、「東京と京都、それから飛騨高山にも行ったよ」などと、自身の日本体験を会話のいとぐちにしてくるヨーロッパの人々が増えた。
勢いにのって、「東京で乗った『クラウン コンフォート』が欲しい」などと無理難題を言う日本ファンが出現するのではないかと、戦々恐々としている今日このごろである。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=関 顕也)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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