アルピーヌA110プルミエールエディシオン(MR/7AT)
まごうかたなきアルピーヌ 2018.01.08 試乗記 伝説的なフランスのコンパクトスポーツ「アルピーヌA110」が、40年の時を経て復活。アルミボディーに直噴ターボエンジンと、モダンな技術が惜しみなく用いられた新型は、同時に往年のアルピーヌに通じるテイストを持つ一台に仕上がっていた。驚くほどに軽やかで俊敏
アルピーヌ復活! のニュースを耳にした瞬間から、あるいは新しいA110のプロトタイプをどこかのメディアで目にした瞬間から、このクルマのことが気になって気になって仕方なかった人も多いことだろう。もちろん僕もそのひとりだ。
かつてはヒストリックスポーツカーに触れることも珍しくない自動車雑誌の編集部に在籍し、初代A110のドライブも何度となく体験することができた幸運な身の上。新世代のA110はおそらくあれほどの軽さは感じさせてくれないだろうし、あれほどの目がさめるような俊敏なフットワークもないだろう。それでも、アルピーヌの開発陣はスポーティーなシャシー作りに関して世界のトップレベルにあるルノースポールやルノーから移った人たちが中心と聞いているから、間違いなく楽しいスポーツカーになっているに違いない! という期待感もあって、そのステアリングを握れる日が待ち遠しくてたまらなかったのだ。
が、結論から申し上げるなら、僕の予想はちょっと正しくなかったようだ。新しいアルピーヌA110は、驚くほどの軽やかさを感じさせてくれたし、手放しで称賛したくなるほどの俊敏なフットワークを披露してくれた。まさに“A110”を名乗るのにふさわしいクルマに仕上がっていたのである。
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うれしくなるほど軽量小型
初めて新しいA110を、正確にいうなら2015年の初夏に新型A110のコンセプトカーの1台である「アルピーヌ・セレブレーション」が初代A110と一緒に写ってる写真を見たとき、その車体の大きさに少なからずショックを受けたことを覚えている。ファンとしては、A110には小さくあってほしいのだ。
が、初めて実際に目にした懐かしくも新しい姿の2シータークーペは、立派にコンパクトだった。考えてみると、新型が巨大に感じられたのも当たり前である。なぜなら初代A110が、現代の基準からすれば極端に小さいからだ。新しいA110のサイズは全長×全幅×全高=4180×1798×1252mm。ライバルの一台と目される「ポルシェ718ケイマン」と比べてみると、199mm短く、3mm細く、43mm低い。イメージしやすいところでいえば、「トヨタ86」とザックリ同じくらいと思っていただいていいだろう。これは昔のサイズでクルマを作るのはいろいろな意味で不可能な現代にあっては十分にコンパクトといえる範囲だ。単体で見たときに「あれ? 想像してたよりずいぶん小さいぞ」とうれしい気持ちになったのも然(しか)り、である。
車体は、初代がバックボーンフレーム+FRPボディーだったのに対し、新しいA110はオールアルミ製。いうまでもなく専用に開発されたものだ。ドライカーボン製としなかったのは売価に跳ね返るからだろうが、精密に作られているアルミ製の車体は、それでもしっかりとした剛性を持ち、そして軽い。基本は、油脂類などを含めた日本でいうところの車両重量で1080kg。“ローンチエディション”たる今回の「プルミエールエディシオン(プレミアエディション)」は、ベースに対して幾つかのオプションを備えた仕様だが、それでも1103kgである。
やはりライバルと目される「アルファ・ロメオ4C」は、プリプレグ方式のカーボンを基本骨格としており、その日本仕様は1050kg。A110の日本仕様が決まってない段階ながらあえて比較するなら、50kgほど重いことになる。それでもDCT搭載の718ケイマンの空車重量が1365kgであることなどを考えると、A110がいかに“軽さ”にこだわったモデルであるかが理解できるだろう。
駆動レイアウトと足まわりに見るこだわり
新型A110が初代と大きく異なる点はいくつかあるが、最も大きなもののひとつは、基本レイアウトだ。RRではなくミドシップを採用しているのだ。もちろんそれは、重心位置や重心高を最適なところへセットするためだが、もうひとつ明確な理由がある。エアロダイナミクスである。
スタイリングを見れば一目瞭然だが、A110はGTウイングのような空力的付加物というものを持たず、大人っぽいエレガンスさえ漂わせている。けれど、今やエアロダイナミクスを無視したスポーツカーなどあり得ない。A110らしいスタイリングを維持しつつターゲットとしたパフォーマンスに必要なダウンフォース量を生み出すためには、フロント下側の造形で空気の進入を制限し、車体の下面をフラットボトムとし、そこを流れてきた空気を効果的に抜くためのリアディフューザーは不可欠。ところが車体の後端にエンジンを置くと、その下側にディフューザーを備えることができないのだ。路面に寝転がってA110の下側をのぞいてみると、車体の後ろ側3分の1ほどを占める大きなディフューザーが備わっていることが分かる。ミドシップレイアウトの採用には、複合的な意味があったというわけだ。
見逃せないもうひとつの大きなポイントは、サスペンションが前後ダブルウイッシュボーンであること。レイアウト上結構なスペースが必要となる方式だが、それを車幅1.8mにすぎないミドシップ+横置きエンジンのレイアウトと巧みに組み合わせているのだ。718ケイマンは前後ともに、4Cはリアにストラットを採用している。そこからも推測できるとおり、このくらいのサイズのミドシップでこの組み合わせの良好な着地点を探るのは難しい。そこをあえて貫いている。しかも聞いたところによれば、かなり早い段階でサスペンションの位置を決め、そこからクルマの設計を進めたのだという。こんなところにフットワークへのこだわりが見えるのが、またうれしい。
ミドに積まれるエンジンは、これはルノー・日産アライアンスによる新開発の1.8リッター直列4気筒ターボ。最高出力は252ps/6000rpm、最大トルクは320Nm/2000rpm。ゲトラグ製の7段DCTと組み合わせられる。パフォーマンスは0-100km/hが4.5秒、最高速度は250km/hと発表されている。
快適で扱いやすく、もちろん楽しい
ここまでパフォーマンスにこだわったスポーツカーなのだから、乗り味も多少はスパルタンな方向に傾いてるのかと予想していたが、それもあっさり覆された。乗り心地は至極快適といえる部類だったのだ。カッチリとしたボディーにマウントされた脚が、素晴らしく奇麗に動く。スプリングやダンパーがこの手のクルマにしてはだいぶ柔らかいんじゃないか? と思えるほどにストローク感があり、路面が多少荒れていても不快感などみじんも感じさせず、とても滑らかに走り抜ける。ちょっとした高級セダンばりだ。フロントに100リッター、リアに90リッターの荷室があるから、これなら十分に2、3泊のグランドツーリングにも乗って出られるだろう。
感心するほどの扱いやすさも、それには大きく貢献してくれるはずだ。エンジンは極めてフレキシブル。低回転域から豊かなトルクをずっと提供し続けてくれるし、DCTの変速もかなりスムーズだ。街中をゆっくりと走るような場面でも何ひとつ気づかいを要求せず、黒子に徹してくれる。この日常性の高さはフランス生まれならでは、なのかもしれない。
しかも、ワインディングロードに差し掛かって我慢できずに右足にチカラを込めてみると、このエンジンの真の美点に気づいて僕はニンマリとした表情を浮かべることになった。望外に楽しいエンジンなのだ。ターボの存在をほとんど意識させない鋭いレスポンスと勇ましい吹け上がり。いかなる領域でも豊かに湧き出てくるトルク、スッと立ち上がってためらいなく伸びていくパワー。スーパーカーのような非常識な速さこそないが、実際の車重から想像したよりはるかに勢いのいい加速感に、延々と興奮し続けられるぐらいには速い。うまい表現方法が見つけられないのだが、アクセルペダルを何とか踏み切れるぐらいであり、踏み切るあたりがちょうど最高に楽しいスピード、とでもいえばいいだろうか。奏でてくれるサウンドも、初代A110を連想させるよくできた4気筒のスポーツエンジンらしい歯切れのいい音質で、自然と気分が盛り上がる。加速一発で「これは楽しい!」と思わされるのだ。
コーナリングこそ真骨頂
そして、素晴らしくドラマチックな“曲がる”ということにまつわる一連の動きとフィーリングである。切れば切った分だけ曲がる正確なステアリング。タイヤやボディーがどんな状態にあるかを常に伝えてくれる明確なインフォメーション。胸がすくほど軽やかにして俊敏なフットワーク。
フロントタイヤはしっかりと路面を捉え続け、プッシングアンダーなどほとんど感じさせることもなく、A110は極めてニュートラルに、いや、むしろリアタイヤがじわじわとグリップを手放そうとする動きを伝えながら、そして素早くコーナーをクリアしていく。前輪と後輪の関係性のバランスがとにかく絶妙だから、荷重移動をうまく使ってオーバーステアに持ち込んで抜けていくことだってそう難しくない。
スタビリティーコントロールの出来栄えも優れていて、デバイスの介入が走る楽しさを阻害するようなこともない。走行モードが「ノーマル」の状態ではリアタイヤはほとんど乱れず、「スポーツ」ではわずかにスライドはするものの、比較的早い段階で制御を利かせ、「トラック」に切り替えるとそれなりにスライドを許した後に、最終的には横方向の動きを制限してくれるから、物理の特性を無視したような走り方でもしない限り、安心感を持って攻めた走りを楽しむことができるのだ。慣れさえすればESPの解除ボタンを押して奇麗な“後輪遊泳”を楽しむことだってできるだろう。何しろ新型A110は、一連の動きが極めてつかみやすいうえ、スロットル操作に対するエンジンの反応もいいしステアリングも正確だから、その後のコントロールがしやすいのだ。このあたりは並み居るライバルたちより頭ひとつ飛び抜けた感じすらある。もはや感動的とすらいえる。
この出来栄えは称賛に値する
初代A110もそうした走りのキャラクターが際立つクルマだった。アルピーヌの開発陣から「A110がずっと作られ続けていたとしたらどうなっただろう? と想像しながら開発してきた」と聞かされたが、いわれなくとも乗れば分かる。これは間違いなく初代A110の時を隔てた後継車なのだ。そして新世代のA110は、初代A110に共通するテイストを随所に感じさせてくれるだけでなく、あらゆる要素がさらに高次元でバランスしたスポーツカーへと育った──まさに“育った”という言葉がふさわしいだろう──末に僕たちの前へと現れた。昔を懐かしんでいるわけじゃなく、“進化”であり“発展”なのだ。だからこのクルマは、古き佳(よ)きA110を知らない世代にとっても、十分に感涙モノであるに違いない。
2012年のアルピーヌ復活宣言から、ずいぶん長いこと待たされた。待ってる間に期待感は膨れ上がるだけ膨れ上がった。それを超えることはないだろうと思っていたのに、新しいA110はそれをあっさり飛び越えた素晴らしい出来栄えを感じさせてくれた。これは称賛されて然るべきだろう。
そして僕などは奇麗なまでに骨抜きにさせられて日本への導入が待ち遠しい気分なのだが、おそらくそれは2018年の後半になるんじゃないかと予想されている。現地価格は5万8500ユーロ(約790万円)と絶対的な金額としては安くはない。おそらく日本国内での価格も、簡単に手が届くわけではないが、絶対無理というわけでもない、というあたりの設定になるだろう。
今はただただ、意味もなく悩ましい。
(文=嶋田智之/写真=アルピーヌ/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
アルピーヌA110プルミエールエディシオン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4180×1798×1252mm
ホイールベース:2420mm
車重:1103kg
駆動方式:MR
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:252ps(185kW)/6000rpm
最大トルク:320Nm(32.6kgm)/2000rpm
タイヤ:(前)205/40R18/(後)235/40R18(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:6.1リッター/100km(約16.4km/リッター、欧州複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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嶋田 智之
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