“家電IT見本市”なのに主役はすっかり自動車?
目を見張るCESの隆盛と 忍び寄るネタ切れの影
2018.01.15
デイリーコラム
盛り上がりをけん引する自動車事業
日本では“世界最大級の家電IT見本市”と紹介される「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー」(以下、CES)が、今年も米ラスベガスのコンベンションセンターで開催された。
今回のスケジュールは、プレスデーが1月7日と8日、そして業界向け公開となる本会場での展示が9日から12日までという日程である。公式展示期間の初日となる9日は、ラスベガスでは珍しく朝から雨模様で気温も低かった。このところ、アメリカは大寒波に襲われるなど不安定な気象状況が続いている。
そんな外界とはまったく違い、CES会場内は相変わらず熱気ムンムン。中でも自動車関連の出展が多いノースホールは、人気ブースの周辺を通り抜けるのが大変になるほどのにぎわいだった。自動車メーカーでは、日系がトヨタ、日産、ホンダ。アメリカはフォードとFCA (フィアット・クライスラー・オートモービルズ)。ドイツ系はダイムラー。そして韓国からは現代自動車グループよりヒュンダイとキアが出展した。
14日からは北米国際自動車ショー(通称デトロイトショー)が開催されたこともあり、CESとデトロイトの両方にブースを構えるメーカーは限られた。それでも、ノースホールはどこかのモーターショーかと見間違えるほど、自動車中心の雰囲気であった。
今年のキーワードは“MaaS”
自動車メーカーがCESに関心を示したのは、2010年代に入ってからだ。スマホと車載器との連携によるコネクテッドカーや、昨今の自動運転ブームを反映した流れだ。
CESで自動運転といえば、半導体メーカーの競争が目立つ。画像認識で高い性能を誇るGPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)大手の米エヌビディアは、人工知能(AI)を活用したシステムを、中国IT大手の百度(バイドゥ)や変速機大手の独ZFと共同開発すると発表。これに対して、インテルやクアルコムもコネクテッドカーのビジネスを踏まえて自動運転を含む次世代車ビジネスの構築を急いでいる。
また、電気自動車(EV)にも再び光が当たっている。昨年はジャーマンスリー(ダイムラー、BMW、VWグループ)を中核としたEVシフトブームが世界市場に広がり、今回のCESにも、一時は出展が減った小型EVや充電インフラ関連のメーカーの姿が戻ってきた。
こうした中、会場内で目を引いたキーワードが「MaaS (モビリティー・アズ・ア・サービス)」だ。EV、自動運転、コネクテッドカーという技術領域をベースにデータサービス事業を展開するというものだ。代表的な事例は、ウーバーやリフトなどのライドシェアリングである。
このMaaSに、トヨタが本格的に参入することになった。それが、今回発表された「e-Paletteコンセプト」だ。ウーバーや中国のライドシェアリング大手の滴滴(ディディ)、またアマゾンやピザ宅配のピザハットなどと連携して、自動運転EVによるライドシェアリングや商品デリバリー、移動型オフィスや移動店舗としての活用を目指す。2020年代前半には世界各地で実証試験を行うという。
地上を走るだけがモビリティーではない
MaaSでいうモビリティーは陸上移動に限らない。陸海空での展開が可能だ。中でも注目を集めているのが、「空飛ぶ無人タクシー」である。
例えば、半導体大手のインテルは2011年に垂直離着陸型モビリティーのベンチャー、Volocopter(ボロコプター)と提携。2017年に実機による試験飛行を本格的に開始した。今回のCESの会場には同機が展示されていたが、コックピットにあるのはメーターパネルのみだった。インテル関係者によると、完全自動飛行バージョンのほか、操縦桿(そうじゅうかん)を備えたセミ自動飛行バージョンも準備しているという。
このほか、ヘリコプター大手のベルヘリコプターは“エアタクシー”のコンセプトモデルを展示。VR(バーチャルリアリティー)を用いた飛行体験のシミュレーションを実施していた。
このように、MaaSに関する新しいアイデアで盛り上がっていた今年のCES。だが、ウェアラブルやドローン、VRなど、ここ数年で大きなブームとなったようなトレンドは見当たらなかった。はっきり言えば、ネタ枯れだ。今回の盛り上がり方を見るにつけ、CESは当面の間、自動車産業へ大きく依存することになりそうである。
(文=桃田健史/編集=堀田剛資)

桃田 健史
東京生まれ横浜育ち米テキサス州在住。 大学の専攻は機械工学。インディ500 、NASCAR 、 パイクスピークなどのアメリカンレースにドライバーとしての参戦経験を持つ。 現在、日本テレビのIRL番組ピットリポーター、 NASCAR番組解説などを務める。スポーツ新聞、自動車雑誌にも寄稿中。