マツダ・デミオ 13-SKYACTIV(FF/CVT)【試乗記】
孤高の“燃費スペシャル” 2011.08.10 試乗記 マツダ・デミオ 13-SKYACTIV(FF/CVT)……150万円
ハイブリッド並みの燃費をウリにする、「マツダ・デミオ」の新グレードに試乗。ホントにそんなに走れるの!? 『webCG』のコンドーと関がテストしてみた。
モーターよりもチューニング
関(以下「せ」):「マツダ・デミオ」もデビューから4年。この夏は、いろいろと手直しが実施されました。
コンドー(以下「コ」):早いもんや。でも、見た目は全然古くなってへん。相変わらず、キレのあるきれいなデザインやね。
せ:フロントまわりは、ちょっとだけ化粧直し。グリルとエアインテークの形が新しくなってます。
コ:青のアイシャドウ入ってんで! 「スバル・エクシーガ」みたいや。まあ、あっちはマイチェンで青い目をやめたけど。
せ:それはいい目の付けどころ。新グレード「13-SKYACTIV」だけの特徴です。ちなみに、読みは「イチサン・スカイアクティブ」。ジュウサンじゃなくて。
コ:わかってるって。30km/リッター走れるとかいうヤツやろ? カタログの燃費値は、先に出たホンダの「フィットハイブリッド」と同じ。
せ:でも「デミオ13-SKYACTIV」は、ハイブリッドカーじゃないんです。モーターが付いてない、純粋なガソリンエンジン車なんです!
コ:排気量小さくして、ターボとか? 何かしら秘密があるやろ?
せ:そういう“飛び道具”は一切なし。多孔式の直噴インジェクターや、独自のくぼみをもつピストン、冷却した排ガスを戻して燃焼室の温度を下げる「クールドEGR」などなど、既存の構成部品を見直しながら、圧縮率の高い“燃費の稼げる”エンジンに仕上げたというわけで。
コ:たしかマイナーチェンジ前から、ミラーサイクルエンジン積んだ、リッター23kmのグレード(13C-V)があったよな。
せ:今回はさらに、ピストン、コンロッドあわせて99g×4気筒=396g、クランクシャフトも715gの軽量化を実施。各パーツの摩擦抵抗も抑えられて――
コ:まるで、レーシングカーの話みたいや。「ロードスター」の開発でもそうやったけど、『プロジェクトX』入ってんなぁ、マツダ。
せ:これから10年、ハイブリッドやプラグインハイブリッドなど“モーター付き”が増えたところで、ベースの内燃機関はそうそう減らない。だから「エンジンそのものを磨かないと、明るい未来はありえない!」というのがマツダの主張なんです。
コ:たしかに、カタログ上(10・15モード:30.0km/リッター、JC08モード:25.0km/リッター)は、ハイブリッド並み。排気量小さくしてターボ付けるより、高い燃焼効率が得られるとも主張してはる。
せ:製造コストの点でも、パーツ点数の少ないスカイアクティブのほうが優れているというわけですね。
コ:でも、ホントのところはどうやろ? それに、クルマで大事なんは燃費だけやない。走りもシュッとしといてもらわんと。
せ:今回の仙台〜東京間(約420km)は、あえて燃費を意識しないで乗ってみるとしますか。さて、リッター何キロ走れるか??
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ますます走りのクルマに
コ:“スペシャルなエンジン”の割りには、音やフィーリングにこれといった特別感ないね。
せ:ピックアップもなかなか元気。スペックそのもの(84ps、11.4kgm)は、ベーシックな1.3リッターガソリンモデル(91ps、12.6kgm)に比べて7psと1.2kgm劣るんですけど。
コ:このクラスじゃ結構大きな違いや。けど、何かを我慢してる感じはないし。リッターカーとしては十分以上。あ、交差点ではアイドリングストップするねんな!
せ:「アクセラ」から始まった「i-stop」も標準装備。しかも、「デミオ 13-SKYACTIV」は、Dレンジ以外に、NレンジやLレンジなど、使える頻度が上がってます。これも、リッター30.0kmのポイントだそうで。
コ:復帰が早いし、再始動の音や振動も、これやったら気にならへん。ところで、インテリアは何も変わってないみたいやけど? せいぜい、エアコン噴出し口とかハザードスイッチの色くらいか?
せ:見えてないところが変わってるんですよ。例えば、正面のフロントガラス、このグレードだけ遮音ガラスなんです。体を預けてるシートも、「13-SKYACTIV」のは専用設計。背もたれの構造が、圧力をより分散できるようになってるんです。
コ:シート地だけやなしに? でも、なんで「13-SKYACTIV」だけ? そりゃあかんやろ。シートの改善くらい、全グレードでやってほしいよな。それに、もうちょっとお尻にも気ぃ遣ってもらわな。これ、長時間はキツいで。
せ:雑誌が挿せるグローブボックスや、バッグが置けるセンターコンソールは女性にポイント高そうだけど、相変わらずプラスチッキーなドアの内張りなんか、気になるユーザーもいるでしょう。その点、「ホンダ・フィット」などはしたたかです。
コ:まぁその辺の趣味は人それぞれやから。肝心の走りは、ずっと良くなってるよ。
せ:ステアリングの感触がしっかりしてるし、コーナリング中の身のこなしは、以前より一段としなやか。
コ:操作が楽で、いっぱい積める「フィット」やなんかとは、クルマとしての種類が違う。いまどきのコンパクトにしては、めずらしく箱っぽくないな。
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せ:ますますドライバーズカーになりましたね。聞けば、サスの取り付け部は前後ともに剛性アップしてるとか。フロントのダンパーとリアのブッシュも見直しがされたそうで……。
コ:それでも、乗り心地という点では、クラスの限界あると思う。後席はとくに突き上げを感じるし。まさか、新しい足まわりも「13-SKYACTIV」だけ?
せ:いえ、足まわりはデミオ全般で変わってます。ただ、「13-SKYACTIV」は専用のアルミホイール履いてて、1.5リッターの「SPORT」と同じ大型リアルーフスポイラー付き。
エアロといえば、おなかの下に整流板付いてるのは「13-SKYACTIV」だけですね。これも燃費に効くパーツ。
コ:……どこまでスペシャル仕様やねん。これがホントの“エコひいき”や。
エコが面白くなってきた
コ:ところで、さっきからメーターの端っこに緑や青のランプ出てるのが気になるんやけど……?
せ:それも目玉の新機能。「インテリジェント・ドライブ・マスター」、略して「i-DM」です。ひとことで言うと、運転が上手いか下手かクルマが診断してくれるという――
コ:そんなん、大きなお世話やろ。
せ:そうでもないですよ。マツダによれば、ヘタクソはうまいドライバーに比べて、ハンドルさばきや加減速にムラやムダが多い。これがまた燃費を左右するわけで。あ、その緑のランプは燃費にいい運転ができているサインです。
コ:ハイブリッドカーなんかにもよくあるよな。アクセルペダルにセンサー付いてて、ちびちび操作するとエライ! っちゅうわけやろ?
せ:マツダのはひと味違ってて、ペダルのほかに、車速センサーやステアリングの舵角(だかく)センサーを使って、前後左右のGをモニタリングしてるんです。乗員の体が揺れるようなラフな操作をするとグラフ表示で、厳しくダメ出し。
コ:逆に、飛ばしたとしてもスムーズやったら、青いランプで褒めてくれるわけか。お、「いまの加速はなかなか」っちゅう評価や! よっしゃ、次はコーナリングで“青”いったる。
せ:メーターよりも、前見ててくださいよ……。これ、設置場所からして、運転してる間は確認できないと思うけどなぁ……。
コ:エンジン切ると、点数も出るんや。5点満点で4.6点? なかなかのもんや。エコ評価もいいけど、こっちのほうが断然やる気になる。それで燃費に結びつくんやったら、かなり使える機能やんか。
せ:上手な運転は、同乗者だって助かりますしね。いままで有りそうで無かった新機能。
コ:スポーツカーにもあるとうれしいな。って、まさか、この機能も……?
せ:「13-SKYACTIV」の専用装備なんです。スポーティグレードの「SPORT」に付けたら、絶対ウケると思いますけど。
コ:エンジンも空力も煮詰めて、ドライバーに運転指導までして。まさに、“燃費の鬼”やね。で、肝心の数字のほうは……?
せ:高速と一般道、ほぼ半々で420km走って、25.1km/リッター(満タン法)。炎天下にエアコンがんがん効かせながら、普通に踏んでたことを考えると、ビックリの成績です。
コ:わりと近い条件で試したホンダの「フィットシャトル ハイブリッド」は19km台やったもんなぁ。ハイブリッドやなくてもここまでやれるていうのは、たいしたもんや。
せ:そういえば以前、ホンダの開発者の方も「マツダの挑戦に拍手を送りたい」とおっしゃってましたね。
コ:これからマツダは、基幹モデルの「アクセラ」や新型SUV「CX-5」にもこのスカイアクティブ技術をパワーアップして盛り込むらしい。
せ:そうした大きなクラスには、トヨタ製のハイブリッドシステムが組み合わされる計画もあるとか。……ってことは、燃費はさらに倍!?
コ:本気で50km/リッターとか狙ってほしい。エコカーの世界も、なんや面白なってきたで!
(文=webCG近藤俊&関顕也/写真=webCG)

近藤 俊

関 顕也
webCG編集。1973年生まれ。2005年の東京モーターショー開催のときにwebCG編集部入り。車歴は「ホンダ・ビート」「ランチア・デルタHFインテグラーレ」「トライアンフ・ボンネビル」などで、子どもができてからは理想のファミリーカーを求めて迷走中。