ベントレー・ベンテイガV8(4WD/8AT)
W12よりスポーティーに 2018.03.23 試乗記 ベントレーのSUV「ベンテイガ」に、ガソリンのV8ターボエンジンを搭載する新型が加わった。W12モデルより軽快でスポーティーさが際立つV8は、同時にラインナップの主力になっていく気配に満ちた、高い完成度を誇っていた。オーストリアからの第一報。V8モデルが登場した理由
日本での新車スタート価格が2000万円を切った。
ベントレー・ベンテイガに新たに追加されたV8モデルの日本における価格設定は、たとえ世界中で人気のSUVカテゴリーであっても、ミドシップのコアスーパーカー級の価格帯のみで勝負することは難しいということを物語っている。と同時に、日常的に使わないスーパーカーならまだしも、SUVとなれば“デイリーユース”が前提で、そのためにはある一定以上の社会性も要求される。
ベントレーのように、そもそもハイクラスに属するユーザーの多いブランドでは、性能や質感、先進性といった価値と同時に、環境性や安全性に関する機能への要求もシビアになってくる。新設計とはいうものの、W12ツインターボユニット1本では苦しいということを、ベントレーはハナから分かっていたことだろう。
幸いにして、ベントレーには「コンチネンタル」系において、W12とV8の両立を成功させた経験がある。W12モデルをモデルフラッグシップとして祭りあげながら、よりスポーティーで実用的なV8モデルを主力とする。そうすることで、W12モデルには、ある種の神話性さえ備わることになる。
ベンテイガではそんな現象が、デビュー後にもっと早くかつ如実に表れると、ベントレーはふんでいたのだろう。それが証拠に、本国仕様では、ひとあし先にディーゼルエンジンを積むV8モデルがデビューしていた。
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W12と変わらぬ走りを目指す
そして今回、オーストリアで催された国際試乗会の主役となったガソリンV8エンジン搭載モデルが続き、近い将来にはプラグインハイブリッド車(PHV)が登場する。もちろん、これらの戦略は、コンチネンタルGTにも展開されるだろうが、デイリーユースに供されやすいベンテイガや4ドアサルーンの「フライングスパー」においては、もはや必然というべき方向性であるといっていい。
もっとも、ベンテイガにおけるW12とV8との差別化は、コンチネンタルGTほど明快なものにできなかったのではあるまいか。クーペのGTであれば、より分かりやすいスポーツ性の付加を、V8仕様の特徴として打ち出すことができる。絶対的なパフォーマンスでは決してW12を上回ることはないけれども、ドライバー自身の感覚としてV8のほうが楽しいドライバーズカーだと思わせることは、クルマの性格上、容易だったはずだ。けれども、フライングスパーもそうだと言えそうだが、SUVのベンテイガともなれば、安易にスポーツ性を打ち出すことのほうが、ブランド的にもセグメント的にも、難しい。
試乗する前に、そのあたりの疑問をシャシーまわりの開発を担当したエンジニアに聞いてみたところ、思わぬ答えが返ってきた。なんでも、ドライブフィールはできるだけW12と変わらないようにした、と言うではないか。
確かに、そもそもコンパクトなW12と、4気筒少ないとはいえV8とでは、実をいうとさほどの重量差はない。エンジン単体では25kg、装備品を入れても50kg程度軽いだけ。そもそも重く巨大なSUVだから、車体に与える影響もそれほど大きくはないように思える。
というわけなので、
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スペックはカイエン ターボに似るが……
結論から言うと、パフォーマンスそのものは確かに変わらないようだし、ベントレーらしい上質なライドフィールも確認できた。けれどもやっぱり、運転している本人には、このV8のほうが軽やかな身のこなしで走るように思えた。いったい、どうしてだろう? やっぱりフロントマイナス50kgは効いているんじゃないか……。
もう少し詳しくモデルの説明をしておこう。4リッターの直噴V8ツインターボにZF製の8段AT、さらには通常時に前後40:60のトルク配分を行う4WDシステム、というパワートレインは、アウディグループ産である。スペック的にも先ほど書いたとおり、カイエン ターボに似る。もちろん、プラットフォームデザインも共有する。
とはいえ、エンジン&トランスミッションのキャリブレーションに、アシまわりのセッティング、最高速の設計、オフロードモード設定、静粛性など、ベントレー独自のエンジニアリングによって再設計されたものだといっていい。
ブラックアウトされたグリルと新しいデザインのアロイホイール、楕円(だえん)形のエキゾーストパイプなどが、外観でW12とV8とを見分けるポイントになるが、こればかりはビスポークで何とでもなりそうなので、ごくスタンダードな仕様では、という注釈を入れておく。ちなみに黒いグリルと楕円パイプは既に、V8ディーゼルモデルにも使われている。
光沢のあるカーボンファイバー強化樹脂製インテリアトリムを今回、ベントレーとしては初めて採用した。もちろん、これもガソリンV8専用というわけではない。ロードカー史上最大というカーボンコンポジットブレーキもしかり、だ。ちなみに、ノーマルのブレーキシステムはアケボノ製である。
W12より軽快
実際に乗ってみると、エンジニア氏の説明とはウラハラに、車体全体がずいぶんとスポーティーに動くように思えた。ノーズの動きは明らかに軽快で、旋回中にもさほど重さを感じさせない。W12もこれくらい軽かっただろうか、と記憶の再生を試みたけれど、いや、やっぱりもう少ししっとりとした手応えがあったはずだ、と思い直す。実際のところは、同じタイミングに乗り比べてみないと分からないけれど。
ターボチャージャーが小さいこともあって、加速も下からより滑らかに勢いづく。シフトアップに際しては、前のめり感もはっきりと出ていた。そして何よりも、サウンドだ。アメリカンマッスルにも似ているが、もう少し抑制された、けれども豪快な音が、小気味よく回ってくれるエンジンそのもののフィールと相まって、いっそう刺激的である。
試乗後、くだんのエンジニア氏をもう一度捕まえて、「ドライブフィールはW12と違った」と言ったら、まさに、エンジンフィールの違いが乗り手をそう感じさせている、と言われてしまった。
さらに回転を上げていくと、精緻さが増し、力強さをキープしたままに、澄み渡ったエンジンフィールをみせる。スポーティー感を強調するカイエン ターボとはまるで違うし、おそらく、同じ系統のパワートレイン&プラットフォームを使う「ランボルギーニ・ウルス」ともまったく異質のものだろう!
スポーティーに感じたからといって、ベンテイガの魅力が損なわれてしまったわけじゃない。全体としては、とても洗練された上質な走りをみせるSUVだ。それがベンテイガらしさ、である。PHVの登場も気になるところだが、そちらはひょっとするとW12級に高価かもしれない。まずは、今回登場したV8モデル(できればディーゼルも日本に導入してほしい)が、ベンテイガの主力となっていくことは、間違いないだろう。
そんなこと言いつつ、たまにW12に乗ってみれば、やっぱりこっちもいいよね、となることは、すでにコンチネンタル系で嫌というほど経験しているのだけれど……。
(文=西川 淳/写真=ベントレー/編集=竹下元太郎)
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テスト車のデータ
ベントレー・ベンテイガV8
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5140×1998×1742mm
ホイールベース:2995mm
車重:2395kg(EU値、5人乗り仕様)
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:550ps(404kW)/6000rpm
最大トルク:770Nm(78.5kgm)/1960-4500rpm
タイヤ:(前)285/45R21/(後)285/45R21
燃費:11.4リッター/100km(約8.8km/リッター、欧州複合モード)
価格:1994万6000円/テスト車=--円
オプション装備:--
※車両価格は日本市場でのもの。
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

西川 淳
自動車ライター。永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。