ドゥカティ・スクランブラー1100スペシャル(MR/6MT)
ネオクラシックのど真ん中へ 2018.04.07 試乗記 往年のダートトラッカーを思わせるスタイリングと、ビート感あふれるL型2気筒エンジンが魅力の「ドゥカティ・スクランブラー」シリーズに、リッターオーバーの大排気量を誇る「1100」が登場。ニューモデルの出来栄えを、ポルトガルのワインディングロードで確かめた。ワインディングロードがよく似合う
試乗会がスタートしてしばらくして、その舞台がワインディングロードへと移ったとき、悩んだあげくジェット型ヘルメットを選んでポルトガル入りしたことを大いに後悔した。ドゥカティの国際試乗会は先導車のペースが速いことで知られているが、スクランブラーファミリーの試乗会ではワインディングを中心としたコースではなく、街中や海沿いのコースをのんびり走るのだろうとの予想を立て、よりカジュアルな見た目とかぶり心地のジェット型ヘルメットを選んだのだった。
しかし、ベースキャンプから渋滞した街中を抜けすぐに高速道路に乗り、郊外で降りると一目散にワインディグへと向かい、その後はずっとワインディングでの試乗。もちろん先導車は速いペースでジャーナリストたちを引っぱる。まさにスポーティーなフルフェイス型ヘルメット向きなコースだったのだ。試乗会を開催するとき、主催者である各メーカーは、そのルートを吟味する。紹介する最新モデルの、最も強調したい部分がビビッドに表現できるルートを選ぶのだ。そういった意味で、スクランブラー1100はスポーツライディングを強く意識したモデルであり、ワインディングではそのことをハッキリと理解することができた。
排気量1079ccの新しいフラッグシップ
スクランブラーは、ドゥカティブランドに内包されるモデルファミリーではない。2014年に発表され、翌2015年から市場投入されたが、その最初からドゥカティブランドから袂(たもと)を分かち、「ドゥカティ・スクランブラー」という独立したブランドとしてその道を歩み始めた。したがって「SCRAMBLER DUCATI」のロゴマークを使い、ブランドカラーもイエローだ。最新のテクノロジーとともに車体デザインにおいてもモダンであることを追求し、それによってバイクを操る楽しさと所有する喜びを高めていくドゥカティに対し、スクランブラーはバイクが本来持つメカニズムとそれによって生み出される純粋な乗り味を大切にし、またその機械的な美しさや金属素材が持つ独特な力強さを守り続けている。そのある種“古めかしさ”をもって、バイクの世界を広げていこうという戦略的なプロダクトなのだ。
スクランブラー1100は、そのファミリーの最高峰モデルとなった。800ccクラスのモデルを中心としつつ400ccクラスのモデルもそろえた既存のラインナップに対し、排気量を1100ccクラスに拡大。さらには車体の動きや加減速の状態などを測定するIMUを搭載し、それを元にしたコーナリングABSやトラクションコントロールを採用。また3つのライディングモードを持ち、その各モードはアクセル操作に対するエンジンのレスポンス/最高出力/トラクションコントロールの介入度が異なる。スクランブラーファミリーにおいて、これほど歩幅の広い進化は初めてだ。
そしてワインディングロードでのフィーリングは、ドゥカティらしい軽快さにあふれていた。絶対的なパワーより、力強いトルクとそのトルクの出し方にこだわったというエンジンは、中低回転域からのトルクが実に力強く、神経質なアクセル操作とシフトワークを必要としない。それでいて空冷L型2気筒エンジン特有の、硬いシリンダー内爆発の感覚を味わうことができる。
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広がるスクランブラーワールド
1100cc級のエンジンの採用に伴い新設計されたフレームとスイングアームによって構成される車体は、走行安定性を高めるセッティングが施されているにもかかわらず、ハンドリングが軽い。車重自体は800ccクラスのモデルから20kgほど重くなり、また排気量にふさわしい堂々とした外装類をあえて採用しているにもかかわらず、その大きさや重さを感じさせない。この軽快でスポーティーな走行フィーリングの作り込みは、さすがドゥカティといったところだ。
スクランブラーは、この1100をラインナップしたことで、いま世界中で最もホットなカテゴリーに参戦を表明したこととなる。それが「ネオクラシック」カテゴリーだ。主要なライバルと比べてやや排気量が小さかったことや、「スクランブラー」というモデル名から、いままではそのカテゴリーから一定の距離を置いていた。しかしスクランブラー1100をラインナップしたことで、その渦中へと足を踏み入れた。それはスクランブラーワールドを大きく広げるというドゥカティの決意でもある。
ライバルは「BMW R nineT」や「カワサキZ900RS」、そして「ヤマハXSR900」にホンダが国内導入を決めた新型「CB1000R」などだ。それらのライバルたちも、最新のコンポーネントとクラシカルなルックスを併せ持つ。もちろんドゥカティ自身もそんなことは織り込み済みで、そこでのアドバンテージを得るために作り込みを進めてきた。そして今回の試乗で、そのライバルたちのなかでもパフォーマンスやルックスにおいて存在感を発揮できると感じた。
国内導入は初夏を予定しているという。その際はぜひ、このスクランブラー1100で新しくなったスクランブラーワールドを感じてみてほしい。
(文=河野正士/写真=ドゥカティ/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2190×920×1290mm
ホイールベース:1514mm
シート高:810mm
重量:211kg
エンジン:1079cc 空冷4ストロークL型2気筒 OHC 2バルブ
最高出力:86ps(63kW)/7500rpm
最大トルク:88Nm(9.0kgm)/4750rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:174万8000円

河野 正士
フリーランスライター。二輪専門誌の編集部において編集スタッフとして従事した後、フリーランスに。ファッション誌や情報誌などで編集者およびライターとして記事製作を行いながら、さまざまな二輪専門誌にも記事製作および契約編集スタッフとして携わる。海外モーターサイクルショーやカスタムバイク取材にも出掛け、世界の二輪市場もウオッチしている。