ミツオカ・ヒミコSレザーパッケージ(FR/6AT)
ブレない世界観 2018.04.18 試乗記 尋常ではない長さのフロントフードと、それに沿って配置される伸びやかなフロントフェンダー。独立独歩のデザインを貫く「ミツオカ・ヒミコ」が2代目へと進化した。富山の小さな自動車メーカーが送り出す、“最新モデル”の出来栄えは!?ホイールベースを大幅に延長
ヒミコというクルマがあることは知っていたが、実物を見るのは初めてだった。超ロングノーズではっきりとした独立型のフェンダーを持ち、グリルとヘッドランプの形状はクラシカルだ。昨今のトレンドや風潮とはきっぱりと一線を画している。2018年の新車であるとはにわかには信じられない。
時代に真っ向から逆らうフォルムでありながら中身は最新というのが、光岡自動車が作るモデルの取りえである。富山県の誇りと志が詰まっている。2018年2月に初のフルモデルチェンジを受けた2代目モデルのベースになっているのは広島産の「マツダ・ロードスター」。初代ヒミコは3代目のNC型を基にカスタマイズしていたが、現行のND型へとアップデートしたわけだ。
ベース車が変わっても、デザインの方向性はブレなかった。正直にいって、パッと見では初代と区別がつかない。ロードスターはNC型とND型でまったく違うフォルムだが、光岡の手が加わるとオリジナルの形は完全に隠されてしまう。ロードスターのモデルチェンジではサイズダウンが話題となった。ND型はNC型と比べて全長が105mm短くなっている。それに伴ってヒミコも全長を短縮しているが、先代との差はわずか5mm。ロードスターが小さくなっても、ヒミコはあくまでわが道を行く。結果としてベース車との差が大きくなり、新型ヒミコはロードスターよりも665mm長いのだ。
前後のオーバーハングを延長しただけではない。ホイールベースも大幅に延長している。ロードスターの2310mmに対し、プラス600mmの2910mmという長大さだ。あとちょっとで「メルセデス・ベンツSクラス」の3035mmが見えてくる数字である。光岡の美学を貫くため、大がかりな改造を敢行していることがわかる。ガワだけ取っ換えたハリボテではない。
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エンジンの前には広大な空間が
パワートレインは、ロードスターのものをそのまま使っている。ボンネットを開けると、エンジンには「SKYACTIV(スカイアクティブ)」の文字が誇らしげに輝いていた。ただ、エンジンルームの風景はかなり異なる。まず、ボンネットを引き上げるのに強大な力が必要であることに驚いた。FRP(繊維強化プラスチック)だから軽いだろうと思ったのは浅はかの極みである。軽量素材とはいっても、これだけ長いとずっしりと重い。もし鉄で作っていたら、ダンパーなしで持ち上げるのは困難だろう。
エンジンはキャビン寄りに設置されているから、前には広大な空間が残る。クラッシャブルゾーンとしては過剰な広さだ。特に補機類が置かれているわけではなく、エア導入口があるだけ。こういうプロポーションのクルマには直6エンジンが搭載されるイメージがあるが、直8だって入りそうである。
エンジンルームのちょうど真ん中あたりの左右に、ストラットタワーの取り付け部らしきものがあるが、これはロードスターの名残だった。実際にサスペンションが取り付けられているのは、これよりずっと前の方で、2つの間の距離がホイールベースの延長分ということになる。エンジンの脇には、恐ろしく長いステアリングシャフトが見えた。
メーターパネルやモニター、ドアトリムのしつらえなどはロードスターのものである。慣れ親しんでいるはずなのに、運転席からの眺めに違和感がある。フロントウィンドウの先には、とてつもない長さのノーズが伸びているのだ。先端のグリルバッジははるか彼方(かなた)にあり、左右にはフェンダーの豊かなふくらみが見える。峰がそびえているおかげで、車両感覚をつかむのに思ったほど苦労はなかった。モーガンとかケータハムなどのブリティッシュ・スポーツカーに乗っている気分である。
走っている時は、フェンダーの見え方がドライブシミュレーターっぽい。ステアリングを切ると、目の前の風景が不自然な動きをする。普段クルマに乗っている時の眺めと違いすぎて、現実感が乏しいのだ。日常空間から飛び出した気分を味わえるのは間違いない。
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前後重量配分48:52を実現
乗っているとブリティッシュ感があるのだが、エクステリアにはアメリカンなイメージも混じっている。スパルタンというよりは、エレガントとゴージャスを志向している印象だ。いろいろな要素がちりばめられていて、それぞれが主張する。オーケストラがハーモニーを奏でるというよりは、ノイズミュージックのようにバッティングしている。祝祭的ともいえるし、カオスという表現も可能だ。リアの形状は「ビュート」とも似通っていて、これが光岡流なのだろう。
ロングノーズのフォルムは、デザイン上の要請だけで採用されたわけではないらしい。前後重量配分を見直し、48:52という優秀な比率を得ている。さらに、フロントアンダーカバーとフェンダーサイドパネル内部を翼断面形状にすることで、強大なダウンフォースを発生させているという。
「飛躍的に操縦安定性を高めた」と説明されているが、残念なことに効果を体感することはできなかった。高速走行で不安定になるような事態には陥らなかったから、ホイールベース延長に合わせてサスペンションを注意深く設定し直してはいるのだろう。ただ、段差を越えた時にフロアがブルブルと震えるのには面食らった。ドシンバタンと落ち着かず、雅趣に富んだ外観に似合わぬ荒っぽい乗り心地である。
もう1つ気になったのが、最近では珍しいステアリングフィールだ。少し切っただけでは手応えを感じず、実際ノーズが向きを変え始めるのはある程度の角度を越えてからだった。反応が不確かで、思った方向にクルマが動くという確信を持てない。コーナーでトリッキーな動きをするような危険を感じることはなかったが、本気でワインディングロードを攻めるためのクルマではないようだ。
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邪馬台国は富山にあった!?
試乗したのはATモデルだったが、MTを選ぶこともできる。仕様はベース車に準じているので、試乗した「Sレザーパッケージ」はロードスターのラインナップにあるグレードなのだ。その上に、光岡独自のオプションである七宝焼グリルバッジやアルカンターラシートなどが加えられていた。ボディーカラーの「パッションレッドメタリック」は、本家の「ソウルレッドクリスタルメタリック」とは異なる色調である。
ロードスターに比べると価格は相当高いが、スタイルと雰囲気は唯一無二のものだ。世界観を共有しているのであれば、どうしても手に入れたくなるだろう。中古車を持ち込んで改造を依頼することもできるそうなので、ロードスターのオーナーが気分を変えたくなった時の選択肢にもなる。車重が増加したことでパワーが不足気味だと考えれば、「アバルト124スパイダー」をベースにすることもできるかもしれない。本気で直8エンジンを搭載しようと考えるチャレンジャーは現れるだろうか。
以前ビュートに乗った時の試乗記タイトルは、「富山県に続け!」だった。他県からも新たなパイオニアが現れることを期待したのだが、今のところフォロワーは皆無。富山の地から卑弥呼の名を持つクルマを生み出されたのでは、邪馬台国(やまたいこく)が存在した可能性が高いとされる九州と畿内の立場がない。
「タイトルは『邪馬台国富山説』で行きましょう!」と編集部F青年ははしゃいでいたが、無邪気にそだね~とは返せない。邪馬台国が富山にあったなんて話があるはずもない……と思ったら、あった。邪馬台国鯖江説である。中国の歴史書『魏志(ぎし)倭人伝』に<邪馬臺>と書いてあるのは<邪馬壹>の誤記で、そのジャバイという発音がなまってサバエになったというのだ。邪馬台国の近隣にあるとされる<巳百支国>はシハクキとかイハキなどと読まれてきたが、本当はスーバイジーであり、これがサバエになったという別の説もある。青森県にはキリストの墓があることだし、解釈は自由なのだ。
クルマの楽しみも自由であっていい。光岡の提供するモデルは主流にはなり得ないが、クルマ文化の幅を広げていることは確かだろう。「鬼道に事え能く衆を惑わす」とされた卑弥呼のように、ヒミコも秘められた大衆の欲望を受け止める存在なのだ。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ミツオカ・ヒミコSレザーパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4580×1740×1235mm
ホイールベース:2910mm
車重:1160kg
駆動方式:FR
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段AT
最高出力:131ps(96kW)/7000rpm
最大トルク:150Nm(15.3kgm)/4800rpm
タイヤ:(前)195/50R16 84V/(後)195/50R16 84V(ブリヂストン・ポテンザRE-71R)
燃費:--km/リッター
価格:598万3200円/テスト車=699万4296円
オプション装備:ボディーカラー<パッションレッドメタリック>(10万8000円)/七宝焼グリルバッジ(1万6200円)/weds製ホイール+ブリヂストン・ポテンザRE-71R<専用ナットカラー>(26万2440円)/DAMD製ステアリング<アルカンターラ>(6万9120円)/アルカンターラシート<運転席/助手席セット>(35万6400円)/ボディー同色ドアトリムカバー(6万8040円) 以下、販売店オプション デコレーションパネル<アルカンターラ>(3万4344円)/センターコンソールリッド<アルカンターラ>(1万8792円)/ドアトリム<アルカンターラ>(4万7952円)/パーキングブレーキブーツ<アルカンターラ>(1万4904円)/シフトブーツ<アルカンターラ>(1万4904円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:2565km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:268.8km
使用燃料:21.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:12.5km/リッター(満タン法)/12.5km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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