トヨタ・プリウスα Gツーリングセレクション スカイライトパッケージ(FF/CVT)【試乗記】
広がった“エコの象徴” 2011.07.28 試乗記 トヨタ・プリウスα Gツーリングセレクション スカイライトパッケージ(FF/CVT)……400万7450円
7人乗りの新型ハイブリッド「プリウスα」に試乗。「プリウス」シリーズ全体を見通して、リポーターが感じた不安とは……。
7人がちゃんと乗れる
ひと言で言えば、「プリウスα」は後方スペースが広い「プリウス」だ。だから多少顔つきが異なるとはいえ、元々プリウスに関心がない人や、好みじゃないという人がαに触れたからといって「こっちは好き」ということにはならないと思う。けれど、プリウスを憎からず思っているものの、あのサイズでは不十分と思っていた人にとっては、プリウスαの登場は朗報だろう。
プリウスαは、プリウスに比べて155mm長く、30mm幅広く、80mm背が高い。リアオーバーハングを伸ばしただけではなく、ホイールベースが80mmストレッチされた。ボディ外板にも全面的に新しいパーツが用いられていて、ほぼ別のクルマだ。顔つきが「ヴィッツ」みたいだったり横からみると「ウィッシュ」みたいだったり、いかにも近頃のトヨタといったデザインだが、ひと目見ればプリウスファミリーだとわかるようなデザインでもある。
インテリアにもプリウスとは異なるパーツが多数用いられ、着座位置も少し高いからドライバーズシートからの眺めは結構異なる。例によって工作精度は非常に高く、質感も問題なし。スイッチや表示パネルの配置も適切で使いやすい。ホイールベースを延ばした恩恵によって2列目シートの足元の空間はプリウスを確実に上回る。
プリウスαは、5人乗り仕様と7人乗り仕様があり、後者の3列目シートの居心地は可もなく不可もなく。じゃんけんに負けて3列目に長時間座ることになっても苦痛というほどではない。うちの「シトロエンC4ピカソ」の3列目より少し狭いくらい……ってピカソの3列目がどれくらいかだれも知らねーか。
ただ、ハッチバックも含め、プリウスのインテリアはどうしてここまでグレー基調の一辺倒なんだろう。売れるクルマだから万人受けを狙っているのかもしれないが、ビジネスライクで味気ない。色気をご所望なら「レクサスCT200hをお求めください」ということなのだろうか。
長所も短所もプリウス譲り
乗ればプリウスそのものだ。それも当然で、エンジン、モーター、それらを制御する動力分割機構などはまったく同じ。モーターのみで静かに発進し、速度がのるとエンジンによる駆動に変わり、負荷が高い場合にはエンジンとモーターで駆動を担い、減速時にはエンジンが止まり、モーターがエネルギーを回生するという、プリウスが見せる一連の挙動がそのまんま再現される。
加速時、エンジンがほぼ一定の回転数でビーッと回り続けるのは、速度調整をエンジン回転数ではなく主に動力分割機構に担わせるプリウスの技術的特徴のひとつだが、車内によく響くそのエンジン音はあまり聞き心地の良いものではない。せっかく先進的なクルマなんだからエンジン音なんて遮音してしまえばいいのに。エンジン音を消し去るくらいトヨタにとって朝飯前のはずだが、コスト面で折り合わないのだろうか、それとも問題視されていないのだろうか。
ボディが大きい分、車両重量は同じグレード同士で比べると80〜100kg重くなっているが、最終減速比が最適化されているからプリウスに比べて加速が鈍いということはない。でも燃費は正直。重くなった上に空気抵抗も若干悪化した分、10・15モード燃費はプリウスの35.5〜38.0km/リッターに対し、αは31.0km/リッターにとどまる。依然として優秀ではあるが。
参考までに報告しておくと、別の機会に「ホンダ・フィットシャトルハイブリッド」と一緒に東名高速を使って東京から箱根を往復したら、プリウスαが18.6km/リッター、フィットシャトルハイブリッドが18.2km/リッターだった。
パワートレインはプリウスと同一と書いたが、7人乗り仕様に限ってバッテリーが異なる。5人乗り仕様がプリウス同様ニッケル水素バッテリーをトランク下に搭載するのに対し、7人乗り仕様はそこにバッテリーを搭載すると3列目シートが格納できないため、容積あたりの電池容量が多いリチウムイオンバッテリーをセンターコンソール下に搭載する。バッテリーの違いによる燃費、航続距離の違いはなく、乗り味もまったく変わらないため、5人乗りか7人乗りかを判別するには、トランクを開けて3列目シートの有無を確認するか、センターコンソールボックスを開けてみるしかない。CDが100枚くらい入りそうなのが5人乗りで、数枚程度しか入らなさそうなのが7人乗りだ。
細かく見れば、プリウスαにあってプリウスにないものがないわけではない。αにはクルマがドライバーの意思とは関係なくトルクを増減し、クルマの前後の動きを低減させる「ばね上制振制御」が盛り込まれた。たとえばクルマはブレーキングすると、車体はやや前のめりの姿勢になる。そういう時、αはドライバーのアクセル操作とは無関係に瞬時にトルクを立ち上げ、フロントを持ち上げて車体をできるだけ水平に保とうとする。聞いてから乗ったからか、プリウスよりゆったりとした動きをするように思えたが、元々ホイールベースが長いために車体の前後の動きはマイルドになっているはずで、この技術の純粋な効果がどれほどなのか、はっきりとはわからなかった。
大ヒットの理由は?
今回のテスト車は、「Gツーリングセレクション スカイライトパッケージ」というグレードで、プリクラッシュセーフティシステムやカーナビなどのオプションが装着されていた。価格は400万7450円。カーナビ(&オーディオ)を含むオプションをつけなくても330万5000円する。プリウスαは結構よいお値段のクルマなのだ。とはいえ、もはやトヨタのラインナップから半分独立した感も漂う“エコの象徴”を、荷物の多いユーザーや大家族も選べるようになったことは純粋に喜ばしい。
ここにきて、10・15モード燃費30.0km/リッターの「マツダ・デミオ 13-SKYACTIV」が発売された。ダイハツも軽自動車用として、新しく、より厳しいJC08モードで30km/リッターを誇る技術を発表した。プリウスの動力性能はこれらのクルマのそれを上回り、装備も最も充実しているが、その分、確実に価格は高く、数年間乗れば価格差を回収できるほどの燃費差もない。つまり、プリウスもプリウスαも特別経済性が高いクルマとは言えない。
αを含め、プリウスには何度も乗ってみた。非常によくできたクルマだとは思うが、正直に言って、ここまで人気が高い理由はわからない。にもかかわらず、プリウスの売れ行きは言わずもがな、αも長いバックオーダーを抱えていて、今から注文しても納車は来年の4月以降になるようだ。なにかこう、 ハイパワーだのV8だのポテンザだの人馬一体だのと、自動車メディアが何十年もかけて扇動してきた従来の(旧来の!?)価値観を市場があざ笑っているかのようだ。もしかして僕だけ気づいていない魅力があるんじゃないかと、気が気じゃない。
(文=塩見 智/写真=荒川正幸、webCG)

塩見 智
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