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ホンダCB1000R(MR/6MT)

「CB」ってなんだっけ? 2018.05.31 試乗記 伊丹 孝裕 スーパースポーツの心臓を持つ、走りのネイキッドモデル「ホンダCB1000R」。軽快なボディーと145psの高出力エンジンが織り成す走りは見事だったが、リポーターはこのバイクにオススメの太鼓判を押すことができなかった。ホンダ最新の「ネオスポーツカフェ」に欠けていたものとは?

バイクそのもののデキは素晴らしい

なにより見た目にほれ込んだなら、そのライダーにとってCB1000Rは最良の選択になるはずだ。車体は軽く、ライディングポジションもコンパクト。145psの最高出力に物足りなさを覚える状況があるとは思えず、スロットルレスポンスやパワーを切り替えられるライディングモードを活用すれば、ドライでもレインでも、街中でもワインディングロードでもストレスなく走らせることができる。

ハンドリングもいい。ステアリングまわりの安定性を重視した味つけが施され、荷重を意識しなくてもフロントタイヤには常に一定の手応えがある。車体をバンクさせていく時も接地感は高く、自然な舵角を伴いながらきれいなコーナリングの軌跡を描くことができるはずだ。

また、各部の質感も高い。燃料タンクの滑らかな造形、差し込んだ光が稜線(りょうせん)のように反射するつややかな塗装、ヘアライン加工が施されたアルミパーツなどなど、オーナーの所有欲をくすぐるツボがしっかり押さえられている。

総じてCB1000Rは“いいバイク”である。のべつまくなしなにかが光っているメーターだけが妙にケバケバしいものの、見た目は清楚(せいそ)で中身も誠実。「コレ!」と決めたら他のバイクのことなど目に入らない一本気なライダーにとって、CB1000Rとのバイクライフは満ち足りたものになるはずだ。

一方で、アッチもコッチも気になる迷い多きライダーにとっては、その限りではない。最も悩ましい問題は、163万6200円という車体価格をどう見るか、である。

というわけで、ここから先はいくつかのバイク名とその価格を羅列することになる。多少の予備知識が必要かもしれないが、ちょっとガマンして読んでいただきたい。

ホンダCBシリーズの最新モデルである新型「CB1000R」。カウルレスのボディーにスーパースポーツゆずりのエンジンを搭載した、“ストリートファイター”と呼ばれるジャンルにトラディショナルな雰囲気を加えた新モデルである。
ホンダCBシリーズの最新モデルである新型「CB1000R」。カウルレスのボディーにスーパースポーツゆずりのエンジンを搭載した、“ストリートファイター”と呼ばれるジャンルにトラディショナルな雰囲気を加えた新モデルである。拡大
新型「CB1000R」は、「CB300R」「CB125R」とともに、2017年のEICMA(ミラノショー)で世界初公開され、日本では2018年4月に発売された。
新型「CB1000R」は、「CB300R」「CB125R」とともに、2017年のEICMA(ミラノショー)で世界初公開され、日本では2018年4月に発売された。拡大
エンジン回転計とインフォメーションディスプレイを組み合わせた液晶メーター。ギアポジションや走行モードなどに応じて色が変わる、8色のマルチカラーラインインジケーターが備わっている。
エンジン回転計とインフォメーションディスプレイを組み合わせた液晶メーター。ギアポジションや走行モードなどに応じて色が変わる、8色のマルチカラーラインインジケーターが備わっている。拡大
力強さを感じさせる、台形型のプロポーションが目を引くサイドビュー。市街地ではアップライトな姿勢を、ワインディングロードでは前傾姿勢を無理なくとれるライディングポジションが追求されている。
力強さを感じさせる、台形型のプロポーションが目を引くサイドビュー。市街地ではアップライトな姿勢を、ワインディングロードでは前傾姿勢を無理なくとれるライディングポジションが追求されている。拡大
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ライバルをぶっちぎる武器が欲しい

CB1000Rにはホンダが誇るスーパースポーツ「CBR1000RR」由来のエンジンが搭載され、必要十分な電子デバイスも備えられている。ただ、そのエンジンは歴代CBR1000RRの中でも初期のものに該当し、フレームはアルミのツインスパーではなく、スチールのモノバックボーンとなっている。もっとも、最新のCBR1000RRはベースグレードでも200万円を超える。それを踏まえると、CB1000Rの価格設定は一見妥当なのだ。

ところが、ここでヤマハの「MT-10」(167万4000円)を引き合いに出すと、その思いが一気に揺らぐ。なぜなら、こちらはスーパースポーツの中でも群を抜いて完成度が高い、あの「YZF-R1」の性能をほぼそのままアップハンドルで楽しめるからだ。“本家”と比べれば最高出力は制限され、電子デバイスの制御項目にも差はあるが、それでもCB1000Rのスペックを軽々と凌駕(りょうが)する。それでいて価格は3万7800円高にすぎないのだ。

他のモデルとの比較でも、CB1000Rは防戦を余儀なくされる。例えば「スズキGSX-S1000」(113万1840円)や「カワサキZ900」(95万0400円)、「カワサキZ900RS」(129万6000円)の車体価格には、圧倒的なコストパフォーマンスの高さがある。装備やコンセプトを無視して単純に比較すべきではないが、軽快なハンドリング、シャープに回るエンジン、迫力のサウンドなど、バイクらしさのカギになる部分に関しては、いずれも競争力は十分。言い方を変えると、その価格差を正当化するような突き抜けた武器が、CB1000Rには少ないのだ。

では、ホンダ同士ではどうだろう? 「CB1300スーパーフォア」(144万7200円)や「CB1300スーパーボルドール」(155万5200円)に比べると、CB1000Rの方が圧倒的に軽量コンパクトながら「ビッグバイクを操っている」感は薄味で、スポーツツアラーとしての快適性や利便性ではかなわない。それでいて8~19万円ほど割高だ。

ならば、空冷4気筒エンジンを持つ「CB1100」(122万0400円)、「CB1100EX」(133万8120円)、「CB1100RS」(137万8080円)に対してはどうか? 動力性能ではCB1000Rがぶっちぎるものの、ノスタルジックなたたずまいや見た目の重厚感、流した時の心地よさは空冷に分があり、それでいて最大で41万円を超える価格の開きはあまりにも大きい。

「CB1000R」にはシフトダウン時のエンジンブレーキによるリアタイヤのロックやホッピングを防ぐアシストスリッパークラッチや、クラッチ操作なしでの変速が可能なクイックシフターが装備されており、スムーズで快適なライディングが可能となっている。
「CB1000R」にはシフトダウン時のエンジンブレーキによるリアタイヤのロックやホッピングを防ぐアシストスリッパークラッチや、クラッチ操作なしでの変速が可能なクイックシフターが装備されており、スムーズで快適なライディングが可能となっている。拡大
998ccの水冷4気筒DOHCエンジン。「CB1000R」への採用に合わせ、燃焼室形状や鍛造ピストンの頭部形状、インレットポートの大きさ、バルブのタイミングやリフト量など各部に改良が施されており、力強い低中速トルクとレスポンスのよさを実現している。
998ccの水冷4気筒DOHCエンジン。「CB1000R」への採用に合わせ、燃焼室形状や鍛造ピストンの頭部形状、インレットポートの大きさ、バルブのタイミングやリフト量など各部に改良が施されており、力強い低中速トルクとレスポンスのよさを実現している。拡大
フロントのサスペンションには、しゅう動抵抗の低減と軽量化を実現するため、左側フォークに減衰機構とスプリングを、右側フォークにスプリングのみを装備したショーワ製倒立フロントフォークを採用。
フロントのサスペンションには、しゅう動抵抗の低減と軽量化を実現するため、左側フォークに減衰機構とスプリングを、右側フォークにスプリングのみを装備したショーワ製倒立フロントフォークを採用。拡大
幅190mmという極太のタイヤが目を引く、リアの足まわり。サスペンションには、オイルと空気が混ざるのを防ぎ、減衰力を安定させるために分離加圧式のダンパーを用いている。
幅190mmという極太のタイヤが目を引く、リアの足まわり。サスペンションには、オイルと空気が混ざるのを防ぎ、減衰力を安定させるために分離加圧式のダンパーを用いている。拡大
ブレーキは、前がφ310mmのフローティングディスクと「CBR1000RR」にも採用されるトキコ製4ポッドキャリパー、リアがφ256mmのシングルディスクと2ポッドキャリパーの組み合わせ。高い制動力とコントロール性を実現している。
ブレーキは、前がφ310mmのフローティングディスクと「CBR1000RR」にも採用されるトキコ製4ポッドキャリパー、リアがφ256mmのシングルディスクと2ポッドキャリパーの組み合わせ。高い制動力とコントロール性を実現している。拡大
シートは前端部が絞り込まれた形状が特徴で、830mmというシート高から想像するより足つき性に優れている。
シートは前端部が絞り込まれた形状が特徴で、830mmというシート高から想像するより足つき性に優れている。拡大
テールパイプが縦に2本配置されたマフラー。出力特性やレスポンスはもちろん、デザインやサウンドにも配慮したもので、アイドリング時には迫力ある重低音を、中高回転域では抜けのよさを味わうことができる。
テールパイプが縦に2本配置されたマフラー。出力特性やレスポンスはもちろん、デザインやサウンドにも配慮したもので、アイドリング時には迫力ある重低音を、中高回転域では抜けのよさを味わうことができる。拡大
走行モードは「スポーツ」「スタンダード」「レイン」に、個別のパラメーター調整が可能な「ユーザー」を加えた4種類。エンジンの出力特性やレスポンス、エンジンブレーキの強さ、トラクションコントロールの介入度合いなどを切り替えることができる。
走行モードは「スポーツ」「スタンダード」「レイン」に、個別のパラメーター調整が可能な「ユーザー」を加えた4種類。エンジンの出力特性やレスポンス、エンジンブレーキの強さ、トラクションコントロールの介入度合いなどを切り替えることができる。拡大

ブランドを大切にするのなら

いや、われながらちょっと意地悪な書き方をしていると思うが、CB1000Rに興味を持つ多くのユーザーは、実際ここに挙げたモデルも選択肢に入れているに違いない。「CB1000Rの見た目がドンピシャ」という決定打がなければ、同じように思いあぐねるはずだ。

そうやっていろいろ考えていると、「そもそも『CB』ってなんだっけ?」というやや壮大な問題に行き着く。

ここまでですでに何度「CB」とキーボードをたたいたか分からないが、現在あまりにもその名を持つモデルがあり過ぎる。スクーターとビジネスモデル、コンペティションモデルを除くとホンダは38車種を国内向けにラインナップしているのだが、そのうちの11車種に「CB」の名が与えられているのである。

もちろん、そこに統一された世界観があれば気持ちはスッキリする。しかしながらエンジンの気筒数や冷却方式はさまざまで、スタイリングもネイキッドからハーフカウルまで幅広い。カテゴリーもスポーツ、ツアラー、クラシックと一向にとりとめがないのだ。ちなみに、CB1000Rには「ネオスポーツカフェ」というキャッチコピーがつき、そのポジショニングはかなりフワッとしている。

間違いないのは、「CB」は60年近くにわたってホンダを支えてきた大切なブランドだ。それをきちんと継承していく意味でも、今は「CBとはかくあるべき」という骨子を再確認するタイミングだと思う。今回の試乗で最も強く感じたのはそれだ。

繰り返すが、CB1000Rはそれ単体で評価すると秀作と言っていい。ただし、その枠組みを「リッタークラスの国産ネイキッド」に広げ、ライバル各車と比較すると決め手に欠ける。そういうバイクである。

(文=伊丹孝裕/写真=三浦孝明/編集=堀田剛資)

ホンダCB1000R
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ホンダCB1000R(MR/6MT)【レビュー】の画像拡大

【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2120×790×1090mm
ホイールベース:1455mm
シート高:830mm
重量:212kg
エンジン:998cc水冷4ストローク直列4気筒DOHC 4バルブ
最高出力:145ps(107kW)/10500rpm
最大トルク: 104Nm(10.6kgm)/8250rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:22.5km/リッター(国土交通省届出値 定地燃費値)/16.7km/リッター(WMTCモード)
価格:163万6200円

伊丹 孝裕

伊丹 孝裕

モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。

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