トライアンフ・タイガー800XCA(MR/6MT)
21インチの本気 2018.06.16 試乗記 ユニークな3気筒エンジンを搭載したトライアンフのアドベンチャーモデル「タイガー800」。そのなかでも、最もオフロード向けのキャラクターを持つのが最上級グレードの「XCA」だ。21インチスポークホイールに秘められた、ヤル気の片りんに触れた。威圧感もアップするけれど……
「現金輸送車か?」
これがトライアンフ・タイガー800XCAを目の当たりにした第一印象、というか第一声。写真をご覧になれば分かるとおり、オプションのアルミ製トップボックスとパニアケースが装着された、スペシャルなルックスに対する素直な感想だ。それにしても、もとよりでっかいアドベンチャーモデルに金属製のケースを装着すると、異様なまでに迫力が増す。もちろん重量だってかさむだろう。ゆえに気軽に乗ることを拒みそうな圧力もアップするわけだけど、だからこそ御したいという奇妙な欲望も沸いてくる。
これは一種のオチですが、巨大ケース付きモデルは乗り降りに慣れとコツが必要みたいで、何度かまたいで気を許したところでスネを思い切りぶつけました。人間のほうは「くぅ」と叫んだが、アルミの箱は傷一つつかなかったとさ。
トライアンフのアドベンチャーセグメントに属する、並列3気筒エンジンを搭載したタイガー800。それにしてもトラはアドベンチャーがお気に入りのようで、この“800”だけでもカタログ上では5種類も仕様が用意されている。その分類はXCとXRの2系統。前者すなわち今回の試乗車はよりオフロード向きで、後者はよりオンロード向きという設定だ。この2つの系統は、これまた最近のトラが自慢するライディングモードやTFTディスプレイといった電子デバイス系の機能などによってさらに細分化され、価格差が生じているのだが、とにかくXCとXRの決定的な違いはホイールサイズに集約されていると言っていい。
![]() |
![]() |
![]() |
いかにチャレンジャーかがうかがい知れる
XCは前21/後17インチ。XRは前19/後17インチ。ホイールもまたXCはスポークでXRはキャストと聞けば、XC系の高度なオフロード意識がうかがい知れるというものだ。
いや、ウソです。自分、オフロード系には疎いので、実はうかがい知れません。そこで、前21/後17という極端な格差をつけた同類他車があるかどうか調べてみました。ありました! リアこそ18インチながらフロントに21インチのスポークホイールを備えているのが、ホンダの「CRF1000Lアフリカツイン」。まさにパリダカ仕様の本気モデルも似たパターンだったとは!? 他を見渡すと、アドベンチャー系の代表的なモデルである「BMW 1200GSアドベンチャー」は前19/後17。で、同じトライアンフのアドベンチャー「タイガー1200XCA」までもが、スポークホイール採用だが前19/後17なのである。そこで本当にうかがい知れてくるのは、800のXC系がいかにチャレンジャーかということだ。
……などという話を続けていると、「調べて書ける感想より試乗記をお願いしますよ?」と目だけ凍った笑顔を浮かべるwebCG編集部員にドヤされそうだ。書きますってば。
まず先述のように、ケースの位置を確認しつつ振り上げる足の軌道に注意してまたがります。すると、これが見た目以上に足つき性がよく、身長175cmなら一切不安を感じない座り心地だった。たぶんシートの形状が優れているのだろう。次に走りだします。トラのトリプルエンジンって、やっぱり独特。並列4気筒に近いようでモーター感は薄め。その分トルク感が厚い。とはいえ2気筒ほど重くないというか。う~、微妙だ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
タフな男になれた気分を盛り立ててくれる
さて、気になるフロント21インチホイールはどんな走りを披露してくれるのでしょうか。あくまで私見ですが、全体的に柔らかい感触でした。だからといってふにゃっと頼りないわけではない。これは、自分が直近で試乗したオフロード系の「ホンダCRF250 ラリー」(排気量も車格もまるで違うのは承知の上。ただしホイールサイズは前21/後18!)が相当に直進性の強いカチッとしたハンドリングだったこととの単純比較に過ぎません。
実際、オンロードでの安定性には問題も不満もなし。現実的にフロント21インチは“立ち”の強さがあるけれど、「そいや!」とタイミングよく倒し込む面白みは、おそらく重心が高いアドベンチャー系ならではのもの。そしてまたタイガー800XCAには、サイズ感を裏切るような軽快な乗り味があり、「だからこそ御したい」欲望を見事に満たしてくれる。それは何というか、自分がタフな男になれた気分を盛り立ててくれるのです。
そのあたりが多くの人に支持されるのか、タイガー800シリーズではこのXCAが一番人気だそうな。確かに、フロント21インチはマニアックな匂いも本気感も漂う。そして期待するのは、砂漠をまたぐような現金輸送を請け負う警備会社が、この800XCAを社用車として完備する姿だ。専属運転手にパリダカ経験者を雇ったりしてね。アルミケース一杯の現金を用意できるなら、ぜひ頼みたいです。
(文=田村十七男/写真=三浦孝明/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×805×1390mm
ホイールベース:1545mm
シート高:840-860mm
重量:208kg
エンジン:800cc水冷4ストローク直列3気筒DOHC 4バルブ
最高出力:95ps(70kW)/9500rpm
最大トルク:79Nm(8.1kgm)/8050rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:185万6000円

田村 十七男
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。