第26回:深遠なるアライメントの闇
2018.07.20 バイパーほったの ヘビの毒にやられまして![]() |
何があったか知らないが、突然真っすぐ走らなくなってしまった編集部ほったの「ダッジ・バイパー」。問題はアライメントの調整でアッサリ解決したものの、そこには気にすれば気にするほど深みにはまる、深遠なるナゾが潜んでいた……。
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確かに直ってはいるのだが……
記者はキツネにつままれたような心持ちでバイパーを眺めていた。購入から1年と3つの季節が過ぎようとしているのに、こやつには相も変わらず不可解な謎が多すぎる。浅学の徒(と)は、深遠なる闇を前に腕を組むばかりである。
なぜにこうも首をかしげているのかというと、(毎度のコトながら)今回のトラブルの原因が何で、いかなロジックを経て直ったのか、さっぱり分からなかったからだ。
子細を説明させていただくと、まずは2018年6月23日、入院していたバイパーが武蔵野に帰ってきた。……という類いの記事をすでに何度も書いている気がするが、とにかくバイパーが帰ってきた。
前回述べたとおり、今回の症状は「ハンドルを左にちょいと切っていないと真っすぐ走らない」というもの。これに対し、われらが主治医、コレクションズの本多氏が下した診療方針は、「取りあえずアライメントを見てみる」というものだった。リフトアップして下回りを見ても、どこかしらヒットしていたり、壊れていたりといった形跡が見当たらなかったからだ。
で、早速測定器でチェックした結果がこちら(本項写真A参照)。なるほど、フロントタイヤが確かに曲がってますね。基準値が+0.06°ということは、左が-0.39°、右が+0.37°ズレていた勘定になる。要するにわがバイパーは、ちょいとばかりフロントタイヤが左を向いていたのだ。原因に関しては、やっぱり不明。先述の主治医いわく、「何かの拍子にロワアームの偏芯カムがずれてしまったのでは?」とのことだった。
……さてさて。
賢明なる読者諸兄姉なら、ここまで読んだら記者が何を疑問に思っているのか、分かったことだろう。この測定結果には、武蔵野在住の凡夫には理解し得ない深いナゾが潜んでいたのである。
おかしいのはむしろリア
何が不可解かというと、それはずばり、曲がっていたフロントタイヤの向きだ。わがバイパーを襲った症状は、ハンドルを左に切っていないと真っすぐ走らない、いわゆる“右流れ”(勝手に右へと曲がっていってしまうこと)である。しかしてフロントタイヤが向いていたのは左。普通それって、逆じゃないですか? 素人考えで恐縮だが、この場合はむしろ“左流れ”の症状が出ていなければおかしかったのではないか?
この件について本多氏に尋ねたところ、わがバイパーのアシについては、「0.4°のフロントのズレより、リアのズレの方が大問題だった」とのこと。あらためてチェック結果をご覧いただきたい(本項写真B参照)。なんとリアタイヤが両方とも外を向いているではないか。しかもその角度、トータルで実に-3.07°(!)。とんだガニ股野郎である。よくもまあ、これでまともに走っていたもんだな。
と思ったら、本多氏に「いや、まともに走ってなかったですよ(笑)」とつっこまれた。そして記憶を掘り起こすに、確かに思い当たるフシがあった。
今をさかのぼること1年と7カ月、当連載の第7回の記事において、記者はバイパーの挙動をこう評していた。
むしろ、個人的にはもうちょいドッシリしていてほしいくらいで、高速道路でアシを取られたりすると、ヒヤっとするほど姿勢が変わる。
……当時のバイパーは、平たんな道なら、あるいは多少のワダチに触れる程度なら、なんてことなく真っすぐ走るクルマだった。しかし同時に、一定の大きさを超えるワダチに足を取られたり、高速道路のつなぎ目をナナメに突っ切ったりすると、冷や汗をかくほどハンドルを取られるクルマでもあった(実際にはハンドルを取られるのではなく、姿勢が乱れていたのだろう)。
当初、記者はこれを「前295、後ろ345なんて幅のタイヤを履いているから仕方ない」と考え、タイヤ交換後は「やっぱり競技用タイヤは神経質だなあ」なんて思っていた。いやはや、探偵小説に出てくる警察関係者ばりの推理力である。
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なにがどうしてこうなった?
もちろん、なんの理由もなくそう思い込んでいた訳ではない。だって仕方ないやん。普通に走っている分には至って普通だし、誰に見せても「不具合を抱えていそうな個体じゃない」って言われるし、そもそもバイパーなんて乗るの、これが初めてだったんですもの。 そりゃあ多少ハンドルが取られても、「こういうクルマなんだな」って思ってしまうのもむべなるかな。むべなるかな!
ちなみに、この酔狂なリアのトー角について、相模原の名探偵は「以前のオーナーさんがリアサスペンションの部品を変えたとき、ちゃんとアライメントを調整しなかったんじゃないですかね。そもそも、バイパーのリアタイヤにトー角の調整が付いていることを、知らなかったのかも」と推理をさえ渡らせていた。
……などと一気に書いてしまったが、ちょっとここで頭を冷やしたい。
わがバイパーにとり、リアタイヤのトー角が大問題だったことは間違いない。1年半も乗っていながら、それに気付かなかった己がポンコツぶりも認めよう。しかし、そもそもの問題である“右流れ”の原因は、果たしてこれだったのだろうか?
あらためて測定結果を見る。リアタイヤのトー角は、左が-1.29°、右が-1.38°。ガニ股なのは事実だが、左右で大きな違いはない。これはキャンバー角にも言えることで、左右の差は-0.07°である。あとはフロントのキャンバー角だが、こちらは左が-0.08°、右が-0.30°と若干の差が見られるものの、果たして公道での直進性に影響をもたらすほどかと言われると……。それに、影響があるにしても右タイヤのほうがネガキャンが強いんだから、トー角と同じく、ここでも“左向き”の力が生じていたはずである。
じゃあ、問題の原因はアライメントではなかったのか? 前々回にもお世話になった山田弘樹氏に尋ねたところ、タイヤの空気圧に摩耗の度合い、ダンパーやブッシュの状態と、アライメント以外にもクルマの進路を狂わす要因は山ほどあるという。が、本多氏いわく「アライメント以外で特に手をつけた箇所はない」とのことだし、そもそも明細にも他の作業は記されていない。
ここまでくると、「ひょっとしたら『プラシーボ効果』で、本当は直ってないんじゃないの?」などと言われてしまいそうだが、それについては断じて答えられる。「それがね、なぜか直ってるんですよ」と。
それはもう、記者のようなポンコツでも力強くうなずけるぐらい、バイパーは健勝な姿になって帰ってきたのだ。
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ポンコツですから、オーナーもクルマも
アライメント調整を済ませたバイパーがどう変わったかというと、まずは(理屈は分からないが)、クルマの“右流れ”が解消された。ハンドルがニュートラルな状態で、右にも左にもクルマが流れないようになったのだ。
次いで挙げられるのが、とにかく真っすぐ走るようになったことだ。調整前も直進性に難のあるクルマではなかったが、今でははっきりと「真っすぐ走るのが得意なクルマ」と評していい。左右のタイヤにばらばらに入力があるシーンでも、過度にハンドルを取られることはなくなったし、おかげで常に不意の挙動に身構えておく必要もなくなった。運転が楽になった。
この感じ、多少のアラには目をつぶり(ここ大事)、あらゆる外乱をタイヤで踏みつけて前へと突進する様は、アングロサクソン系の後輪駆動車だけに許された特権であり味である。わが家のバイパーもついにその高みに達したかと、思わずニヤニヤしてしまった。ハタから見たら、さぞやキモい坊主頭だろう。
ちょっと神経をそば立ててみると、このドトウの直進性は、リアまわりがどっしりした結果という気がしないでもないが、それについては、それこそプラシーボ効果もありそうなので明言は控えます。フロントの変化についても同様。メーカーの規定値より若干トーをニュートラル寄りにしたようだが、普通に道を走っている分には変化は分からなかった。ちょっとハンドルが軽くなった……かもしれないが、空気圧の違いもあるだろうしね。
このように、調整前とはすっかり別物なクルマとなって帰ってきたわがバイパー。個人的には、過程がどうあれ結果が良ければ問題はない。……のだが、やっぱり気になるのが“右流れ”の原因、なぜあんな症状が起きて、なぜ解消されたのかである。足まわりのスペシャリストであれば、掲載の測定結果で一目瞭然なのかもしれないが、あいにく記者はその域には達していないし、中学・高校の物理の成績を思い出すに、半永久的にその域には達せそうにない。
そういえば、エンジンチェックランプのトラブルも、メカさんいわく「いつの間にやら直ってた」というパターンだった。ウチのバイパーも今年で車齢18年の立派なジジイである。「詮索しても無駄なことは詮索しない。そのうちなんかの拍子に、ひょっこり真相が分かったりするでしょ」という、逆アンパンマンソング的スタンスでいるのも、ひとつの付き合い方なのかなあと思った次第である。
(文と写真=webCGほった)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。