マツダCX-3 XD Lパッケージ(4WD/6AT)
オンリーワンの魅力あり 2018.09.11 試乗記 デビュー以来最大の仕様変更が実施された、マツダのコンパクトSUV「CX-3」。ボディーや足まわりをリファインし、より排気量の大きなディーゼルエンジンを搭載したことで、その走りはどう変わったのか? 上級モデルに試乗して確かめた。かつてないテコ入れ
いつも通りがかる御近所さんが、ソウルレッドのCX-3からグレーの「CX-8」に買い替えた。マツダのいちばんコンパクトなSUVから、3列シート7人乗りのいちばん大きなやつにチェンジ。三つ子でも生まれたのだろうか。いずれにしても“マツダライフ”なお宅である。
ボディーカラーが変わったため、買い替えはすぐわかったが、CX-3もCX-8もデザインテイストが同じなので、CI(コーポレート・アイデンティティー)ならぬハウス・アイデンティティーみたいなものは変わらない。
「日本車では最近のマツダに注目しています」 フォルクスワーゲン グループ ジャパンのマーケティング担当者がそう言っていた。クルマの出来から、宣伝広告のつくりかたまで、輸入車メーカーにも一目置かれている。いまのマツダが“グッジョブ”な証拠だろう。
マツダSUV三兄弟の末弟、CX-3がマイナーチェンジした。1.5リッターのクリーンディーゼルが新開発の1.8リッターに換装された。加えて、先進安全装備が充実し、足まわりのリファインも図られたという。2015年2月のデビュー以来、最も大がかりな変更である。
試乗したのはディーゼルシリーズの上級モデル「XD Lパッケージ(4WD/6AT)」(312万6880円)。排気量アップで自動車税はワンランク上がったが、従来の同グレードと比べて、車両価格の値上げ幅は数万円に収まる。
スポーティーなディーゼル車
これまでの1.5リッターディーゼルに不満を感じたことはないが、新型1.8リッターCX-3で走りだすと、排気量アップはすぐに納得がいった。
パワーは105psから116psに向上している。270Nmの最大トルクは変わっていないが、3000rpm手前あたりからのトルクは肉付けされている。車重は30kg重くなったが、それにもめげず、1.5リッターより力強くなった実感がある。ディーゼルSUVとしては、いまやかなりの快速だ。BMWの「MINIクロスオーバー」でいえば、「クーパーD」以上、「クーパーSD」未満くらいのパワフルさである。
ただし、エンジン音は少し大きくなった。あいかわらずアイドリング時の車外騒音は低いが、急加速するとディーゼルのうなりが耳につく。遮音も「CX-5」ほど手厚くない。
でも、燃料カットの働く5600rpmまでトルクがタレないから、回し甲斐はある。6段ATをMモードに入れれば、キックダウンも自動シフトアップもしない完全ホールドギアとして使える。エンジンを引っ張ってスポーティーに走りたいときには有用だ。そもそも、ドライバー正面のいちばん大きなアナログメーターがタコメーターなんていうディーゼルのコンパクトSUVも珍しい。1.8リッター化で、三兄弟のなかでは最もスポーティーなディーゼルSUVになったといえるだろう。
乗り心地は一部で改善
主に乗り心地の向上を目的として、ダンパーやコイルのセッティングを見直し、タイヤのサイドウオールを柔らかくするなど、足まわりにも細かなリファインが施されている。
と書いておいて申し訳ないけれど、CX-3の弱点はやはり乗り心地だと思う。悪い路面では、揺すられるし、突き上げられる。足まわりのフトコロが深くない。そのへんがCX-5とのいちばん大きな差だ。ただし、今回の改良でリアシートの乗り心地は以前よりよくなった。突き上げが減ったと思う。
デビュー時はディーゼルのみだったが、2017年6月にガソリンの2リッターが加わった。今度のマイナーチェンジ前までの販売実績では、ディーゼル53%、ガソリン47%と、ほぼ拮抗(きっこう)している。ガソリン比率が2割にとどまるCX-5とは大きな違いである。でも、CX-3の場合、乗り心地はガソリンモデルのほうがいい。車重が数十kg軽いこともあり、身のこなしも軽快だ。
ちなみに、FF:4WD比率は、7割近くがFF。CX-3でも、ディーゼル、ガソリンの両方に6段MTをそろえているのは“Be a driver”のマツダらしいところだが、さすがにMTを選ぶのは10%をきるごく少数だという。でも、個人的にはガソリンのFFのMTモデルにソソられる。
メリットは給油で実感
とはいえ、燃料コストの安さは、日本で乗るディーゼルの不動の魅力である。
今回、撮影の都合で、1.2リッターターボの「トヨタ・カローラ スポーツ」とほぼ行動をともにした。満タン法の燃費を紹介すると、カローラが約320kmを走って12.8km/リッター、1.8リッターディーゼルターボのCX-3が約340kmで15.9km/リッターを記録した。このときの燃料価格はレギュラーガソリンが148円。軽油が117円。払ったお金は、カローラの3759円に対して、CX-3は2515円だった。
ディーゼル車は車両価格が高い。CX-3もガソリンモデルに対してざっと30万円高だ。そのモトがとれるとれないまで言い出すと、話はややこしい。さらには「ディーゼル車の将来」みたいなことまで考えると、さらにややこしくなるが、その一方、折からの原油高に加え、米国トランプ政権の圧力にイランがキレて、ホルムズ海峡に一朝ことあれば、なんていう明日の不安もある。
軽油の安さという国策に守られたディーゼル車は、「いまそこにある安心」といえるかもしれない。そのメリットをコンパクトSUVでも標準装備している。「トヨタC-HR」にも「ホンダ・ヴェゼル」にも「スバルXV」にもないCX-3の強みであることは言うまでもない。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=峰 昌宏/編集=関 顕也/取材協力=河口湖ステラシアター)
テスト車のデータ
マツダCX-3 XD Lパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4275×1765×1550mm
ホイールベース:2570mm
車重:1370kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:116ps(85kW)/4000rpm
最大トルク:270Nm(27.5kgm)/1600-2500rpm
タイヤ:(前)215/50R18 92V/(後)215/50R18 92V(トーヨー・プロクセスR52A)
燃費:19.2km/リッター(WLTCモード)、16.0km/リッター(市街地モード:WLTC-L)、19.1km/リッター(郊外モード:WLTC-M)、20.9km/リッター(高速道路モード:WLTC-H)
価格:312万6880円/テスト車=320万2480円
オプション装備:CD/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー<フルセグ>(3万2400円)/360度ビュー・モニター+フロントパーキングセンサー<センター/コーナー>(4万3200円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:4075km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:342.5km
使用燃料:21.5リッター(軽油)
参考燃費:15.9km/リッター(満タン法)/15.7km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。