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トヨタ・センチュリー(FR/CVT)

よんどころなし 2018.09.18 試乗記 下野 康史 要人御用達の国産ショーファードリブンカー「トヨタ・センチュリー」が、20年ぶりにフルモデルチェンジ。「継承と進化」をテーマに開発された新型は、ほかのサルーンでは味わえない独自の高級車像を築き上げていた。

もはやライバル不在

黒いセンチュリーはカメラマン泣かせだ。7層の塗装に、漆塗りの技法でもある“水研ぎ”を3度施して鏡面仕上げとしたボディーに、あらゆるものが映り込んでしまうからだ。

期間限定で用意された試乗車には、「洗車に関するお願い」という刷り物が載っていて、付属の本皮セーム、毛ばたき、吸水クロスの使い方が説明してある。もちろん機械洗車はダメ。手洗いの際も、腕時計やアクセサリーは外すようにと書いてある。

たしかにその大型4ドアボディーは、シモジモのクルマとは別格の、やんごとない存在感を放つ。バンパーの出っ張りをなくしたフロントマスクには違和感を覚えるが、走り去る後ろ姿はきれいだ。“和”の匂いもする。ボディーサイドの高い位置に入る複雑なプレスラインは、平安時代にあった「几帳面(きちょうめん)」という技法を採用しているという。

1997年に先代センチュリーが登場したとき、日産には「プレジデント」がいた。2000年には三菱が「ディグニティ」を出した。あっという間に消えてしまったが、つい先日、皇室のだれかが乗っているのをニュースで見た。しかし、21年ぶりにフルチェンジした今度のセンチュリーに、国産のライバルはいない。センチュリー一強である。

プラットフォーム(車台)やパワートレイン、エアサスペンションは旧型「レクサスLS」用がベースで、センチュリー専用だったV型12気筒5リッターエンジンは、直噴5リッターV8ハイブリッドに変わった。価格は、国内生産の日本車では最高額の1960万円。本革シートなどのオプションを備えた試乗車は2000万円を超えていた。

約20年ぶりとなるフルモデルチェンジで、2018年6月にデビューした3代目「トヨタ・センチュリー」。国内専用モデルとして販売される。
約20年ぶりとなるフルモデルチェンジで、2018年6月にデビューした3代目「トヨタ・センチュリー」。国内専用モデルとして販売される。拡大
シンプルなデザインのインストゥルメントパネル。本杢のパネルは、パーツごとに木目が美しくそろうように手作業で仕上げられている。
シンプルなデザインのインストゥルメントパネル。本杢のパネルは、パーツごとに木目が美しくそろうように手作業で仕上げられている。拡大

シート表皮は、100%ウールのファブリックが標準。オプションで「極美革」を用いた本革仕立て(写真)に変えられる。


	シート表皮は、100%ウールのファブリックが標準。オプションで「極美革」を用いた本革仕立て(写真)に変えられる。
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パワーユニットは、先代「レクサスLS600h」のハイブリッドシステムを「センチュリー」用に手直ししたもの。システム全体で最高出力431psを発生する。
パワーユニットは、先代「レクサスLS600h」のハイブリッドシステムを「センチュリー」用に手直ししたもの。システム全体で最高出力431psを発生する。拡大
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レクサスとは流儀が違う

「後席が上座」と謳うのは先代以来である。まずは助手席後ろのVIP席を味わう。
 
最近乗った「レクサスLS500“エグゼクティブ”」と比べると、全長が10cm長いこともあり、さらに広い。本革シートの当たりがソフトで、よりフカっとしている。なにより違うのは、明るさだ。側面窓は二重ガラスだが、後席ウィンドウにもティンテッド加工は入っていない。白いカーテンがメーカーオプションにあるが、試乗車には付いていなかった。電動サンシェードを閉めると、部屋を昼なお暗くできたLS500に比べると、より外向的だ。考えてみるとセンチュリーは、後席で手を振ったりする人も乗るクルマなのである。

天井は高い帯のような織物でくるまれている。木目の浮いた本杢(ほんもく)のウッドパネルがイイカンジだ。アナログ時計の白い盤面は、和紙に見える。リアシートは前後スライドもリクラインも思いのままである。自分でやらなくても、運転席には後席シート調整用のボタンが5つ並んでいる。

新型LS500初出の“リフレッシュシート”が付いている。しかしリアシート左席のみ。しかもなぜか背もたれ部分だけで、座面には入っていない。アメリカで“shiatsu”シートとしてアピールしているこの装備は、LS500の最大の魅力のひとつだと思う。小さな空気袋の圧力で指圧師の親指のような効果を出している。背もたれを強く寝かせて体重を乗せると、クーッと声が出るくらい効く。センチュリーの主賓にもあの気持ちよさをフルスペックで味わってもらいたかった。

前後席の間隔は先代比で95mm延長。左側後席のための助手席調節機構やオットマンも備わる。
前後席の間隔は先代比で95mm延長。左側後席のための助手席調節機構やオットマンも備わる。拡大
後席中央席の背もたれは、同左右席用のアームレストを兼ねている。タッチパネル式のシートポジション調節スイッチもここに並ぶ。
後席中央席の背もたれは、同左右席用のアームレストを兼ねている。タッチパネル式のシートポジション調節スイッチもここに並ぶ。拡大
後席の頭上は、「紗綾(さや)形崩し柄」の織物があしらわれる。ルームミラーの照明(写真中央)はLED式。
後席の頭上は、「紗綾(さや)形崩し柄」の織物があしらわれる。ルームミラーの照明(写真中央)はLED式。拡大
ドアパネルやドアノブにはタモ杢の装飾が施される。ほかにシルバーのアッシュ杢仕様も用意される。
ドアパネルやドアノブにはタモ杢の装飾が施される。ほかにシルバーのアッシュ杢仕様も用意される。拡大

“悪い道”は苦手

編集部Sさんをショーファーにして、後席インプレッションに出る。ハイブリッドだから、しずしずと走っている限り、エンジンはかからない。あたりまえだが、静かだ。

乗り心地のよしあしがはっきりわかるいつものコースを走ってもらう。それまではいかにもエアサスらしい粛々と滑るような走りだったが、路面の荒れたところではフロアがワナワナ震えて、だれも乗っていない助手席の背もたれが揺れた。平滑な路面では問題ないし、高速道路の小さな継ぎ目の乗り越しなどはエレガントなのだが、入力が大きくなると、途端に乗り心地が落ちる。こういうところは、欧州のVIPサルーンとは差がある。センチュリーのショーファーに求められるのは、“悪い道”へ行かないことである。

一方、ドライバーズカーとしてのセンチュリーにはウナらされる。意外に小径なハンドルの操舵感をはじめ、すべての操作がやわらかい。アグレッシブに運転しようなんて気を起こさせない。

そこを鞭打って、会長を迎えに山の中のゴルフ場へ急行するショーファーのつもりで走ってみても、センチュリーは大人(たいじん)の風格をみせる。しなやかな身のこなしは、2370kgの車重を感じさせない。パワーはいつでもどこでも余裕しゃくしゃくだ。急加速すると、大きなはずみ車が回るような回転フィールは、先代LSの「600h」そのものである。

足まわりにはエアサスペンションを採用。前後ともにマルチリンク式となっている。
足まわりにはエアサスペンションを採用。前後ともにマルチリンク式となっている。拡大
後部乗り込み口のドアシルは、パッセンジャーが乗り降りしやすいように、室内フロアとの段差がほとんどないほど低められている。
後部乗り込み口のドアシルは、パッセンジャーが乗り降りしやすいように、室内フロアとの段差がほとんどないほど低められている。拡大
18インチサイズのアルミホイール。走行中の雑音を抑えるノイズリダクションタイプが採用されている。
18インチサイズのアルミホイール。走行中の雑音を抑えるノイズリダクションタイプが採用されている。拡大
今回のモデルチェンジについて開発陣は「燃費性能の向上こそが最大の理由」と語る。高速道路を中心とした今回の試乗では、満タン法で10.1km/リッター、車載燃費計で10.0km/リッターの燃費を記録した。
今回のモデルチェンジについて開発陣は「燃費性能の向上こそが最大の理由」と語る。高速道路を中心とした今回の試乗では、満タン法で10.1km/リッター、車載燃費計で10.0km/リッターの燃費を記録した。拡大

何でも最新とは限らない

1997年に出た先代センチュリーは925万円だった。この21年間で価格は倍以上になった。大卒の初任給はほとんど変わっていないと思うが、これもセンチュリー一強なのだから仕方ないか。

先代モデルでは、登場直後に試乗車を借りて秋田県まで遠出した。往復1200kmを走って、燃費は6km/リッター台だったが、今回は約260kmで10.1km/リッターを記録した。ハイブリッド化で燃費性能は大きく向上している。

高速道路でレーンキープアシストを試していて気がついた。このシステムは、新型LS500や「アルファード」系に搭載される、車線のど真ん中をキープする最新型ではない。「トヨタの最高級車」ではあるけれど、トヨタの最新技術が漏れなく詰まっている、というわけではない。

でも、すぐれたショーファーは、果たして前車追従型クルーズコントロールやレーンキープ機能のような運転支援装置を使うのだろうか。そもそも、国でいちばんエライ人を乗せるナショナルフラッグシップカーは、完全自動運転になるのだろうか。センチュリーの次のフルチェンジでは答えが出ているかもしれない。

(文=下野康史<かばたやすし>/写真=田村 弥/編集=関 顕也/取材協力=河口湖ステラシアター)

2眼タイプの計器盤。照明コントロール付きのオプティトロンメーターが採用されている。
2眼タイプの計器盤。照明コントロール付きのオプティトロンメーターが採用されている。拡大
運転席と助手席の間には、後席用のエンターテインメントシステムがレイアウトされている。モニターのサイズは11.6インチ。
運転席と助手席の間には、後席用のエンターテインメントシステムがレイアウトされている。モニターのサイズは11.6インチ。拡大
トランクルームの容量は484リッター。9.5インチのゴルフバッグが4つ収納できる。
トランクルームの容量は484リッター。9.5インチのゴルフバッグが4つ収納できる。拡大
ボディーカラーは、試乗車のエターナルブラック「神威(かむい)」を含む全4色がラインナップされる。
ボディーカラーは、試乗車のエターナルブラック「神威(かむい)」を含む全4色がラインナップされる。拡大

テスト車のデータ

トヨタ・センチュリー

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5335×1930×1505mm
ホイールベース:3090mm
車重:2370kg
駆動方式:FR
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
最高出力:381ps(280kW)/6200rpm
最大トルク:510Nm(52.0kgm)/4000rpm
モーター最高出力:224ps(165kW)
モーター最大トルク:300Nm(30.6kgm)
システム最高出力:431ps(317kW)
タイヤ:(前)225/55R18 98H/(後)225/55R18 98H(ブリヂストン・レグノGR001)
燃費:13.6km/リッター(JC08モード)
価格:1960万円/テスト車=2048万5060円
オプション装備:本革仕様<極美革>+シートベンチレーション<前後左右席>(54万円) ※以下、販売店オプション カメラ一体型ドライブレコーダー(2万1060円)/フロアマット<プレステージタイプ>(32万4000円)

テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:2233km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:258.3km
使用燃料:25.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.1km/リッター(満タン法)/10.0km/リッター(車載燃費計計測値)

トヨタ・センチュリー
トヨタ・センチュリー拡大
インストゥルメントパネルには9インチモニターを装備。その下に空調やオーディオのスイッチが整然と並ぶ。
インストゥルメントパネルには9インチモニターを装備。その下に空調やオーディオのスイッチが整然と並ぶ。拡大
前席のセンターコンソール。シフトレバーの手前には、助手席のポジション調節スイッチが配される。
前席のセンターコンソール。シフトレバーの手前には、助手席のポジション調節スイッチが配される。拡大
ドアガラスは防音性に優れる二重ガラスになっている。ドアスピーカーから特定の制御音を出すことでエンジンのこもり音を打ち消す「アクティブノイズコントロール」も搭載される。
ドアガラスは防音性に優れる二重ガラスになっている。ドアスピーカーから特定の制御音を出すことでエンジンのこもり音を打ち消す「アクティブノイズコントロール」も搭載される。拡大
「センチュリー」の象徴たる鳳凰エンブレム。フロントグリルのもの(写真)は、ひとつずつ職人の手彫りで製作されている。
「センチュリー」の象徴たる鳳凰エンブレム。フロントグリルのもの(写真)は、ひとつずつ職人の手彫りで製作されている。拡大
“和の光”をモチーフとしたリアコンビランプ。「センチュリー」独自の世界観が表現されている。
“和の光”をモチーフとしたリアコンビランプ。「センチュリー」独自の世界観が表現されている。拡大
下野 康史

下野 康史

自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。

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