第526回:1500psのハンドリングマシン
「ブガッティ・ディーヴォ」発表の瞬間に立ち会う
2018.09.19
エディターから一言
最高出力1000psオーバーという、圧巻のパフォーマンスを身上とするブガッティのニューモデル「ディーヴォ」が、モントレー・カーウイークで世界初公開された。お値段500万ユーロ、生産台数40台という“ハイパーカー”の姿を、現地からリポートする。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
最高速こそ“モダン・ブガッティ”の誇り
フォルクスワーゲングループ傘下となってからの“モダン・ブガッティ”のプロダクツ=「ヴェイロン」と「シロン」は、最高速をひとつの勲章(=根拠)に、世界No.1であり続けた。1000psを超える8リッターW16クワッドターボエンジンの途方もないスペックに加えて、盛んに時速400km超を喧伝(けんでん)したものだから、特に初期モデル、1001psのヴェイロンには“直線番長”のイメージが強く漂っていたように思う。実際に乗ってみても、重厚なグランツーリスモといった印象で、そのボディーサイズと重量とがあいまって、スポーティーさには欠けていた。
ところが、1200psとなった後期モデル、すなわち「ヴェイロン スーパースポーツ」では、前アシが少しだけニンブル(敏しょう)に動くよう味付けを変えていた。とはいえ、それは「以前に比べて」という範囲にとどまっていた。基本となるキャラクターは前期型と変わらず、事実スーパースポーツは世界最高速度記録に挑戦し、ワールドレコードも記録している。
400台あまりの生産を終え、ヴェイロンはシロンへとバトンタッチされたが、そのシロンもまた最高速トライアラーであることには違いがなかった。ノーマル状態では380km/hに制限されるが、スピードキーを使うことにより400km/h超をらくらく可能とする。
もっとも、2018年1月からCEOとなったステファン・ヴィンケルマン氏(元ランボルギーニ、前アウディスポーツ)が“400km/hクラブ”の仲間入りを果たしたことがニュースになったくらいで、ブガッティはいまだ公式的にはシロンでの記録挑戦を行っていない。タイヤ性能の制限で420km/hをリミットにしていることもあるのだろう。記録への挑戦は条件がそろい次第、そのうち行われることは間違いないし、挑戦するということは圧倒的な数値で世界記録を狙うということになるはず。しばらく待ち、の段階だ。
ニューモデルはハンドリングマシン
そこで、というわけでもないかもしれないが、今回ヴェイロン以降のモダン・ブガッティで初めてといっていい、趣を異にするニューモデルが発表された。最高速よりハンドリング、お値段500万ユーロ以上、世界限定40台、そしてお約束の「ワールドプレミア時には“完売御礼”」。その名は「ブガッティ・ディーヴォ」である。
ワールドプレミアの舞台に選ばれたのは、モントレー・カーウイークの人気イベント「ザ・クエイル・モータースポーツ・ギャザリング」(以下MSG)。入場料650ドルの前売りチケットが瞬殺で完売するというゴージャスイベントで、近年多くのラグジュアリーブランドがスポンサードを行い、ワールドプレミアやUSプレミアの舞台にも選んでいる。ブガッティの新型車発表の場としてもふさわしい、といっていい。
会場内にディーヴォの公開を伝えるアナウンスが流れた。「シロン スポーツ」と「シロン スカイビュー」に挟まれるカタチで、ベールをかぶったディーヴォがセンター。ものすごい数の報道陣や見物客がすでにブースを取り囲んでいる。しばらくクルマには近づけそうにない。
ステファン・ヴィンケルマン氏が登壇しアンベールを告げる。シロンとはまったく違う表情が徐々に見え始めると、観客からどよめきが起こる。拍手喝采が巻き起こるも、手のひらを天に向けて困惑する顔もちらほら。賛否両論渦巻くのは、この手のハイパーカーにとって必ずしも悪い話じゃない。なんといっても世界限定40台だ。万人ウケなど狙わなくていい。否、むしろ、世のスポーツカー好きからあきれられるくらいのほうがいい。そのほうが、6億円以上出してコレを買う御仁の幸福度も増すというものだ。
自信を裏打ちする“完売”という事実
いずれにしても、アグレッシブなヴィンケルマンカラーがよく出たニューモデルである。昨年末のCEO就任前にモルスハイムを訪れた際、ヴィンケルマン氏は「シロンとは明確に異なるスタイリングを要求した」と言ったという。
続けていわく「顧客の好みは常に変化しているんだよ。シロンがベストな回答だったのは2016年以前の話だろ? そこから顧客が欲しいと思う形も徐々に変わってきているんだ。ブガッティは、ごく限られたVIPカスタマーの望みをかなえ続けるブランドでなければならない。そのうえで世界一を目指す必要があるんだ」
「ディーヴォはディーヴォだ。ライバルはいない」。そう断言したステファン・ヴィンケルマン氏の並々ならぬ自信の裏には、シロンのオーナー向けに行われたスニークプレビュー(極秘の内覧会)にて、驚くべき価格設定であったにも関わらず、またおそらくは実物を見せたわけではないにも関わらず、即座に完売御礼となったという事実があった。
購入資格者の詳細は明らかにされていない。けれども、既納先のなかでも限られた顧客だけがスニークプレビューに招待されたということは分かっている。現在、シロンのオーナー(もしくはオーダー済み)で、ヴェイロンと合わせて2台以上のモダン・ブガッティを所有するスーパーVIPカスタマー向けだった、というウワサもある。いずれにしろ、この新しいデザインは、モダン・ブガッティオーナーの支持をすでに勝ち取っているのだ。
機能に徹し、かつブガッティらしく
チーフデザイナーのアキム・アンシャイト氏によれば、「ディーヴォもまたシロンやヴェイロンと同様に、機能が生んだデザインに徹した」。つまり、こけおどしではないという。派手さは増したが、一つひとつのデザインに意味があるというわけだ。「そういう意味では、ディーヴォもまた性能に対してオーセンティックだと言えるね」
シロンとはまったく違う顔つきとなったことも、空力はもちろん、フレッシュエアの吸入を最適化するためにヘッドライトを可能な限り小さくした結果でしかない。“NACAダクトルーフ”も、シロンより23%幅広い可動式リアウイングも、そして派手なリアアンダーディフューザーも、すべてディーヴォの走りのキャラクター、つまりは“最高速ではなくハンドリング”にささげられたものだった。
そのうえで、「一目見てブガッティでなければならないんだ。そこがデザイナーにとって腕の見せ所だといっていい」。
誰がどう見てもブガッティに見えるべく、キーとなるデザインポイントは、ホースシューのフロントグリルであり、薄くなってよりスピード感の増したサイドのブガッティラインであり、そして真上から見たシルエットであった。いずれもシロンと同様、世界最高峰の名車との誉れ高い「タイプ57SCアトランティーク」をモチーフとしたものだ。
名は体を表す
新CEOとほぼ同時期にブガッティの開発トップに就任した元フォルクスワーゲンのステファン・エルロット氏によるパフォーマンス評で、ディーヴォ・ワールドプレミアのリポートを締めくくろう。
「ブガッティ社内には以前からもっとニンブルなスポーツカーを造るというプランがあった。シロンからの変更ポイントでキーとなったのは、ネガティブキャンバーとダウンフォース。そのためスピードキーはなく、最高速度は380km/hに制限されているよ。ナルドのハンドリングサーキット(一周6.2km)では、シロンより8秒も速い。来年には正式なプロトタイプが走り始め、デリバリーは早くて再来年になるはずだ」
ディーヴォの名もまた、ヴェイロン(=ピエール)、シロン(=ルイ)と同様、往年のブガッティを駆って著名なレースイベントで華々しい戦果を挙げた伝説のレーシングドライバーに由来するものだ。
アルベルト・ディーヴォは1923年から33年にかけて、実にさまざまなレースにブガッティで出場し活躍したが、中でもハイライトは、ドラージュから移籍したその年に名車「T35B」を駆り優勝を果たした、タルガ・フローリオだった。
シシリー島の山岳路を使った伝説の耐久公道レース。T35でタルガ・フローリオ5連覇を果たしたブガッティにとって、語るべき輝かしいレーシングヒストリーのひと幕であろう。ディーヴォの目指す道は、この歴史からも十分にうかがえるのだった。
(文=西川 淳/写真=ブガッティ・オートモビルズ/編集=堀田剛資)

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
-
第861回:冬道性能やいかに ミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」を北の大地で試す 2026.2.18 2025年9月に日本ミシュランタイヤが発表した最新のオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」と「クロスクライメート3スポーツ」の冬道性能を確かめるために、北海道に飛んだ。ドライやウエット路面に続き、ウインターシーンでの印象を報告する。
-
第860回:ブリヂストンの設計基盤技術「エンライトン」を用いて進化 SUV向けタイヤ「アレンザLX200」を試す 2026.2.13 ブリヂストンのプレミアムSUV向けコンフォートタイヤ「アレンザLX100」の後継となるのが、2026年2月に発売された「アレンザLX200」。「エンライトン」と呼ばれる新たな設計基盤技術を用いて開発された最新タイヤの特徴を報告する。
-
第859回:トーヨーのSUV向け冬タイヤを北海道で試す! アナタのベストマッチはどれ?
2026.2.10 トーヨータイヤが擁するSUV向けの冬タイヤに、北海道で試乗! スタンダードなスタッドレスタイヤから「スノーフレークマーク」付きのオールテレインタイヤまで、個性豊かな4商品の実力に触れた。アナタのクルマにマッチする商品が、きっとある? -
第858回:レースの技術を市販車に! 日産が「オーラNISMO RSコンセプト」で見せた本気 2026.1.15 日産が「東京オートサロン2026」で発表した「オーラNISMO RSコンセプト」。このクルマはただのコンセプトカーではなく、実際のレースで得た技術を市販車にフィードバックするための“検証車”だった! 新しい挑戦に込めた気概を、NISMOの開発責任者が語る。
-
第857回:ドイツの自動車業界は大丈夫? エンジニア多田哲哉が、現地再訪で大いにショックを受けたこと 2026.1.14 かつてトヨタの技術者としてさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さん。現役時代の思い出が詰まったドイツに再び足を運んでみると、そこには予想もしなかった変化が……。自動車先進国の今をリポートする。
-
NEW
右も左もスライドドアばかり ヒンジドアの軽自動車ならではのメリットはあるのか?
2026.2.25デイリーコラム軽自動車の売れ筋が「ホンダN-BOX」のようなスーパーハイトワゴンであるのはご承知のとおりだが、かつての主流だった「スズキ・ワゴンR」のような車型に復権の余地はないか。ヒンジドアのメリットなど、(やや強引ながら)優れている点を探ってみた。 -
NEW
第950回:小林彰太郎氏の霊言アゲイン あの世から業界を憂う
2026.2.25マッキナ あらモーダ!かつて『SUPER CG』の編集者だった大矢アキオが、『CAR GRAPHIC』初代編集長である小林彰太郎との交霊に挑戦! 日本の自動車ジャーナリズムの草分けでもある天国の上司に、昨今の日本の、世界の自動車業界事情を報告する。 -
NEW
ルノー・グランカングー クルール(FF/7AT)【試乗記】
2026.2.25試乗記「ルノー・グランカングー」がついに日本上陸。長さ5m近くに達するロングボディーには3列目シートが追加され、7人乗車が可能に。さらに2・3列目のシートは1脚ずつ取り外しができるなど、極めて使いでのあるMPVだ。ドライブとシートアレンジをじっくり楽しんでみた。 -
NEW
第862回:北極圏の氷上コースでマクラーレンの走りを堪能 「Pure McLaren Arctic Experience」に参加して
2026.2.25エディターから一言マクラーレンがフィンランド北部で「Pure McLaren Arctic Experience」を開催。ほかでは得られない、北極圏のドライビングエクスペリエンスならではの特別な体験とは? 氷上の広大な特設コースで、スーパースポーツ「アルトゥーラ」の秘めた実力に触れた。 -
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】
2026.2.24試乗記ボルボの電気自動車「EX30クロスカントリー」に冬の新潟・妙高高原で試乗。アウトドアテイストが盛り込まれたエクステリアデザインとツインモーターからなる四輪駆動パワートレイン、そして引き上げられた車高が織りなす走りを報告する。 -
エンジニアが「車検・点検時に注意すべき」と思う点は?
2026.2.24あの多田哲哉のクルマQ&Aすっかりディーラー任せにしている車検・点検について、ユーザーが自ら意識し、注視しておくべきチェックポイントはあるだろうか? 長年トヨタで車両開発を取りまとめてきた多田哲哉さんに意見を聞いた。



















