2025年までに18のニューモデルを発表予定のマクラーレン
年間生産台数は75%増の6000台を見込む
2018.10.01
デイリーコラム
東京に世界初となる同一地域2店舗目のショールーム
英マクラーレン・オートモーティブは、2018年9月15日に日本国内で5拠点目となる正規代理店「マクラーレン麻布」を東京・港区にオープンした。このマクラーレン麻布を運営するのは、「ランボルギーニ」や「アストンマーティン」「ベントレー」「マセラティ」といった世界のラグジュアリースポーツカーのディーラーとして近年、積極的なネットワーク展開を行っている「スカイグループ」だ。同社にとっては実に11ブランド目の取り扱いとなる。
マクラーレン麻布の所在地やディーラーの模様は、オープン時のリポートに明るいので割愛するが、興味深いのは同じ東京・港区には、すでに「マクラーレン東京」があるということだ。
マクラーレン東京は「ポルシェ」や「ランドローバー」「レクサス」などの正規ディーラーを展開する国際グループの運営で、日本初の正規ディーラーとして「マクラーレン大阪」とともに2012年にオープン。今のマクラーレン人気をけん引した立役者ともいえる。なにせ2017年に「マクラーレン名古屋」が開設されるまで、日本の正規ディーラーはこのマクラーレン東京とマクラーレン大阪の2拠点しかなかったのだ。参考までに、マクラーレン大阪と名古屋は、ともに関西を拠点とする輸入車販売に長年の実績を持つ「八光カーグループ」が運営する。
後に福岡でも正規ディーラーが誕生し、日本でのマクラーレン販売ネットワークはステップ・バイ・ステップで拡充されていったが、5店舗目の場所がすでに商圏が確立している(と個人的には思っていた)東京であり、しかも先行店舗とは目と鼻の先ともいえそうな通常ルートで行っても3kmと離れていない距離にできたのは、実に意外であったのだ。
けれど、ことスーパーカー系に関して言えば、東京には近接する地域の同一ブランド販売拠点がいくつかある。フェラーリは芝と六本木に(共に港区)、ランボルギーニは麻布と青山に(こちらも共に港区)、そして件(くだん)のマクラーレンである。過去で言えば、アストンマーティンも飯倉と赤坂(ともに港区)にディーラーがあったのだが、これは老舗ディーラーの営業終了によって(あるいは新しい拠点に一本化したかったために?)、スカイグループが運営する「アストンマーティン東京」に移行している。
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すべては「Track25」の実現のため?
しばしばこうした近接地でディーラー拡充が行われるスーパーカーの世界、今回麻布に新ショールームができた理由を発表会当日、「マクラーレンオートモーティブアジア」のアジアパシフィックマーケティングダイレクター、ジョージ・ビックス氏に伺った。
「マクラーレンオートモーティブの販売量において、日本はアメリカ、イギリスに続く第3位に位置しています。ただしこの3位の地位は絶対的なものではなく、日本、ドイツ、中国がそのポジションを僅差で争っているような状況にあります。販売の規模感は、アメリカで年間約1000台、イギリスは約400台、3位グループは200台前後という台数になります。日本国内を見ると販売台数の約半数を首都圏が占めていますので、私たちはその首都圏を強化することでさらに飛躍ができると考えています」
同一地域に2店舗の正規販売店を持つのは、実は東京が世界で初めてであり、これは2018年6月にマクラーレンオートモーティブが発表した「Track25」の一環でもあるのだという。
Track25は、マクラーレンが表明した中期計画の要綱だ。2025年までに18のニューモデルを導入し、現在31の国と地域に展開する86カ所のディーラーを、同年までに100拠点に増やすという。具体的には、「スポーツカーシリーズ」と「スーパーカーシリーズ」のモデルすべてをハイブリッド化し、さらに「マクラーレンP1」の実質的後継モデルとなる旗艦「アルティメットシリーズ」のニューモデル発表などによって、年間生産台数を一気に75%増しの6000台にまで引き上げる……というのが、その主な内容となる。
「小規模なわれわれにとって非常に野心的なプラン」(ジョージ・ビックス氏)というTrack25は、どこか“1年ごとに1台のニューモデルを出し、2021年に年間生産台数を1万台に引き上げる”としたアストンマーティンの「セカンドセンチュリープラン」に対抗するかのようにも見え、同時にフェラーリ(2018年は目標販売台数9000台)やランボルギーニ(2018年は目標販売台数7000台)が発表した生産台数計画をも意識しているはずだ。
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いかにして老舗との差別化を図るか
スーパーカーと呼ばれるモデルの市場規模が拡大傾向にあるとはいえ、数千万円のクルマを購入できるユーザーが(たとえ全世界規模であったとしても)、3年後、2倍にも3倍にもなっているとはにわかに想像できない。しかし、庶民には縁遠い話だが、富裕層といわれる「既存のスーパーカーユーザーの乗り換え(車両のみならずブランド変更も意味する)や、コレクションとしての2台目や3台目としての需要もある」(ジョージ・ビックス氏)、と彼らは考えているようだ。
そうなると、いかに他のブランドと差別化を図り、ユーザーに振り向いてもらえるかがカギとなる。シンプルに言えば、今後登場する18台には他のブランドからユーザーを奪うほどの魅力が必要だということだ。
マクラーレンはサーキットを源流とする高いパフォーマンスを持つ市販モデルの開発(=製品)とともに、ユーザーエクスペリエンスを重視(=体験を提供)している。今後もドライビングスキルアップのイベント(ドラトレ)や、サーキットイベントを世界規模で積極的に行っていくという。直近で言えば、日本では10月に富士スピードウェイで顧客を対象とした走行イベントを行う予定もある。
「われわれのブランドは新しく、(今のところ規模から言えば)ニッチマーケット向けですが、マクラーレンの個性やユニークな存在を今以上に知ってもらいたいと思っています。そして同時にマクラーレンのクルマが、楽しく運転できることも知ってほしいのです。たとえスーパーカーの経験が少なくとも、ユーザーエクスペリエンスなどでわれわれがサポートできることは数多くあります」(ジョージ・ビックス氏)
冒頭で紹介したマクラーレン麻布は、最新のCIで設計されている。「ウオーキングウィンドウ」という、英ウオーキングにある生産工場と直結した大型モニターを設置し、生産ラインの様子(残念ながらリアルタイムではない)が、ショールーム内で見られるようになっている。熟練した職人が手作りし、細部にまでこだわりをもって作っていることがこのモニターを通じても分かってもらえると思う。
「マクラーレンにかかわるすべての人間は、クルマとクルマを運転することにパッションを持っています。この情熱を(マクラーレンの製品を通じて)ほかの方にも分けたいと思っています」(ジョージ・ビックス氏)
フェラーリ、ランボルギーニ、アストンマーティンに続く第4のスーパーカーブランドとして、どのようなモデルでファンの心をつかみ、どんな戦略をもって訴求していくのか。イギリスの古くて新しいこのブランドの動きが、近い将来スーパーカー界で台風の目になるかもしれない。
(文=櫻井健一/写真=マクラーレン・オートモーティブ、webCG)

櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。