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往年の名車「スズキ・カタナ」が復活
その歴史を振り返り、新型の姿を想像する

2018.11.12 デイリーコラム 伊丹 孝裕

80年代の幕開けを告げたビッグネーム

2018年10月、ドイツ・ケルンにてヨーロッパ最大級のモーターサイクルショーのひとつ「インターモト」が開催された。2019年を見据えたニューモデルが顔をそろえる中、注目度で他を圧倒していたのがスズキのブースである。なぜなら、あの「カタナ」が復活を果たしたからだ。

オリジナルのカタナは、正式名称を「GSX1100Sカタナ」という。1980年のケルンショー(インターモトの前身)でプロトタイプが発表され、翌81年の秋に生産が始まった当時のフラッグシップだ。この時以来、「KATANA」という言葉の響き、そして「刀」という漢字は、世界中のライダーに通じる数少ない日本語として浸透。パフォーマンスよりも独創的なデザインが評価されたという意味でも、極めて稀有(けう)な日本車になった。

世界を席巻した国産モデルのうち、60年代の代表が「ホンダCB750Four」、70年代のそれが「カワサキ900 Super Four(Z1)」だとすると、80年代の幕開けを告げたビッグネームのひとつがカタナだ。その名が再び送り出されることになったのだから世の中がザワつくのは当然であり、開発陣は想像を絶するプレッシャーにさらされていたに違いない。

そんな新型カタナに関しては後述するとして、まずはオリジナルの時代を振り返っておこう。

「インターモト」の会場にて、スズキのブースに展示された「KATANA(カタナ)」。
「インターモト」の会場にて、スズキのブースに展示された「KATANA(カタナ)」。拡大
1981年式「スズキGSX1100Sカタナ」。長らく海外でのみ販売され(逆輸入車は除く)、日本での正規販売は1994年まで待たなければならなかった。
1981年式「スズキGSX1100Sカタナ」。長らく海外でのみ販売され(逆輸入車は除く)、日本での正規販売は1994年まで待たなければならなかった。拡大
1982年式「GSX750S」。「カタナ」がデビューしたころの日本では、まだメーカーによる750ccの自主規制があったため、750ccのエンジンを搭載した同車が販売された。刺激が強いという理由から車名に「カタナ」はつかず、「刀」のロゴステッカーは付属品扱いだった。
1982年式「GSX750S」。「カタナ」がデビューしたころの日本では、まだメーカーによる750ccの自主規制があったため、750ccのエンジンを搭載した同車が販売された。刺激が強いという理由から車名に「カタナ」はつかず、「刀」のロゴステッカーは付属品扱いだった。拡大
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賛否両論を巻き起こした斬新なデザイン

誕生のきっかけは、ドイツの二輪誌『モトラッド』の企画だった。1979年に未来のバイクをテーマにしたデザインコンペを開催し、そこにイタルデザインやポルシェデザインといった名だたる会社が参加。その中でも高く評価されたのが、ターゲットデザインの手になる「レッドラプター」だった。

これはMVアグスタのバイクをベースにした作品だったが、その造形に可能性を見いだしたスズキは次期フラッグシップのデザインを依頼。その成果が「ケルンの衝撃」として語り継がれるカタナの原型になったのである。

当時はネイキッドという言葉がないほど、むき出しのヘッドライトが当たり前だった時代だ。BMWの一部にはカウルが採用されていたものの、ターゲットデザインを率いるハンス・ムートはそれらとも異なる、新しいスタイルを模索していた。そして完成したのがアッパーカウルから燃料タンク、そしてサイドカバーへと流れるようにつながる、それまで誰も見たことがないカタナのボディーラインだった。

その名の通り、抜き身の刀を思わせるシャープなシルエットはあまりの斬新さゆえ、「美しい」と感嘆する声と「醜い」と嫌悪する声の両方にさらされたが、スズキは量産を決断。その成否は、実に20年にも及んだモデルライフが物語っている。

ハンス・ムートは「カタナ」の他にも、斬新なデザインのバイクを多数手がけていた。写真は1986年にデビューした「GSX400X」。
ハンス・ムートは「カタナ」の他にも、斬新なデザインのバイクを多数手がけていた。写真は1986年にデビューした「GSX400X」。拡大
「カタナ」シリーズの中でも“変り種”の1984年式「GSX750S」。リトラクタブルヘッドランプをはじめ、ハンス・ムートのデザインからやや距離を置いたモデルとなったが、市場からは好意的に受け入れられなかった。
「カタナ」シリーズの中でも“変り種”の1984年式「GSX750S」。リトラクタブルヘッドランプをはじめ、ハンス・ムートのデザインからやや距離を置いたモデルとなったが、市場からは好意的に受け入れられなかった。拡大
スズキのブースに展示された、1984年式「GSX750S」。
スズキのブースに展示された、1984年式「GSX750S」。拡大

誕生の経緯に見る“オリジナル”との類似性

発売当初、カタナはフラッグシップにふさわしい111psのパワーと237km/hのトップスピードによって世界最速の座も手に入れた。ただしそれもつかの間、程なく水冷エンジンが主流になると空冷のカタナは劣勢を強いられ、19インチのフロントタイヤも前時代的なものになった。そもそもカタナは「GSX1100E」(1980年)をベースとする一種の派生モデルだ。ターゲットデザインの外装に交換したメーカーカスタムと言ってもよく、引いた目で見れば機能的にはそれほど抜きんでた存在ではなかった。

にもかかわらず、「ファイナルエディション」が生産された2000年までファンを魅了し続けたのは、やはりそのデザインが唯一無二だったからに他ならない。ヒット作が出れば、遅かれ早かれフォロワーを生み出すものだが、カタナに関してはあまりに突出していたせいで他メーカーの追随を許さず、なによりスズキ自身がそこに大きな手を加えることをためらった。

1980年の時点でほぼ完成の域に達していたカタナという世界観。それを再構築し、あらためて世に問うには38年、ファイナルエディションから数えても18年という年月が必要だったということだろう。

……というわけで、ようやく新型カタナの話だが、単に名前が復活しただけにとどまらず、実は出自も“オリジナル”に通じる部分がある。きっかけは2017年のインターモトでのことだ。イタリアの雑誌『モトチクリスモ』が、新時代のカタナをデザイナーのロドルフォ・フラスコーニに依頼。その制作をエンジンズ・エンジン社が請け負い、「カタナ3.0コンセプト」という名で出展したことに端を発する。当初は誌面の一企画にすぎなかったものの、そこで得られた大きな反響がスズキを動かし、急きょ市販化へ向けて舵が切られることになったのだ。

「カタナ」シリーズには上級モデルのイメージを取り入れた小・中排気量モデルも存在した。写真は1991年デビューの「GSX250Sカタナ」。
「カタナ」シリーズには上級モデルのイメージを取り入れた小・中排気量モデルも存在した。写真は1991年デビューの「GSX250Sカタナ」。拡大
1992年に登場した「GSX400Sカタナ」。
1992年に登場した「GSX400Sカタナ」。拡大
2000年式「GSX1100Sカタナ」。同年を最後に、“オリジナル”の「カタナ」は生産終了となった。
2000年式「GSX1100Sカタナ」。同年を最後に、“オリジナル”の「カタナ」は生産終了となった。拡大

発表済みの情報から“走り”を想像する

白紙スタートではなく、ベースモデルがある点もオリジナルと共通する。スポーツネイキッドの「GSX-S1000」がそれだ。エンジンやフレーム、スイングアームなど、多くのコンポーネンツを流用しながらも、外観の要になるカウル、燃料タンクカバー、シートフレーム、シートカウルを刷新。パーツの一つひとつに近似性はないものの、そこに浮かぶのは紛れもなくカタナのシルエットだ。

公開されるや否や、賛否両論巻き起こったことも1980年当時に似ている。とはいえ、オリジナルが歩んだ道を思えばこれも悪い兆候ではない。主張の強さが熱烈なファンを生むことをスズキはよく知っているのだ。

他方で、パフォーマンスについては現段階では推測の域を出ない。ただ、発表されているスペックとディメンションを見る限り、ライディングポジションはベースモデルのGSX-S1000よりも安楽で、それでいて俊敏な運動性が与えられていそうだ。加速力とトップスピードによって空気を切り裂いたオリジナルに対し、新型は軽やかなハンドリングで切れ味を表現。車体をリーンさせる時、鋭いエッジの燃料タンクをコーナーへ向かって一気に振り下ろす。そんなイメージが見て取れる。

「ホンダCB1000R」「ヤマハXSR900」「カワサキZ900RS」、そしてスズキ・カタナと、これで国産4メーカーのスポーツネオクラシックが出そろうことになる。これだけ話題になれば若い世代のライダーも注目するだろうし、アフターパーツメーカーも盛り上がるに違いない。正式なリリースは2019年春、まずはヨーロッパからである。

(文=伊丹孝裕/写真=スズキ/編集=堀田剛資)

新型「カタナ」のベースとなる「GSX-S1000」。スーパースポーツ「GSX-R1000」ゆずりのエンジンを搭載した、高性能ネイキッドである。
新型「カタナ」のベースとなる「GSX-S1000」。スーパースポーツ「GSX-R1000」ゆずりのエンジンを搭載した、高性能ネイキッドである。拡大
2018年の「インターモト」で発表された「KATANA(カタナ)」。ボディーサイズは全長×全幅×全高=2125×830×1110mm、ホイールベースは1460mm。装備重量は215kgで、最高出力150psの1リッター4気筒エンジンを搭載している。
2018年の「インターモト」で発表された「KATANA(カタナ)」。ボディーサイズは全長×全幅×全高=2125×830×1110mm、ホイールベースは1460mm。装備重量は215kgで、最高出力150psの1リッター4気筒エンジンを搭載している。拡大
 
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伊丹 孝裕

伊丹 孝裕

モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。

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