「モデル3」は買いか否か?
日本市場のテスラについて聞く
2018.11.16
デイリーコラム
今後については心配ご無用
いままでで最もコンパクトかつリーズナブルなテスラ車として注目される「モデル3」。その実車が日本国内で披露され、2019年内に販売がスタートすることも告げられた。
とはいえ、モデル3の生産は当初の計画よりも遅れており、経済界ではテスラ社そのものの将来性についても疑問の声があがっている。モデル3、果たして買いなのか、それとも……。
この点について、テスラジャパンのカントリーセールスディレクターを務める吉田篤司さんは「まったく心配にはおよびません」と答える。
「経済界で言われていることについては、事実は事実なのだから仕方ありません。でも本当にまずいと思ったら、(少なからず経営的な事情を知っている)私もいまここで働いてはいませんよ(笑)」
いわく、モデル3が出るまでは、“ノリ”で事業を進めるというスタートアップ特有の不安定な面があったかもしれないが、モデル3をローンチする時点ではコストやクオリティーのガバナンス(健全な統治システム)が効き、会社組織としてもしっかりしてきたという。
「テスラは驚くほどの研究開発費を投じています。キャッシュフローの点であれこれ言われながらも決して妥協しないというのは、将来的な競争力が期待できるところだと思います」
とはいえ、買う側からすれば不安は不安だ。すでに注文したユーザーに対して、例えばキャンセルの引き止めを意図した弁明などはされているのだろうか? 聞けば、経済誌と株式市場には販売に関する説明をしているものの、ユーザーに対しては、謝罪メッセージを含む特別なケアはしていないとのこと。実際、キャンセルなどの悪影響はあまり出ていないのだという。
“電動”以外を見てほしい
なるほど、“小さいテスラ”たるモデル3に寄せられる期待はなかなかのものらしい。既存の「モデルS」(全長×全幅=4979×1950mm)や「モデルX」(同5037×2070mm)は日本で乗るには大きく、それを理由に購入を断念するユーザーも確かにいるそうだ。同4694×1849mmというブランド最小のボディーサイズは大きなセリングポイントなのだ。
500万~700万円台(に40万円の補助金が適用される)と予想されるプライスも見逃せない。価格帯で見た場合、日本におけるモデル3のマーケットはモデルSやモデルXの5倍~10倍ほどと見られており、将来的な販売台数はテスラ車全体の7~8割を占めると予想される。
しかし、果たして、そう順調に売れるのか? なにせ日本には、ピュアEVの代名詞たる「日産リーフ」がいる。吉田さん、リーフを運転されたことは……?
「あります。そして、とてもすばらしいプロダクトだと思っています。ただ……フルラインメーカーが“電動専門のクルマ”として作ったからでしょうか、BMWの『i3』もそうなのですが、どこか『そもそもEVは妥協して作るもの、特殊なものだ』という姿勢がプロダクトから感じられるんです」
その点モデル3は、動力がエンジンかモーターかという違いこそあるものの、いい意味で“普通のクルマ”だとアピールする。逆に言えば、それだけ「EVに対する特殊なイメージ」が購入をとどまらせているということなのだろうが。
「EVであることよりもむしろ、トータルパッケージで見たときの、ドライバーとのインターフェイスや自動運転技術、そして衝突安全性がどれだけ優れているかに注目いただきたいのです。テスラの場合、事故率そのものが他メーカーのクルマの7分の1程度に抑えられるという統計データもあります。モーターで走るという以外のところが、飛び抜けて優れているんです」
欧州のメーカーだって続々とEV戦略を発表している。テスラも今後、そうとう苦戦を強いられることになりはしないか。
「欧州の新型EVを迎え撃てるだけの商品力がテスラにはあると思います。それにシェアの問題で言えば、欧州メーカーの新規投入EVがまるまるテスラのシェアを奪うとは限らない。彼らの取り扱い車種の割合において(総販売台数は変わらないまま)EVが多くなるだけかもしれない。社会全体としてEV化の流れがあるというのは、テスラとしては非常に歓迎すべきことです」
テスラはさらなる躍進を見せるのか。やがて日本の道を走るモデル3の仕上がりはどうか。まだ目が離せそうにない。
(文と写真=関 顕也)

関 顕也
webCG編集。1973年生まれ。2005年の東京モーターショー開催のときにwebCG編集部入り。車歴は「ホンダ・ビート」「ランチア・デルタHFインテグラーレ」「トライアンフ・ボンネビル」などで、子どもができてからは理想のファミリーカーを求めて迷走中。