テスラ・モデル3パフォーマンス(4WD)
シンプルなのにワンダフル 2019.11.22 試乗記 EV専業メーカーのテスラが開発した、新たな4ドアセダン「モデル3」。ほかのテスラ車に比べて手の届きやすい価格設定だが、その走りや使い勝手はどうか? パワーとスタミナが自慢の最上級グレードで確かめた。部長の椅子ってこんな感じ?
「まるで、いまどきの会社のオフィスのようだな」
話題のアフォーダブルテスラ、モデル3。その車内に腰を下ろして、最初に筆者が抱いた印象だ。自分はフリーランスだけれど、もし勤め先の会社にこのクルマで行くとしたら、「これからオフィスへ向かうのに“オフィスのようなクルマ”でというのはどうなのかしら?」と、少し不思議な気持ちになった。そのくらいモデル3のインテリアは“すっからかん”である。
水平基調のインパネは上部がブラックで、ダッシュボード中央のパネルが木目のシルバートリム。非常にクリーンな印象だが、あまりに簡素で事務机的ともいえる。オフィスライクな雰囲気を最も強く印象づけるのは、中央にドーンと鎮座する15インチのモニターだ。これも朝からいきなり仕事感を演出してくれる。ここにスタバのコーヒーでもあれば、会社に着く前から仕事スイッチが入るかもしれない。
ちなみにテスラ車は、このモニターを介してほとんどの操作をこなすため、インパネにはスイッチ類がほとんどない。あるのはステアリングコラム右のシフトレバー(アダプティブクルーズコントロール連動)と左のウインカーレバー、ステアリングホイールのスポーク部に付いた、2つのダイヤルくらいだ。だから一見すると最廉価版グレードに乗っているような気分になるのだが、今回試乗するのは最もハイパワーな「パフォーマンス」なのであった。
そんなシンプルさはモデル3最大の特徴だと思うが、シートはとても座り心地がよかった。体が触れるクッション部分はふっかりとしていて、サイドサポートのおかげでホールド性もきちんとある。このラグジュアリーさ強めのスポーツ感は独特で、まるで「部長の椅子」に座っているかのような気分になる。あ、やっぱりこのクルマは“オフィス”なんだな。
慣れるほどに面白い
試乗車の走行性能を紹介すると、動力系は前後に2つのモーターを配置する4WD。テスラは全モデルにおいてそのシステム出力を明示していないが、0-100km/h加速はなんと3.4秒! と、もはやガソリンターボのDセグ高性能セダンを上回るスペックを得ている。
しかし普段の走りには、この力を誇示するようなイケイケ感はまったくない。内外装のシンプルさと同じで、その身のこなしまでもが至ってクールなのは、ちょっとすてきだった。サスペンションは上級セダンの「モデルS」とは違い、エアサスではなくオーソドックスなスプリング&ダンパーの組み合わせだが、20インチのスポーツタイヤを履く割に乗り心地はフラット。そしてステアリングを切れば、思った以上にすなおにクルマが曲がる。
その理由は、ピュアEV定番のアーキテクチャーによるもの。フロントにエンジンを積まないノーズの軽さや、バッテリーを床下に敷き詰める重心の低さが生み出す身のこなしだ。例えば「日産リーフ」はFFの従来型ガソリン車から乗り換えても違和感が出ないように、あえてそのハンドリングレスポンスをスローに取っているけれど、テスラ・モデル3は、このクルマならではの特性をまったく消そうとしていない。
だから最初は「曲がり過ぎる」と戸惑うほどだけれど、体がこの動きに慣れてくると自由自在になる感覚がグッと高まっていく。ハンドルを切ればすなおに曲がり、アクセルペダルを踏めばリニアにモーターパワーが立ち上がる。街中ではコンフォートモードを選んでおけば初期トルクは適度に絞られて、アクセルを不意に踏みこんでものけぞるようなこともない。慣れるほどに運転が面白くなり、クルマのキャラクターや特性を理解するほどに愛着のようなものが湧いてくるのはちょっと意外だった。
つくり慣れてる感じがする
モデル3に好感を持つようになったのには、その走りだけでなくルックスも大きく関係している。正面から見るとちょっと怒り顔のようだが、見つめているうちに、カワウソのような愛嬌(あいきょう)がある表情がかわいらしく思えてくる。低く構えたノーズとは対照的にキャビンがぴょこんと盛り上がり、“チョロQ感”が強調されている。モデルSのような威圧感がないだけに、モデル3は身近に感じられるのである。
それでいてまともに走らせると、その走りは本格スポーツカー並みの運動性能を発揮するから面食らう。スポーツモードでそのパワーを解き放つ。怒濤(どとう)の加速でうなりを上げるのは、モーターの作動音やインバーターの高周波ノイズだ。ブレーキのタッチは回生ブレーキの影響でややダイレクト感に乏しいが、減速はきちんとできる。こうしたフィーリングは、あと10年もすれば普通になっていくのだろうか?
減速を終えてステアリングを切っていくと、重量配分のよさが感じ取れる。カーブでは4つのタイヤに荷重が掛かり、これが路面をしっかり捉えてから、コーナリングスピードが高くても安心感がある。旋回を終えて加速体勢に移ると、タイムラグなしに前後方向へとGが変換される。この一連の動きにまったく段付き感がないのは、極めて理想的というほかない。これで車両重量が軽ければ、まさに言うことナシである。この動きは何かに似ている。なんだろう? としばし考えて浮かんだのは、ラジコンだった。
一方で、テスラといえば運転支援も気になるところ。何より、どんなクルマよりもアダプティブクルーズコントロール(ACC)が素早く行えるのは“らしさ”のひとつだと思った。操作はカンタン、シフトレバーを2回下にクリックするだけでアクティベート。そのあまりのイージーさに戸惑いながらも、やはり便利だと感心する。車間距離や車速の調整は、ステアリングホイールのローラーダイヤルで行う。BMWや日産に先を越されたのは意外だが、「ハンズオフ」機能はなし。
周囲の車両をアニメで示す(たまに軽トラを大型トラックと間違う)モニターアニメーションはかわいかったが、360度監視するカメラや160m前方を捉えるレーダー、超音波センサーによるモニタリングの精度は高く、今回、直線主体で緩いカーブが続く東名高速では、リラックスしながらコーヒーを飲みつつ運転する「優雅な朝の時間」を楽しむことができた。先進性に慢心さえしなければ、ACCはやはり便利で大いに魅力的だと実感する。
スタミナと操作には要注意
いい気分で走っていると、バッテリーは結構減っていた。東京を出発するときにモニターに表示されていた航続可能距離は、ほぼ満充電状態で468km。そして243.6km走った残りの航続可能距離は、なんとたったの80kmだった。合わせて323.6kmというのは、もとの468kmの7割にも満たない。箱根のワインディングを“たったの1往復”したことや、エアコンを効かせながらちょこまかと街中を散策したとはいえ、これはちょっと少ない気がする。
ともかく出発点の東京まで安心して帰ることを考えるとやはり充電は必要だということで、神奈川の大磯プリンスホテルに立ち寄り、急速充電を小一時間ほどして帰路につくことにした。ちなみにこの時点での消費電力は54kWhで、電費は22.1kWh/100km(約4.5km/kWh)だった。
スイッチ類の多くをタッチパネル内に集約し、モニター以外に何にもないインテリアをつくったのはひとつのインパクトだ。しかし空調や各種のモード切り替え、サイドミラーの調節といった、運転中に微調整をしたくなる部分までもタッチパネル化したことによる操作性の悪さまで「先進性」という言葉で評価することはできない。ここは先進性よりもむしろ、つくり手のコスト削減の意図が強く感じられるところであり、早期に改善してほしいと思う。
しかしながら、こうしたシンプルさはピュアEVが持つクルマとしての素性のよさとリンクしていて、モデル3の魅力となっていることも事実。かわいくないのはその717万円という価格だけだと思う。
そういう意味では、バッテリー容量が少なくなってしまうのは残念だけれど、1モーター+リアドライブのベーシックモデル「スタンダードレンジ プラス」(511万円)の方が、モデル3本来のキャラクターに忠実なのではないかと思う。
(文=山田弘樹/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
テスラ・モデル3パフォーマンス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4694×1849×1443mm
ホイールベース:2875mm
車重:1847kg
駆動方式:4WD
モーター:--
フロントモーター最高出力:--PS(--kW)
フロントモーター最大トルク:--kgf・m(--N・m)
リアモーター最高出力:--PS(--kW)
リアモーター最大トルク:--kgf・m(--N・m)
タイヤ:(前)235/35ZR20 92Y/(後)235/35ZR20 92Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
一充電最大走行可能距離:530km(WLTPモード)
交流電力量消費率:--Wh/km
価格:717万3000円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:1415km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:243.6km
消費電力量:54kWh
参考電力消費率:22.1kWh/100km(約4.5km/kWh)(車載電費計計測値)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
-
フィアット500トリノ ハイブリッド(FF/6MT)【試乗記】 2026.10.13 電気自動車からエンジン搭載車へと華麗に変身! 日本では珍しい、4代目「フィアット500」のマイルドハイブリッドモデルに試乗。1リッターの自然吸気エンジンを6段MTで駆るイタリアンコンパクトは、今のクルマが忘れてしまった楽しさに満ちていた。
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.10.12 ボルボの電気自動車(BEV)「ES90」のトップモデル「ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」を駆り、東京から初秋の新潟へ。往復700kmを超えるロングドライブで分かった新型5ドアハッチバックモデルの実力と、BEVで気になる充電環境のリアルな今を報告する。
-
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.10.8 フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。
-
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】 2026.10.7 新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。
-
スバル・レヴォーグ レイバック プレミアムS:HEV EX(4WD/CVT)【試乗記】 2026.10.6 「スバル・レヴォーグ レイバック」にストロングハイブリッド搭載モデルが登場。高効率なパワーユニットが積まれたのはもちろんのこと、既存の純エンジン車とはデザインやボディーサイズも違っているというから興味深い。上位グレードの「プレミアムS:HEV EX」を試す。
-
NEW
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
NEW
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。 -
NEW
スズキの未来を徹底検証! 技術戦略説明会から“10年先のスズキの姿”を夢想する
2026.10.16デイリーコラム年間生産500万台で、Dセグメントまでカバーする巨大メーカーに!? スズキが発表した「10年先を見据えた技術戦略2026」を徹底検証。技術開発に製品開発、インドを核としたグローバル戦略などの中身を通して、「10年先のスズキの姿」を予想した。 -
賢い選択 ――キャデラック「LYRIQ」フラットプランのすゝめ――
2026.10.15投資家も太鼓判! 「キャデラック・リリック」×フラットプランという最適解<AD>クルマが変わり、時代も変われば“持ち方”だって変化する? お金のプロである投資家が、「キャデラック・リリック」の残価保証型リースを勧める理由とは? 夢の「2台持ち」をかなえる、最新電気自動車の賢い選び方を考えた。 -
間もなく正式発表 ミツオカの新型2シータースポーツカー「LA1」を予測する
2026.10.15デイリーコラム光岡自動車が2026年11月26日に正式発表を予定しているアメリカンスタイルの新型2シータースポーツカー「LA1」。現在公開されているLA1の画像とティーザーサイトに掲載された情報から、その特徴を分析する。 -
「BYDラッコ」「スズキeスカイ」登場で卍どもえに 軽乗用BEVの覇権はどこが握る?
2026.10.14デイリーコラムこれまで「日産サクラ/三菱eKクロスEV」と「ホンダN-ONE e:」のみだったところに「BYDラッコ」と「スズキeスカイ」が加わり、軽BEV市場がにわかに盛り上がりを見せている。どれもほぼ同じ床面積を持つBEVだが、比べてみるとその中身は結構違う。今後の覇権を握るのはどの陣営か。























































