【F1 2018 続報】最終戦アブダビGP「それぞれのフィナーレ」
2018.11.26 自動車ニュース![]() |
2018年11月25日、アブダビのヤス・マリーナ・サーキットで行われたF1世界選手権第21戦アブダビGP。3月に開幕した長いシーズンの最終戦は、それぞれにとっての特別なレースとなった。
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行く人、来る人
史上最多タイの21戦で争われた2018年のF1もいよいよ最終戦。3月のオーストラリアGPから始まった長いシーズンの最後は、それぞれが行き着いた“ファイナル”でもあった。
まずは、このレースを最後にF1を去るフェルナンド・アロンソ。今後の復帰に含みを残した“事実上の引退”となるが、一時代を築いた大物GPドライバーの勇姿もこれで見納めになるかもしれないと思えば、誰しも感慨を覚えることだろう。2000年代初頭のミハエル・シューマッハー&フェラーリ黄金時代の幕引き役として、ルノーで2005年から2年連続でタイトルを獲得。その後はさまざまな巡り合わせの悪さでチャンピオンにはなれなかったが、マクラーレン(2007年)、フェラーリ(2010~2014年)ではあと少しで栄冠奪還というところまでいき、キャリア通算勝利数は歴代6位の32勝を記録するまでになった。2001年にミナルディ(現トロロッソ)でデビューした頃の幼さ残る19歳の若者は、17年の時を経て、元王者の風格を備えたグレートドライバーに。ルーベンス・バリケロの最多322戦に次ぐGP参戦311戦目に、ともに復活を誓いながら夢を果たせなかったマクラーレンは、アロンソ仕様の特別なカラーリングを施したマシンを走らせ、エースドライバーの有終の美を飾らんとしていた。
来季チームを変わるドライバーにとっても最終戦は特別なレース。2014年から在籍してきたレッドブルを離れ、2019年にルノーへと移籍するダニエル・リカルドもそんなドライバーのひとりだった。レイトブレーキングで鋭いオーバーテイクを仕掛ける持ち前のアグレッシブかつシュアなドライビングで、レッドブルとともに7勝を勝ち取ってきたリカルド。今季は悲願のモナコ初優勝を成し遂げるも、トラブルによりリタイア8回とフラストレーションのたまる一年を過ごしてきた。レッドブル最後のレースはこのチームでの100戦目、キャリア150戦目という節目にも重なった。シーズン終盤に僚友マックス・フェルスタッペンも勝ち星を挙げているだけに、アブダビでもあの“シューイ”が見られる可能性は十分にあり得た。
キミ・ライコネンもフェラーリでの最後のGPを迎えた。2014年のスクーデリア復帰からなかなか好成績を残せずにいたが、今年は過去5シーズンで一番の出来栄えを見せ、20戦して表彰台12回、アメリカGPでは5年ぶりの勝利を記録した。今年ザウバーでデビューした新生シャルル・ルクレールと入れ替わるように、来年古巣へと移籍する現役最年長ドライバー。2007年にタイトルを取ったフェラーリに、最後にして最善の置き土産を残したかった。
そのほか、来年はフォーミュラEに転向するマクラーレンのストフェル・バンドールン、同じく米インディカーに挑戦するザウバーのマーカス・エリクソンらF1を後にするドライバーに、この週末になって、ウィリアムズのセルゲイ・シロトキンが仲間入りすることが明らかになった。今年デビューしたシロトキンは、同チームのリザーブドライバーだったロバート・クビサに追い出されるかっこうでシートを失うことに。2006年から2010年までF1を戦い1勝を記録していたクビサは、2011年のラリー中の大事故でGPキャリアを絶たれたかに思われたが、奇跡的なカムバックを果たすことになった。
今年で10回目となるアブダビGPで、それぞれのフィナーレが訪れようとしていた。
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ハミルトンが11回目のポール、メルセデスは記録更新
アブダビGPの舞台であるヤス・マリーナは、これまで「メルセデスの庭」として知られ、過去4年連続してフロントロー独占&1-2フィニッシュと、シルバーアローが圧倒的な戦績を誇ってきた。逆にフェラーリはこれまでの9年で勝利もポールもなく、リードラップすら11周だけと、ここはいわば「鬼門」だった。
実際、金曜日からセッションが始まると、後半戦で調子を上げてきているレッドブル、そしてメルセデスが前を取り、フェラーリは3強の3番目に。翌土曜日になると赤いマシンが上位に顔を出し始めたが、予選になると、やはり銀の底力が発揮されることとなった。
トップ10グリッドを決めるQ3、最初のアタックで自らがたたき出した最速タイムをさらに0.5秒縮めてポールポジションを獲得したのはハミルトン。今シーズン11回目、通算83回目の予選P1だ。バルテリ・ボッタスが2位に入ったことで、メルセデスは今季7回目のフロントロー独占に成功。今までどのコンストラクターもなし得なかった、同一サーキットでの5年連続最前列独占という記録が誕生した。
フェラーリはセバスチャン・ベッテル予選3位、ライコネン4位と2列目。レッドブルはリカルド5位、フェルスタッペン6位と3列目に並んだ。フェラーリ製パワーユニットを搭載するマシンが4列目につけ、ハースのロメ・グロジャン7位、ザウバーのルクレール8位。レーシングポイント・フォースインディアのエステバン・オコン9位、ルノーのニコ・ヒュルケンベルグは10位で予選を終え、アロンソは15位からスタートすることとなった。
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リカルド、暫定首位を走行
アブダビにピレリが用意したタイヤは、硬い方からスーパーソフト、ウルトラソフト、そしてハイパーソフト。トップ10グリッドでは、上位5台はウルトラソフト、6番グリッドのフェルスタッペンより後ろは、速いがライフが短いハイパーソフトを履いて、55周のトワイライトレースに旅立っていった。
スタート後、1位ハミルトン、2位ボッタス、3位ベッテル、4位ライコネン、5位ルクレール、6位リカルドの順でターン1へ進入。フェルスタッペンは、パワーユニットがセーフモードに入るトラブルで一気に9位まで後退した。オープニングラップ中、ヒュルケンベルグのルノーとグロジャンのハースが接触、アウト側にいたヒュルケンベルグがはじき出され横転する事故が発生し、早々にセーフティーカーの出番が回ってきた。
5周目にレース再開。その2周後に、フェラーリの1台がメインストレートで速度を落としストップしてしまう。電気系のトラブルに見舞われたライコネンは、リタイアという残念な結果でスクーデリア最後のレースを終えることとなった。止まったフェラーリを片付けるためにバーチャルセーフティーカー(VSC)の指示が出たことで、トップのハミルトン、ルクレールらがピットに入りスーパーソフトを選択。VSCが明けると、今季初優勝を狙うボッタスが暫定リーダーとなり、2位ベッテル、3位リカルド、4位にはハミルトンをコース上で抜いたフェルスタッペンを従えて、しばし周回を重ねた。
16周目、2位走行中のベッテルがスーパーソフトタイヤに交換。翌周にはボッタスもピットへ。18周目にはフェルスタッペンも入り、リカルドもそれに続くかと思われたが、レッドブルのもう1台はコースにとどまり続け、2位ハミルトン、3位ボッタス、4位ベッテル、5位フェルスタッペンらの前でしぶとく暫定首位をキープした。この頃、中東には珍しい雨がパラパラと降ってきたのだが、レインタイヤが必要なほどの量ではなかった。
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今年活躍した3人が表彰台、そしてアロンソは……
結局リカルドは、スタートタイヤのウルトラソフトで33周を走り、スーパーソフトに替えて5位でコースに復帰。これでハミルトンがトップに返り咲き、約6秒後方に2位ボッタス、3位ベッテルという位置関係となった。
メルセデスの4年連続となる1-2フィニッシュは、しかし達成ならず。長い第2スティントを走りながら安定したペースを保ち続けるハミルトンとは対照的にボッタスは苦戦を強いられ、35周目になるとDRSを使ったベッテルに抜かれ3位。程なくして今度はフェルスタッペンに襲われ、38周目には4位に後退する。さらにリカルドにも先を越され5位まで落ちたボッタスは、2度目のタイヤ交換を実施し5位のままでゴール。未勝利のままシーズンを終えることとなった。
盤石の走りで完勝を遂げたウィナーのハミルトンと、チャンピオンシップ同様にハミルトンを追いかけ2位となったベッテル、そして果敢なオーバーテイクで3位をものにしたフェルスタッペン。2018年に活躍した3人がポディウムにあがる一方で、表彰台には遠く及ばなかったものの、多くの観客と関係者から喝采を浴びたドライバーがいた。入賞すら望めそうもないパフォーマンスのマシンを駆り、15番グリッドから好走を続けたアロンソは、ポイント目前の11位でフィニッシュ。チェッカードフラッグ後のクールダウンラップで、ハミルトン、ベッテルとともにドーナツターンを披露し、大声援に応えていた。
新旧のチャンピオンがたどり着いたそれぞれのフィナーレ。記録と記憶、双方に残る瞬間だった。
(文=bg)