ジープ・チェロキー リミテッド(4WD/9AT)
幸せな悩み 2018.12.25 試乗記 ジープブランドのモデルラインナップにおいて、日本ではちょっと地味な立場の「チェロキー」だが、中身はなかなかの実力派SUVだ。旗艦モデル「グランドチェロキー」風のマスクを手にしただけでなく、パワーユニットにも手が入るほどの大規模な改良を受けた、最新モデルの出来栄えやいかに!?3.2リッターV6からダウンサイジング
ジープ・チェロキーがマイナーチェンジした。アメリカでは月2万台ペースで売れているジープのベストセラーである。
チェロキーといえば、ボクシーなスタイルの2代目は1990年代後半に日本でもけっこう売れた。“RVブーム”だったこの当時、輸入SUVの世界もおもしろくて、ローバー・ジャパンは「レンジローバー」を500万円台まで値下げして“量販”を狙った。「ディスカバリー」は「三菱パジェロ」と競える300万円台で、同じクルマをホンダが「クロスロード」として売った。そのころに、ワイルドなジープテイストと、ぎりぎり200万円台の円高プライスで人気を博したのが2代目チェロキーだった。「今は昔」の話である。
現行モデルは2013年に登場した5代目。日本仕様はオンデマンド四駆だが、FFプラットフォーム(車台)とフルモノコックボディーを初めて採用したチェロキーである。フェイスリフトや安全/快適装備の充実を盛り込んだ今度のマイナーチェンジでは、エンジンの品ぞろえも変わった。これまでのクライスラー製3.2リッターV6がなくなり、FCA(フィアット・クライスラー)の2リッターと2.4リッターの2種類となった。今回試乗した上級モデル、「リミテッド」(479万円)用の2リッターターボ付きユニットは、「ラングラー アンリミテッド」にも搭載された新エンジンである。
乗り込めば気分は浦島太郎
5代目チェロキーに乗るのは初めてである。この系統のジープで最後に試乗したのは、「リバティ」と呼ばれたダイムラー・クライスラー時代のコンパクトな3代目で、もう10年以上前のことだ。
そんな前歴だから、最新チェロキーに乗り込むと、浦島太郎気分になった。デッカくて豪華だ。ボディー外寸は、「BMW X3」「ボルボXC60」あたりに近い。輸入SUVとしてはコンパクトな部類だが、キャビンはゆったり広い。
ダッシュボードをはじめとする内装の品質感も高い。ボルボXC60のようによそゆきのめかし込んだ雰囲気はないが、気の置けないリビングルームという感じだ。たっぷりした座面のリアシートも見晴らしがよくて居心地がいい。アメ車の革はあまり匂わないはずだが、車内にはレザーシートの芳香が漂う。アメリカでも、グランドチェロキーより売れているのがわかるような気がする。
走りは、なめらかだ。ゴツゴツした硬さがない。四駆SUVの中でも、乗り心地のいいクルマである。走りだしてからしばらくして、気づいた。なめらかで気持ちのいい乗り味には、このエンジンも大きく貢献している。
エンジンを回して楽しめるジープ
チェロキー リミテッドのエンジンは、ラングラーの4ドアと同じ直噴2リッター4気筒ターボである。ラングラーが縦置きであるのに対して、チェロキーは横置きという違いはあるが、元祖ジープ直系のラングラーを若返らせたこのエンジンは、チェロキーでもいい仕事をしている。
272psのパワーは十分以上で、1840kgのボディーに静かな快速を与えている。ZF製の9段ATは、Dレンジでもけっこう引っ張る。シフトインジケーターを見ていると、60km/hでやっと6速に上がる感じだ。早め早めに高いギアに上げて空走させるのではなく、スロットルオフではいつも適度にエンジンブレーキを効かせてくれる。車重の重いクルマをゴーストップの多い街なかで使うにはありがたい躾けだ。
一方、セレクターをMTモードに入れれば、自動シフトアップなしのホールドで回しきれる。オンロードの山道では“エンジンを回して楽しめるジープ”である。しかも、高回転まで回すと、けっこうイイ音を聴かせる。それもそのはず、FCAのグローバルミディアムユニットといえば、アルファ・ロメオの「ステルヴィオ」や「ジュリア」に使われている2リッターターボと血を分けたエンジンではないか。80.0×90.0mmのボア×ストロークも同一だ。
約320kmを走って、燃費は8.5km/リッターだった。とくべつ好燃費とはいえないが、レギュラーガソリン指定であるのはうれしい。
乗る人をリラックスさせる
街なかを走っていると、ときどき「ポコッ」という電子音がした。最後は自動ブレーキを踏んでくれる新安全装備の警報音だが、何を警戒したのか、ちょっとよくわかんないことが多かった。
ACC(アダプティブクルーズコントロール)の追従機能は、自動停止までやってくれるフルスペックだ。なのに、単なる定速走行装置の従来型クルーズコントロールも併存している。というか、ハンドルのスポークに付くスイッチはクルーズコントロールのほうが扱いやすい位置にある。アメリカの空いたフリーウェイでは、そっちだけで十分というユーザーも多いのかもしれない。ACCをセットして前のクルマをロックオンすると、目の前の液晶ディスプレイに前走車のマークが出る。それがカーキ色の「ミリタリー ジープ」なのがおかしい。
新型チェロキー リミテッドは好感の持てる中型実用SUVである。「走る、曲がる、止まる」の偏差値は高いが、「よすぎて苦しい」ことはない。乗る人をリラックスさせるオーラは、アメ車ならでは、ジープならではだ。ジープ指名買いの人にとって最大のライバルは、同じエンジンを積むラングラー アンリミテッドだろう。ラダーフレームのラングラーで思い切ってデジタルデトックスまで行くか、それとも現実路線でチェロキーを取るか、それは生き方の問題です。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ジープ・チェロキー リミテッド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4665×1860×1725mm
ホイールベース:2720mm
車重:1840kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:272ps(200kW)/5250rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/3000rpm
タイヤ:(前)225/55R18 98V/(後)225/55R18 98V(ミシュラン・プライマシー3)
燃費:10.4km/リッター(JC08モード)
価格:479万円/テスト車=482万4560円
オプション装備:フロアマット(3万4560円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:724km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:325.7km
使用燃料:38.3リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:8.5km/リッター(満タン法)/9.3km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。