ファンも驚くカスタムカー
「ジムニーシエラ ピックアップスタイル」はこうして生まれた
2019.01.18
デイリーコラム
さすが本家のクオリティー
過去最高の来場者数を記録し、大盛況のうちに幕を閉じた、“カスタマイズカーの祭典”「東京オートサロン2019」。今年も個性豊かなカスタムカーが顔をそろえた。その中には、話題の新型車をベースにしたものも含まれる。いわば今年のオートサロンの顔ともいうべきモデルである。
今回の主役は、文句なしに新型「スズキ・ジムニー」だ。多くのカスタムショップが、オートサロンでのお披露目を目指してデモカーを製作してきていた。定番のハイリフトなどのオフローダーチューニングに加え、スクエアなデザインを生かし、「メルセデス・ベンツGクラス」や「ランドローバー・ディフェンダー」風に仕立てたドレスアップカーも見られた。いわゆる“なんちゃって”仕様ではあるものの、見事にデフォルメされており、その完成度には舌を巻いた。そんなカスタムジムニーの中で最も注目を集めたのは、やはり本家のスズキブースに展示されたコンセプトカー「ジムニー サバイブ」「ジムニーシエラ ピックアップスタイル」だろう。
ジムニー独自の世界観を突き詰めたというべきジムニー サバイブは、軽自動車のジムニーをベースに、オフロード性能を存分に発揮できるようカスタムを施した車両だ。マットグレーのボディーには、アウターロールケージやプロテクターを装着。ルーフにはスロープ、背面にはジャッキまで備える。まさに道なき道を進むサバイバル仕様だ。インテリアも専用装飾となり、ラゲッジスペースには、車中泊キットが収められていた。
もう1台のジムニーシエラ ピックアップスタイルは、大胆なピックアップトラック仕立て。ベースとなったのは、小型車となるジムニーシエラ。メーカーの作だけにバランスも良く、このまま市販化できそうなスタイルだ。ボディーのウッドパネルにライト付きロールバーを備え、往年のオフロードトラックをほうふつさせる。インテリアは、標準車とは異なるベージュ色が採用されており、鮮やかなチェック柄のシートが目を引く。ピックアップ化のために2シーター化されているが、シート後方にもスペースがあり、荷物が収められるようになっている。どちらもジムニー好きの心をわしづかみにする仕様だ。
これらのジムニーはどのように生み出されたのだろうか? これらのコンセプトカー開発でデザインの統括を行った、スズキ 四輪デザイン部の宮澤貴司さんに話をうかがった。
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練りに練ったカスタム案
――2台のコンセプトカーの構想や開発は、いつ頃スタートしたのでしょうか?
宮澤:実は、新型ジムニー発売前の段階からスタートしていました。ジムニーには多くの可能性があり、われわれも大好きなクルマです。なので、開発中もいろいろな夢が広がってきます。それを「オートサロンの舞台なら表現できる」と考え、今回のコンセプトへとつなげていきました。
――2台の開発コンセプトを教えてください。
宮澤:サバイブは、「ジムニーの高い走破性を好むユーザーが、より過酷な環境に挑みたくなる気持ち」をデザインで表現しました。アウターロールケージやプロテクターなどの装備は、ダミーではなく“本物”の素材を使っています。また専用のグレーのマットカラーは、傷さえも映えるようにと採用しました。ジムニーらしいクロカンの世界を強調すべく、悪路走破で武器となるより軽いジムニーをベースとしました。ピックアップスタイルは、「日常から趣味まで幅広く使える頼れる相棒」を目指しました。田舎暮らしとDIYを満喫できるように、気軽にいろいろな物が詰める楽しさを表現しています。どちらにも共通するのは、ジムニーシリーズの魅力をより引き出すモデルに仕立てていることです。ジムニー愛好家などの意見も積極的に取り入れています。
――ジムニーファンも納得の仕上がりというわけですね。
宮澤:コンセプトカーなので、各部の機能検証などは行っていません。ただ本物のクルマには本物の装備を与えなくてはチグハグな印象を与えてしまいますから、細部までこだわって仕上げています。サバイブは、本格クロカンのキャラクターを突き詰めたものですが、ピックアップスタイルは、ライフスタイルを重視しています。その点は、快適性についても向上を図った新型の魅力を強調したといえます。インテリアも遊び心のあるおしゃれなものとしています。
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数cmレベルのバランスが大事
――新たな価値を表現したピックアップスタイルについて教えてください。
宮澤:インスピレーションは、かつて存在したジムニーのピックアップ仕様から得ました。そういう意味では、これもジムニーの持つ世界観から生まれたものです。荷台は、軽トラック「キャリイ」のものを流用。全長はジムニーシエラ比で300mm延長しています。軽規格のものなので、ジムニーで製作することも可能でしたが、それだと荷台の大きさが強調されてしまう。シエラの持つオーバーフェンダーや大径タイヤなどと組み合わせることで、バランスの良いデザインを目指しました。
――製作にあたっては、どこに苦労されましたか?
宮澤:やはりデザインのバランスですね。荷台のために全長は伸びていますが、ホイールベースはベース車のまま。単純に荷台を小さくすれば、バランスは良くなりますが、それでは荷台の存在意義が薄れてしまう。そこでCGやモックアップで数cm単位のわずかな調整を行っているのですが、ちょうどいい落としどころを決めるまでが大変でした。
――ピックアップスタイルを市販化する可能性は?
宮澤:市販化を望む声をたくさん頂戴しているのは、うれしい限りです。ただ、これはあくまでコンセプトカーであって、市販化は考えておりません。でもわれわれは、これらのコンセプトカーを見ていただき、「自分ならこんな風に使う」というお客さまのイメージが広がればうれしいと考えています。もちろん、会場で頂いたお客さまの意見は、今後のジムニー開発に活用していきたいと思います。それに、思い切ったコンセプトカー2台を提案することで、今年のオートサロンでスズキが掲げたテーマ「クルマ 本気 ホビー」に応えられたと考えています。
完成度が高いだけに、市販化へGO! という話がうかがえなかったのは残念だ。しかしながら、スズキの技術者たちがジムニーを愛し、あらゆる可能性を想像しつつ開発していることはわかった。
昨2018年は、軽自動車仕様のジムニーのみで前年比155.3%となる2万0942台を販売。軽自動車の年間販売台数では、15位にランクインした。2019年は増産体制に入るが、同車はまだまだ多くの納車待ちを控える人気車だ。SUVブームで本格クロカンにも注目が集まっているとはいうものの、世界広しといえど、この価格で手に入るクロカンはない。ジムニーは唯一無二の存在であり、高性能かつ快適性が向上した新型は、世界的な需要もより高まっていくだろう。安定して多くの台数が売れるようになれば、ひょっとして、サバイブやピックアップスタイルも……などという淡い期待も湧いてくる。その実現をあきらめるのは、時期尚早といえるかもしれない。いや、そう願おう。念ずれば、なんとやらである。
(文=大音安弘/写真=webCG/編集=関 顕也)

大音 安弘
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