アルファ・ロメオ・ステルヴィオ ファーストエディション(4WD/8AT)
名門復活への序曲 2019.02.20 試乗記 予想以上の利便性とファン・トゥ・ドライブ――雪景色の北海道で試乗した「アルファ・ロメオ・ステルヴィオ」は、このブランドが初めて手がけたSUVとは思えない完成度の高さを見せつけてくれた。見た目の割に実用的
新千歳空港を目指して、雪の北海道をアルファ・ロメオ・ステルヴィオで行く。といっても、ハンドルを握っているのは『webCG』スタッフのSさんで、リポーターの自分は後ろでふんぞり返って……否、後席の居住性チェックにいそしんでいる。
ステルヴィオというと、スタイリッシュなデザインとハンサムな“ジュリア顔”が話題だけれど、リアシート、広いですね。足元、頭部まわりとも、スペース面で不満がない。座面の高さも適正だ。シート中央もクッションは硬めだけれど、センタートンネルの床面からの盛り上がりは予想より控えめで、まずは実用的といえる。強く傾斜したリアガラスと、軽快なサイドのウィンドウグラフィックに幻惑されがちだが、ステルヴィオのキャビンはスクエアな断面形状で、しっかりと室内空間が取られる。新型SUVの、乗車定員5人にウソはない。
後席背もたれの中央部分はアームレストになっていて、弧を描くように引き出すと、先端にカップホルダーが2つ。深さがない代わりに半球型の中空ゴムが3カ所に設けられ、多少太さが違っても、上手にペットボトルを固定できるよう工夫されている。うーん、アルファ・ロメオの新型車に乗って、「後席カップホルダーのデキ」に感心する日がやってこようとは!
FRのような四輪駆動
イタリア北部にある峠道から名を取ったSUVは、FCAことフィアット・クライスラー・オートモービルズ渾身(こんしん)のニュープラットフォーム「ジョルジョ」を用いた第2弾モデル。プレミアムブランドに必須とされる、FR(フロントエンジン、リア駆動)を基本とした車台で、ステルヴィオのホイールベース2820mmは、ジョルジョ第1弾たる4ドアサルーン「ジュリア」と同寸。ステルヴィオのボディーサイズは、全長×全幅×全高=4690×1905×1680mmで、「ポルシェ・マカン」や「BMW X3」と同等だ。
もちろん、ステルヴィオは4WDシステムを備える。縦置きされたアルミエンジンとリアのディファレンシャルギアをつなぐプロペラシャフトはぜいたくにもカーボンファイバー製で、それはともかく、アルファのSUVは、電子制御される多板クラッチを介して、必要に応じて前輪に駆動力を分配する。通常時の前:後=0:100から、クラッチを圧着することで、最大50%のトルクをフロントアクスルに送ることができる。
オンデマンド式の四輪駆動車にして、あたかもFRモデルのようなスポーティーなハンドリングがステルヴィオのジマン。とはいえ、運転者が、自分が乗っているクルマの駆動方式を意識するのは、走行の安定が崩れたときだ。強く加速したり、ステアリングを切ったりしたときに、うっすらと後輪駆動を感じる。多くの場合、いわば無意識のうちに、FR的なスポーティーさ、スムーズさを享受している。より積極的にFRらしさを味わおうとすると、クルマの挙動を乱してやる必要があって、つまり、それが雪道ドライブや雪上テストを実施する理由(のひとつ)である。
ATで満たされるアルファ
「冬でも感じる、熱き思いがここにある」という情熱的なフレーズが掲げられた「FCAジャパン・ウインターチャレンジ2019」こと北海道試乗会。そこで供されたステルヴィオは、2リッター直4ターボ(最高出力280ps、最大トルク400Nm)を積んだ「ファーストエディション」だった。足元には、ピレリの「アイス アシンメトリコ」という、ちょっと珍しい銘柄を履く。日本市場のニーズに合わせて開発されたスタッドレスタイヤだ。235/60R18のサイズは、「ステルヴィオ ラグジュアリーパッケージ」の標準仕様と同じ。
早速ALFA DNAドライブモードのデフォルト「N(Natural)」で走り始めると、なるほど、ステルヴィオの前後重量バランスは良好で、素直に曲がり、穏やかに止まる。8スピードのオートマチックはスムーズで、自然。シフトのタイミングもいい。ステルヴィオは、MTが恋しくならないアルファ・ロメオだ。
試しにステアリングを切りながらちょっと乱暴にスロットルを開けてみると、リアが「やや不安定になったか?」と感じる間もなく、トルクがフロントに移され、後はただカーブの外側に出ていこうとするだけ。いわゆるプッシングアンダーで、スロットルを戻せばすぐに元のラインに戻るから、安心感が強い。
トンネルコンソールに設けられたDNAのダイヤルを「A」モードに合わせると、エンジンの出力が抑えられ、ギアもサッサと上げられていく。乱暴な操作は元から断たれるので、挙動の乱れとはほぼ無縁。AとはAdvanced Efficiencyの略で、つまりは燃費モードだけれど、これなら一般的なスノーモードの代用にもなると思った。
積極的に乗りたくなるSUV
やはりステルヴィオの性格を端的に示すのが、「D」ことDynamicモードだ。ステアリングのパワーアシストや、挙動安定化のための電子制御が抑えられ、またシフトやブレーキのレスポンスが俊敏になる。ギアを固定してスロットルを開けると、オオッ! 赤いSUVは軽くリアを振り出して、ドライバーを喜ばせる。凍っていない雪上では、手遅れになる前にスタビリティーコントロールが介入してくれるので、むちゃをしなければ心臓が縮まることはない。クローズドの雪上コースでステルヴィオのFRテイストを大いに堪能してから、一般道へ出る。路面は、「乾いた」と表現したくなるようなパウダースノーに覆われている。慣れない雪道でも、FRテイストあふれるアルファのSUVを駆るのは楽しい作業だった。
それにしても、実質的にアルファ初のSUVとなるステルヴィオの完成度の高さは、どうだろう! かつてのアルファに見られた、エキセントリックなデザインや癖のあるドライブフィールはすっかり影をひそめ、ニューモデルはスタイリッシュで、実用的。積極的にステアリングホイールを握りたくなるSUVに仕上がっている。空港で試乗車を返す段になって、「そういえば右ハンドルだったな」と思い返すほど、ドライビングポジションにも違和感がなかった。
1990年代に、真剣に倒産がささやかれていたポルシェは、SUV「カイエン」の成功で奇跡的な復活を果たした。昨今、単発のモデルでは一時的に注目されるけれど、ブランドとしてはなんだか存在感を失っていたミラノの名門。それが、ジョルジョベースのニューモデル群で勢いを取り戻すとしたら、クルマ好きとして、こんなにうれしいことはない。ステルヴィオの生産地は、ローマの南、ナポリの北に位置するカッシーノだけれども。
(文=青木禎之/写真=FCAジャパン、webCG/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
アルファ・ロメオ・ステルヴィオ ファーストエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4690×1905×1680mm
ホイールベース:2820mm
車重:1810kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 SOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:280ps(206kW)/5250rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2250rpm
タイヤ:(前)235/60R18 107Q M+S/(後)235/60R18 107Q M+S(ピレリ・アイス アシンメトリコ)
燃費:11.8km/リッター(JC08モード)
価格:689万円/テスト車=726万0656円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアマット(4万3200円)/ETC車載器(1万8144円)/スタッドレスセット<1台分4本セット>(30万9312円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:1万1373km
テスト形態:トラックインプレッションおよびロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。